大島正幸さん(木工房ようび 代表・職人)
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山川知則さん(株式会社文祥堂 CSR事業室)
第1回コクリ!キャンプから、2カ月以上経ちました。タネビストの皆さんは、コクリ!キャンプでの出会いを活かし、それぞれの持ち場で少しずつ“種火”を大きくしています。そのほんの一部を“タネビ対談”としてご紹介していきます。
第二弾は、以前から知り合いだったお二人です。林業で一躍有名になった岡山県西粟倉村の家具職人・大島さんと、間伐材をオフィス空間で活用する「ニッポン木環プロジェクト」を動かしている山川さん。コクリ!キャンプで再会して、半年前に交わしたアイデアの“火種”が再びメラメラと燃え上がったのだとか。その火はなぜ生まれ、どこに向かうのか。お二人の“根っこの想い”と“北極星”を伺いました。 ※インタビュー日/2015年3月23日
残念なのは、5時間があっという間だったこと
――コクリ!キャンプの感想から始められたらと思います。
山川 会場に入った瞬間、中央の大きなモビールを見て、本当にキャンプだ!と驚き、数時間後には、まったく知らない人たちとすぐに違和感なく、深く話し合えたことに驚いていました。ストーリーテリングでは、お相手の古野さん(古野庸一さん)が、お話をしながら涙を浮かべていらっしゃって、そのオープンマインドにこちらも感動したのを覚えています。あんな本気の場づくりは初めて見ました。居心地が良かったです。
残念なのは、5時間があっという間に終わってしまったこと。あの場にもっと長くいたかったですね。次はぜひ、「合宿」をお願いしたいです。もっと一人ひとりの北極星をしっかり把握して、深く話せたら、一緒にできることがたくさん見つかりそうな気がします。
大島 合宿、いいですね。個人的には、コクリ!キャンプが、シンクタンクではなく「アクションタンク」になっていってくれたら嬉しいです。コクリ!キャンプから、画期的なアクションに真剣かつ楽しく取り組むキーパーソンが次々に生まれたら、多くの人が集いたい場所になるんじゃないでしょうか。
僕は、ストーリーテリングでこちらが泣いてしまいました。ランサーズの秋好さん(秋好陽介さん)の話を聞いたのですが、とても苦しい体験をポジティブに話されているのを聞いていたら、涙がこぼれてきました。
コクリ!キャンプは、僕にとっては全体的に「異常な場」でした。例えば、僕が「家具に光の粒が見えるんです」と言ったら、皆さんごく当たり前のように理解してくれるばかりでなく、その力を使って、どのような新しいことができるか、一緒に考えてくれたんです。こんなことは、今までほとんどあり得ないことでした。常識にとらわれずにゼロから考えられる人、自分の知らない世界を見せてくれそうな人、ワクワクする未来を一緒に創っていけそうな人が、ワンサカ集まっていました。これはのんびりしていられない。自分にムチ打ってダッシュしなくてはと強く思いました。主体性が強い場でもあって、「それ、いいね」と客観的に言うのではなく、「じゃあ、どうする?」と自分ゴトで考える人が多かった。それがまた快かったです。
日本には、まだまだ「バカ」の上がいた!
――コクリ!キャンプの後、ご自身に変化はありましたか。
大島 一言で言うと、明るい未来へ向かう力を信じられるようになりました。コクリ!キャンプに来ていた人たちが、バカみたいに可能性を信じたら、とんでもない将来が実現できるんじゃないかと思っています。その点、自分はまだまだ「コバカ」でした。
――コバカ? どういうことですか。
大島 僕は日々、一種の思考実験として、「重力がない世界ではどんな家具が求められるか」を考えてきました。例えば、無重力の世界では引き出しは成立しません。あれは重力のある世界のツールなんです。無重力世界の家具のことだけで12時間くらい話せるほど、思考を積み重ねてきました。
こんなバカなことを日夜考えているのは、オレくらいだろうといい気になっていたのですが、コクリ!キャンプでカヤックのヤナさん(柳澤大輔さん)と話して、打ちのめされました。日本には、まだまだ上がいると思い知らされました。光の粒子の話も、無重力家具の話も、当たり前のように受け答えされるのです。重力のない世界の家具を考えるというのは、まだまだコバカの域で、「オオバカ」はきっと何もない世界の家具、例えば、木も鉄も何もない「火星の家具」を考えるんだろうと今は思っています。いや、これでもきっと、ヤナさんなら顔色一つ変えずに話を聞いてくれそうですけど。
山川 オオバカですか。大島さんは、今でもすでに、塗料の安全性を確かめるために自分で食べてしまうくらいの「変態」なのに、さらに変態になろうとしているんですね。楽しみだな。
僕は、田坂さん(田坂広志さん)がお話しされた「事物の螺旋的発展」という言葉に勇気づけられました。自分はオフィスで使う木工家具に取り組んでいるのですが、メンテナンス性やコストの面から、木工家具は久しくオフィス家具のメインストリームから外れてきました。でも、木は人間にとって直感的、根源的に心地良いものだから、絶対になくならないし、いずれ近いうちにオフィス家具の世界にも戻ってくると確信しています。ただし、戻ってくるときは、未来の社会に合った形になっているはず。そこに僕も関わりたいと思っています。
相談ごとや会う約束は、7つか8つある
――この1カ月で、コクリ!キャンプで出会った人と連絡を取っていますか。
山川 何が一緒にできるのか分からないんですが、偶然から起こることも大切だと思って、知り合った方とは積極的に会うようにしています。例えば、藤井さん(藤井麗美さん)、山田さん(山田崇さん)と会いました。藤井さんはまったく新しい場づくりを始めようとされていて、面白そうだったから会いに行ったんですが、いつの間にか藤井さんにコーチングしてもらっていました。(笑)
塩尻の山田さんはとても魅力的な人で、すぐに心も体も(?)許してしまいそうになります。(笑)来年ちょうど、木育サミットが塩尻で開かれる予定で、木のおもちゃを作っている企業など、いろいろと教えていただきました。僕の方も、何かできることを考えたいと思います。
大島 あれからずっと西粟倉村にいますので、まだ会えてはいないのですが、相談ごとや会う約束は7、8つあります。例えば、小布施町長(市村良三さん)から「近いうちに一度小布施に来てください」と言われています。フィッシャーマン・ジャパンの赤間さんからは、「大島さんが山をキレイにしてくれているから、海がキレイになっています。いつもありがとう。今度、海と山を両方もっとキレイにするプロジェクトをしましょう」というメッセージと共に、ワカメをいただきました。
嫁(大島奈緒子さん)もコクリ!キャンプに参加していて、trippieceのさやかさん(加藤小也香さん)や、リンゴ農家の殿倉さん(殿倉由起子さん)たちと仲良くなったようです。夫婦で一番会えて良かったのが、山水閣の安藤さん(安藤信介さん)。僕たちは山水閣で結婚式を挙げたのですが、そのとき非常にご迷惑をおかけしたので、コクリ!キャンプで謝ることができて本当に嬉しかったです(笑)。
浴衣の女性が、西洋の椅子に
窮屈そうに座っているのを見かけたのが、きっかけ
――それでは、ようやく本題に入りますが、二人の“火種”はどんなものですか。
山川 半年ほど前に、いずれは二人で旅館のリノベーションをしたいねと話が盛り上がったことがあったんです。そのアイデアはそのまま放置されていたんですが、コクリ!キャンプで火が付きました。
大島 また少し話が脱線しますが、僕は椅子づくりのための骨格研究をライフワークにしているんです。例えば、新幹線に乗ったら、通路を歩く最中に座る人の姿をパッと眺めて、骨格を想像する訓練をするんです。訓練を重ねるなかで、日本人の平均的な骨格も分かってきました。当たり前ですが、西洋人の骨格とは全然違います。
ところが、旅館には西洋の椅子がけっこう多い。西洋の椅子は、足を広げて座らなくてはならないから、実は浴衣に合いません。ちょうど3年前、ある旅館で、浴衣の女性が西洋の椅子に裾を引っ張りながら窮屈そうに座っているのを見かけたんです。半年前、その話に関心をもったのが山川さんで。
山川 なぜ日本の旅館に外国の椅子が多いかというと、旅館が、業者さんが持ってくるカタログの中から椅子を選んでいるからです。メジャーなカタログには、北欧の椅子などはあっても国産材の椅子はありません。大島さんが作るような椅子が、そもそも選択肢に入っていないのが問題なんです。大島さんの家具は、人の手でなければ絶対に生み出せない心地良いカーブが特徴で、お客様にくつろいでいただく旅館の椅子に、本来ピッタリだと思っています。大島さんから浴衣の女性の話を聞いたとき、大島さんと旅館をつなげたら面白いだろうと直感的に思いました。
大島 日本の旅館は、従業員が勝手に部屋に入って布団を敷く、宿泊客が裸足で過ごすなど、他の国ではありえない独特のサービスが特徴で、既成の家具ではどうしても都合の悪い部分があります。僕が家具に使っているヒノキは、日本にしか生えていない。旅館という空間に似合う素材だと思っています。これで、日本人の骨格に合う旅館用の家具を創りたいという想いがあります。
もっと多くの「希望」が含まれた商品を創って、
世の中に広めたい
――そのアイデアが、半年ぶりに復活したんですね。具体的には、今からどのように動いていくのでしょうか。
大島 試作を作る前の段階に、たっぷり時間をかけていきます。誰がいつ、何のために、どのように使うのかをしっかり捉えたいからです。旅館の経営者やスタッフの方々にも、いろいろと意見を伺いたいです。
山川 大まかなストーリーはいったん大枠を決めています。お風呂とヒノキって、相性がいいじゃないですか。湯上がりの時間、ヒノキの柔らかい質感、香りに包まれていたら、リラックスできるだろうなあと思って。晩ごはんの前に、広縁(窓側に張り出した広い縁側)でくつろぐときに座って、「今日、ここに来てよかったなあ」と思ってもらえるようなヒノキの椅子を作りたいんです。実は、三田さんの協力を得て、先日、旅館経営者の方々にインタビューしてきたところで、数日中には大島さんにフィードバックします。
大島 僕はいつも、「こういうもの」から脱皮したいと思ってきました。「こういうもの」とは、予算や時間などの制約から、職人が勝手に思い描いている世のなかの要望です。職人はどうしても、「こういうもの」を作ればいいのだと考えがちなんです。でも、実は旅館は旅館で、こういうものだから仕方ないと思いながら買っている。そのすれ違いを解消したい。僕が「こういうもの」ではない旅館の椅子を作ったら、僕自身も含めた職人全員が、現状を突きつけられ、追い立てられるでしょう。自分自身を更新し続けるためにも、そういう状況を創りたいのです。
山川 僕は、新たに創る椅子と、そこに込められた価値観を日本の旅館のスタンダードにしたい。それが個人的な“北極星”です。
大島 僕も、もっと多くの「希望」が含まれた商品を創って、世のなかに広めたいと強く願っています。そうするとやっぱり、最初にどの旅館の方々と、どのタイミングで話を進めていくかが重要になってきますね。
山川 今年中に2、3つの試作を作って、来年には売り出しましょう。