• 2015/07/09
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コクリ!レポート(1)おぶせ知恵のわっ!プロジェクト 地域の心の拠りどころとして「新しい寺子屋」を創り、子どもたちの可能性を引き出す

第1回コクリ!キャンプをきっかけに、新たなプロジェクトが生まれました。

◆アクション/2015年4月、小布施・浄光寺にて、林映寿さん(浄光寺副住職)、大宮透さん(慶應SDM・小布施町ソーシャルデザインセンター研究員)が中心となり、子どもたちがさまざまな人の面白い生き方を知る「おぶせ知恵のわっ!」第1回を開催。

◆根っこの想い/●浄光寺を、地域と共に栄える場にしていきたい。 ●地域の子どもたちの能力を伸ばし、可能性を最大限に引き出したい。

◆北極星/●浄光寺を、地域の人々が日常的に集う場所、心の拠りどころにする。 ●2017年度を目処に、小布施に新しい高校を創る。

〈プロジェクト内容〉

「面白い生き方をしているオトナ」二人が、
親子の前で語り明かした4時間

良縁成就として知られる長野県小布施町の浄光寺は、あることでも有名になりつつあります。「スラックライン」。2007年にドイツで開発され、世界中で瞬く間に広まっている新しいスポーツです。いま、浄光寺は、日本のスラックラインのメッカとなっているのです。境内の一角が「浄光寺スラックラインパーク」となっており、誰でも無料でスラックラインが楽しめます。ドイツGIBBON社とプロ契約を結ぶ選手(小学生~高校生)を2名、ドイツElephant社とプロ契約を結ぶ高校生を2名、すでに輩出しています。

その浄光寺で、第1回コクリ!キャンプをきっかけに、新たなプロジェクトが生まれました。山のそばの週末学校「おぶせ知恵のわっ!」です。2015年4月18日に開催された「第1回・おぶせ知恵のわっ!」に伺ってきました。

第1回・おぶせ知恵のわっ!は、4月・花盛りの浄光寺で行われました おぶせ知恵のわっ!の主役は、子どもたちです。彼らがさまざまな大人の人生や考え方を知り、話すことが、将来への糧になる。ここはそのために用意された場です

当日、浄光寺の本堂には、小学生から親世代まで30名ほどが集合。なかには、親子で参加の方々もいらっしゃいます。本堂の一面に、ホワイトボードと大きなスクリーン。まさに新しい形の「寺子屋」といった趣です。

「松代若者会議」を企画、運営する小山修也さん/有限会社カネマツ物産 信州伝統野菜営業部 主任

「第1回・おぶせ知恵のわっ!」は、長野と東京で働く2人の「面白い生き方をしているオトナ」が、自らの半生をとおして「生きる上で何を大事にしているか?」を話した後、皆で対話するプログラム。最初のゲストは、小山修也(のぶや)さんです。長野市松代町で、100年続く八百屋「カネマツ物産」を継いで、伝統野菜の栽培と販売を始め、それらを活かした商品開発を進め、さらには、自ら「松代若者会議」を企画、運営し、松代を元気にしようと積極的に取り組んでいらっしゃいます。小山さんが生きる上で大事にしているのは、「チョー面白いこと」と「チョーカッコいいこと」。例えば、大学時代には小学生に社会の仕組みを教える「キッズビジネスタウン市川」を仲間たちと企画、実行し、現在は国の支援を得られるほど大きなイベントになっているそうです。長野で高校講師となってからは、大学から熱中してきたレゲエミュージシャンとしても活動。家業の八百屋は、子どもの頃は手伝うのが嫌だったけれど、高校講師を辞めて継いだ後は、「地球のためになる仕事」と感じているとのこと。「好きなことを追求してきた人生」という言葉が印象的でした。

三田愛さん/リクルートライフスタイル事業創造部 じゃらんリサーチセンター研究員

二人目は、コクリ!プロジェクトの中心人物でもある三田愛さん。リクルートに入社して以来、一貫して「一人ひとりの可能性を最大限にしたい」という想いで疾走し、現在はコクリ!プロジェクトに邁進する三田さんの原体験は、高校のとき、体育祭の学年対抗パフォーマンスのリーダーに名乗りを上げ、モチベーションの高い人たちに自らどんどん声を掛けてコアチームを再結成し、学年中をまとめ上げて大差で優勝したこと。また、3歳のときに独りでバスに乗ってプールに行って以来の旅好きで、大学時代は1カ月間、インドや南米を一人で旅行していた強者バックパッカーだったそうです。国際会議で仲良くなった世界中の人々の家を泊まり歩き、旅費を抑えていたといったエピソードも話していました。現在、コクリ!プロジェクトのために日本全国を渡り歩く生活は、この頃とあまり変わらないようです。

二人の話が面白く、あっという間に時間が過ぎていきました。子どもたちから二人に質問し、参加者同士で少し対話をしたところで終了。外はもう夕暮れです。「おぶせ知恵のわっ!」は、今後、1カ月に一度くらいのペースで開催していくそうです。

〈インタビュー〉

3年後、小布施に創る
新しい高校のカタチが見えてきた

「おぶせ知恵のわっ!」終了後、仕掛け人の映寿さん(林映寿さん)と大宮さん(大宮透さん)にお話を伺いました。

――「おぶせ知恵のわっ!」は、どのような経緯で始めたのですか?

大宮 2月のコクリ!キャンプが終わってすぐ、3月頭に小布施駅前の喫茶店で映寿さんと話して、月1回くらいの頻度で中学生向けプログラムを始めようと決め、早速4月からスタートしました。

右:大宮透さん/慶應SDM・小布施町ソーシャルデザインセンター研究員

実は数年後に、新しい高校のような場を小布施に創りたいと考えています。高校生という多感な時期に、小布施という場所で様々な体験をしながら、それぞれが自分自身の特技ややりたいことを見つけられるような場です。今の小布施には高校がありません。地域に愛着をもった次世代をこの町から育てていくことは、将来の地域づくりにも繋がると思っています。

そんな背景もあり、2013年から「HLAB小布施サマースクール」というプログラムを実施してきました。「ボーダーを越えたリベラル・アーツ」をコンセプトに定めた教育・国際交流プログラムです。ただし、HLABは毎年1回だけの場づくりだったので、日常的な場をもっと創っていきたかった。それが映寿さんの思いとも繋がり、「おぶせ知恵のわっ!」プロジェクトとしてスタートできた、という感じです。

これまでの小布施での取り組みを通じて、創りたい学校のカタチが見えてきたような気がしています。教科教育を効率的、合理的に進める一方、「対話型授業」の時間を増やし、学生同士や町の内外の人々との対話をとおして、自分がこれからチャレンジしたいこと、目標や夢を考える機会を積極的に提供していきたいと考えています。「おぶせ知恵のわっ!」は、その対話型授業の原型・実験の場の一つとして位置づけています。

浄光寺を、コンビニにも負けない存在にしたい

――映寿さんは、どのような想いがあったのでしょう?

映寿 あるとき、子どもたちがスラックラインに夢中になっている横で、ある人が「スラックラインばかりやっていても、将来、生活していけないだろう」と言ったことがありました。この例に限らず、僕ら大人のほうが、ついつい子どもたちにリミッターをかけて、彼らのモチベーションを削いでしまうことが多いように思います。ですが、本当にスラックラインで生活できないかどうかは、実は分からないことです。それなら本人たちに考えてほしい、そして自分で進路を決めてほしいと僕は思います。そのためには、彼らが小布施内外のいろんな「面白いオトナ」に会って、さまざまな職業や働き方、考え方を知る「おぶせ知恵のわっ!」のような場が必要だと、以前から感じていました。

左:林映寿さん/浄光寺 副住職

その根っこには、宗教離れが進んで久しい現代だからこそ、浄光寺を「地域の人々が気軽に訪れて、元気になれる場」にしていきたいという想いがあります。荘厳、偉い、敷居が高いといった従来のお寺のイメージを取っ払って、コンビニにも負けない存在にしたいのです。誰でも遊べるスラックラインパークを創ったのも、そのためです。浄光寺は薬師寺で、昔は人々が病気を治すためにやって来た場でした。今の日本では、病気になった人はお寺ではなく、病院に行きますが、代わりに浄光寺は、長い目で人々の幸せを支援する「心の拠りどころ」になれたらと考えています。

真言宗の開祖・空海は、仏教を広めただけでなく、教育や芸術、土木などにマルチな才能を発揮した方でした。お寺はもともと長い間、様々な形で地域と共に栄えてきたのです。スラックラインパークなどに近所の人々が集うのが、むしろ日本古来のお寺の姿。ですから、お寺が子どもの可能性を最大限に引き出す「おぶせ知恵のわっ!」のような取り組みをするのも、ごく自然なことなのです。

〈取材を終えて〉

江戸時代、子どもは地域で協力して
一人前に育てたという

江戸時代の寺子屋は、実はお寺にあったわけではないのですが、読み書きだけでなく、礼儀作法なども教える場だったといいます。さらに、多くの町や村には、寺子屋のほかに「若者組」という組織があり、地域の子供たちを、地域一体となって一人前に育てていたのだそうです(高橋敏『江戸の教育力』)。

今回、最も印象に残ったのは、浄光寺のような場を中心として、地域が協力して子どもを育てていく力でした。本当に「新しい寺子屋」が始まったのだと感じています。江戸時代とは違い、今なら例えば、今回のように都市部からゲストを呼ぶといったことも簡単に実現できます。ITを使えば、海外とのコミュニケーションだって難しくありません。その気になれば、子どもたちのためにできることはたくさんある。その可能性を強く感じました。

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