• 2016/01/25
  • Edit by HARUMA YONEKAWA

第2回コクリ!で語り合いたい問い(1)なぜ僕らは、大崩壊の危機が目前に迫っていても、これまで通り日常が続くと思ってしまうのか?

数名のメンバーが、いまコクリ!キャンプで語り合いたいと思う「問い」をご紹介していきます。

第2回コクリ!キャンプは、互いに深くつながったうえで、「これから日本に共創型社会を創っていくために、いま解決したい社会的課題」を皆で出し合い、その本質や解決方法などを皆で対話する場にしたいと考えています。では、コクリ!キャンプに参加するコクリ!メンバーの方々は、いまどのような課題に向き合っているのでしょうか。皆さん、興味のあるところだと思います。最初のご自身の問いを考えてくださったのは、「いのさん」こと、井上英之さん(INNO-Lab International 共同代表/慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘准教授)です。

※この問いは、あくまでもいのさんが現時点で抱いているもの。コクリ!キャンプで実際に対話するテーマは、当日に皆で決めていきます。ぜひ皆さんも、当日は「問い」を持ち寄ってください。

Q : なぜ僕らは、大崩壊の危機が目前に迫っていても、
これまで通り日常が続くと思ってしまうのか?

経済の衰退、資源の枯渇、気候変動、社会的な分断と戦争、生物種の大量絶滅…。冷静に考えると、僕らはいくつもの面で、これまでにない「大崩壊の危機」を迎えており、地球・生態系・人類・社会の持続可能性が脅かされています。日本だけでみても、国家財政、少子化、原発など、何十年も前から指摘されてきたのに、まったく解決されていない危機的な問題がいくつもあります。しかし、そうした問題があるにもかかわらず、私たちは日々焦ることもなく日常生活を続けている。いったいこれはどういうことなのか。なぜ僕らは、大きな危機が目前に迫っていても、これまで通りに日常が続くと思ってしまうのか。このことが、とても気になっています。

井上英之さん

危機に心を向けるには、まず自分自身としっかりつながること

ジョアンナ・メイシーとクリス・ジョンストンが書いた『アクティブ・ホープ』の第4章に、800年以上前、ヨーロッパ中世に作られた聖杯伝説の一部である「パーシヴァルの物語」が紹介されています。詳しくはぜひこの本を読んでいただきたいのですが、「大きな苦しみが認識されず、人々がまるで問題など何もないかのように普段通りに振る舞う」状況を目の前にして、円卓の騎士パーシヴァルもまた、「本当はそうでないことがわかっているのに『万事は順調である』というふり」をしてしまいます。これはいまの僕らとまったく同じです。

その次に、『アクティブ・ホープ』は、心理学者ビブ・ラタネとジョン・ダーリーの実験を紹介します。この実験では、部屋に煙のようなものが流れ込んできたとき、「一人きりで部屋にいるときは素早い反応を見せ、部屋を出て助けを求めた」人が多いのに、部屋の中に数人いると、多くが煙の充満後も動かず、「実に三分の二以上の人たちが、研究チームの一人に『救出』されるまで、たっぷり六分間も作業を続け」たのです。心理学の実験でも、多数の人が同じ状況を認識している場合は警戒心が発動されないという現象が見られたわけです。僕らには、どうやらそうした心理的な傾向があるようです。

この本では、それが起きてしまう主な理由を7つ挙げたうえで、解決策として「つながりを取り戻すワーク」(Work that Reconnects)を勧めています。僕も、一人ひとりがこうした危機に心を向けるには、まず「自分自身としっかりつながる」ことが大切だと感じています。実は、僕らは普段、95%を無意識的に意思決定し、自動的に行動しています。そのなかには、過去の経験から身についた所作や思い込みや偏見がたくさん含まれている。そこには、「地球温暖化はそこまで大きな問題ではない」「日本の財政赤字は皆が騒いでいないからまだ大丈夫」「原発は専門家に任せていればいい」といった思い込みもあるはずです。自分自身とつながるとは、こうした無意識に気づき、観察し、再考することです。そのためにはまず何より、生活のスピードを一部でも緩めることです。

社会システム変革の根本には、ライト・ライブリーフッドがある

シューマッハ・カレッジで料理中

僕はいま、サティシュ・クマールが創った「シューマッハ・カレッジ」に年に3回ほど赴いて、イギリスの田舎に世界中から集まる20数名と一緒に、「ライト・ライブリーフッド」を学んでいます。ライト・ライブリーフッドとは、直訳すれば「正しいなりわい」で、仏教の八正道の一つ、「正命」を意味する言葉です。例えば建築家なら、クライアントと一緒に建築物のビジョンを描き、それに沿って図面を書き、材料を選び、心を込めて建築するのが、ライト・ライブリーフッド。対極にあるのは、大企業の歯車となって建築に携わり、相手や世界とつながらないままプロジェクトを進め、終わったら建てたものをすっかり忘れてしまう姿勢です。この説明でお気づきの方もいると思いますが、ライト・ライブリーフッドとは、日本に昔から根づく職業観に近いものです。

ライト・ライブリーフッドが重視するのは、いま自分のすることに心をおいて、日常を大事にすることです。仕事の合間に、料理や皿洗いや散歩をして呼吸が深くなると、体が緩んできて、中から力が湧いてくる。これがライト・ライブリーフッドの第一歩です。シューマッハ・カレッジで、僕らは料理、料理の後片づけ、掃除をチームに分かれて行います。学びのプログラムのあいだに、他愛ない話をしながらニンジンを切ったり、掃除機をかけたりするんです。すると、誰かが調理してくれたからこの料理がある、掃除してくれたからこの教室のきもちよさがあることに気づく。感謝が生まれてくる。楽しく、気持ちの良いプロセスです。このプロセスのなかで、自分が普段どのような考え方、意思決定や行動をしているかに気づくことができます。

大学で「マイプロジェクト(マイプロ)」に取り組む学生たち

ピーター・センゲとダニエル・ゴールマンは『The Triple Focus』のなかで、自分自身につながると、他人につながり、さらに外のシステムとつながって、最終的には自分に返ってくるというサイクルを述べています。例えば、寂しい気持ちを自己受容できると、相手の寂しい気持ち、ホームレスの状況などがわかるようになる。すると、ホームレスが単に収入を得るだけでなく、人とのつながりを取り戻し、人としての尊厳を回復させていける『ビッグイシュー』の仕組みなどを生み出せるようになる。さらには、日本における外国人や女性、その他のマイノリティにも応用できる新たな「変化の法則」を見つけられるかもしれません。相手を、自分と切り離した客観的な対象としてのみとらえ、結果、上から提供してしまう従来のビジネスや国家の方法論では、こうしたアイデアや法則にはなかなか届きにくい。

大学で「マイプロジェクト(マイプロ)」に取り組む学生たち

誰もが、自分とつながることができれば、他人とつながり、世界とつながって、目の前の危機に気づくことができる。気づいたら、次に「小さな行動」を起こすことが大事です。僕は大学の授業などで、学生たちが「マイストーリー」を語って互いを受容したうえで、小さな行動「マイプロジェクト」を起こすことを実践してもらっています。その小さな行動が、社会システム変革の第一歩となるのです。その根本には、いつもライト・ライブリーフッドがあります。

人間界と自然界の法則には、本来違いがないはず

昔の僕は、「自分が世界を変える」って、意気込んでいました。ですが、先日知ったのですが、英語の「develop」はもともと、自動詞なんですね。「開発する」という他動詞ではなく、「envelop」の逆で、閉じていたものを「開いていくこと」を指しています。人は、育つのを見守り、ささえることはできるけれど、育てることはできない。種を植え、水を撒くことはできるけれど、成長させることはできない。つまり、誰かが世界を「変える」ことなどできないんです。できるのは、相手が成長していくこと、世界が変わっていくことを促すデザインを工夫することだったんですよね。

シューマッハ・カレッジの生みの親、サティシュ・クマールのスピーチ

だから、サティッシュは徹底的に心をこめてやりたいことを実践し、やりたくないことこそ諦めるんだと言っています。しかし、やりたくないことを諦めるのは、実は難しいことです。恐れや不信感があると、手放しができません。思えば、自分が世界を変えると思っていた頃、僕の心には自分と他人に対する不信感がありましたし、自分がすべてやらなきゃ、って思っていました。いまは、以前に比べれば、ずいぶん自分や他人や世界とつながっていると思いますが、いまだにやりたくないことを手放しできたり、できなかったり。そんな、うまくいかない自分も受容しながら暮らしています。

サティシュ・クマールとシューマッハ・カレッジの仲間たち

世界はこの瞬間いつも不完全で、同時に、不完全なことが完全なのではないか。僕はそう考えています。風は地表の温度差によっていつも流れ、その流れ全体で調和がとれている。人間界と自然界の法則には、本来違いがないはずです。生物と非生物の境界が曖昧なことと、僕らの経済や社会には関係があるはずですし、生物がいつまでも成長しないように、企業のサイズも永久には成長しないはずです。もし、企業がどこまでも成長するのが今の資本主義の前提だとしたら、何かちがうのかもしれない。一人ひとりが、生来の自分に気づき、他者とつながり新しい行動を選択していけば、大きな危機だって未来を創出する機会になっていくのではないかと思います。皆さんはいかがでしょうか?

コクリ!キャンプは、普段より深い呼吸をしてスピードを緩め、自らの無意識にも目を向けて、同時に多くの人とつながり、さまざまなことに気づいて、新たな行動を起こしていく絶好のチャンス。ぜひ皆さんと、こうしたことをお話しできたらと思っています。

井上英之(いのうえ・ひでゆき)
INNO-Lab International 共同代表
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘准教授

2001年よりNPO法人ETIC.にて、日本初の、若手むけソーシャルベンチャー向けプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、社会起業家の育成・輩出に取り組む。03年、社会起業むけ投資団体「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」を設立。05年より、慶応大学SFCにて「社会起業論」などの、実務と理論を合わせた授業群を開発。09年、世界経済フォーラム「Young Global Leader」に選出。12~14年、日本財団国際フェローとして、米国スタンフォード大学、クレアモント大学院大学(P. Drucker School of Management) に客員研究員として滞在した。近年は、マインドフルネスとソーシャルイノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組む。

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

 

コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

 

コクリ!の深い話(12)AIが「持続可能で幸せに暮らせるのは地方分散型社会」だと予言した ●広井良典さん×日立京大ラボ

 

「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

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