• 2017/03/29
  • Edit by HARUMA YONEKAWA

三田愛が語る コクリ! プロジェクトストーリー

コクリ!プロジェクトの生みの親・愛ちゃん(三田愛さん)に、スタートから今までのことを聞きました。

コクリ!プロジェクトの最初の形「地域コ・クリエーション研究」は、2011年に誕生しました。その後、2013年にコクリ!ラボ、2015年にコクリ!キャンプをスタートし、少しずつ形を変えながらここまで進んできたのです。そこで、2017年2月時点でのコクリ!プロジェクトの歴史を、生みの親の愛ちゃん(三田愛さん)に聞きました。

聞き手:米川青馬

「あーちゃん、これは山が動くばい」

――コクリ!プロジェクトの始まりから教えてください。

起こしたいのは、最初から一貫して「システムチェンジ」と「関係性を変えること」、それに「自己変容を起こすこと」なんです。大きなきっかけは、黒川温泉のゆうき(北里有紀さん/御客屋七代目御客番/黒川温泉観光旅館協同組合代表理事)との出会いでした。2011年のことです。そのとき私は、元気な地域とそうでない地域の違いを可視化する「地域力診断」の研究を進めていました。それで黒川温泉の地域力を測りたくて、当時青年部の部長だったゆうきに協力のお願いをしに行ったんです。快く了解をもらって、地域のさまざまな方にインタビューしていきました。

愛ちゃん(三田愛さん)

初めての出会いから1年後、今度は結果報告で黒川温泉を訪れました。私の地域力診断で明らかになったのは、黒川温泉には親世代と青年部世代の「認識ギャップ」があるということでした。ゆうきたち青年部の危機感が、親世代よりもずっと強かったんです。親世代の皆さんが黒川温泉を日本屈指の人気温泉地にしてきたのですが、その人気がいつまでも続く保証はありません。そろそろ青年部世代が新しいまちづくりをリードする時期が来ていました。結果報告の後、2人でそんな話をしていたら、ゆうきから「まちづくりを手伝ってほしい」と言われて、2012年に「いち黒川わっしょいプロジェクト」を始めることになりました。実は当初、地域内では「東京の大企業の人間に騙されとる!」という声も上がっていたのですが、ゆうきたちの熱意でやってみることになったんです。

いち黒川わっしょいプロジェクト

一方の私は、ちょうどこの頃、「対話」を通して、マルチステークホルダーが一緒にまちづくりを進めていくプロジェクトを研究してみたいと思っていたところでした。それで、対話の専門家である野村さん(野村恭彦さん/フューチャーセッションズ代表取締役社長)たちに協力してもらいながら、黒川温泉の旅館だけでなく、黒川温泉がある南小国町の行政・議会・商店・農業などの方々にも参加してもらい、親世代の皆さんもどんどん巻き込んで、みんなでまちの未来について対話する「みんなゴト会議」を開催しました。さらには地域を飛び出して、都市の皆さんに第二町民になってもらう「第二町民プロジェクト」も実行しました。

いち黒川わっしょいプロジェクト

また、熊本県上天草市でも同時期に「変革コアチーム創り」に携わって、行政のコアチームを育みました。翌2013年には、和歌山県有田市で「有田市みんなゴト化プロジェクト」を行い、市民100名を集めたみんなゴト会議を開催しました。この有田市のみんなゴト会議は、今も行政と市民の手で続いています。こうした取り組みを総称して、私は「地域コ・クリエーション研究」と呼んでいます。コクリ!プロジェクトの前身に当たります。

いち黒川わっしょいプロジェクトで特に思い出深いのは、あるとき、ゆうきに「あーちゃん(※私のこと)、これは山が動くばい」と言われたことです。その後、黒川・南小国町では本当に「山」が動きました。システムの大きな変化が起こったんです。まず2013年に、ゆうきを中心にして旅館・商店・行政・議会・農業などの仲間が集まり、NPO法人南小国まちづくり研究会「みなりんく」が立ち上がりました。2015年には、その仲間たちのなかから42歳の髙橋周二新町長が誕生し、ゆうきは史上最年少(37歳)で初の女性組合長となって、同時に黒川温泉の観光旅館協同組合では一気に世代交代が進みました。さらに、ゆうきたちが都市のクリエイターたちとまさにコ・クリエーションした「KUROKAWA WONDERLAND」は、世界で15以上のアワードを受賞し、熊本地震後には再び都市のクリエイターたちとタッグを組んで、「黒川に100人集めて“お金を落として”“情報発信しよう”プロジェクト」を実施しました。このようにして、都市の方々とのつながりもどんどん強めています。また、そのなかで、ゆうきたち自身も大きく変化しています。

NPO法人南小国まちづくり研究会「みなりんく」の立ち上げメンバー。真ん中にいるのが、ゆうきさん。

ゆうきたちだけじゃなく、私もいろいろと変わりました。たとえば、あるとき、ゆうきが「山が傷んでいるのをみると、自分の体が蝕まれている感じがする」と言うのを聞いて、ショックを受けました。ずっと都会で暮らしてきた私は、そんなことを考えたことがなかったんです。地域の皆さんは、自分が地域や自然全体から影響を受けていることを当たり前のように知っていますし、地域や自然と長い目で付き合おうとしています。たとえば、彼らは50年先を考えて木を植え、山を守っています。山を守ることは、水を守ることでもあります。すべてがつながっているんです。一方、都会では「分断」が進んでいるから、それを感じるのが難しい。このゆうきの言葉を聞いて以来、私は自然と自分との関係をよく考えるようになりました。

このようにして、黒川・南小国では、たった4年で「予想だにしない未来」が起こりました。コ・クリエーションによって、一人ひとりの自己変容が起こり、関係性が変わり、もともとは閉鎖的だった地域のシステムが大きく転換したのです。何よりも、一番の当事者だった田舎育ちのゆうきと都会育ちの私が互いに影響し合いながら、大きく変わっていきました。これがコクリ!プロジェクトの原点です。ちなみに、こうした地域コ・クリエーションの取り組みは、現在は「コクリエーター」の皆さんが継承してくれていて、いくつもの地域に広めている最中です。

KUROKAWA WONDERLAND

「ラーニング・コミュニティを創る時期なんじゃない?」

――コクリ!ラボはどのようにして始まったんですか?

黒川や上天草のプロジェクトが終わった後、この2地域にどう関わっていくかを悩んでいました。地域の人たちがより主体的に動いたほうがいいから、私は後ろに下がりたい。でも、私がまったく関わらなくなると、今度は種火が小さくなり、コ・クリエーションが続かなくなってしまうかもしれないと思いました。また、地域の皆さんが、自分たちで変容の手法を身につける場を用意できたらいいのに、とも思っていました。地域内で変容を進めていけるほうが、伝播力、影響力、持続力が絶対に高いからです。

コクリ!ラボ

その頃ちょうど、ボブ(ボブ・スティルガーさん/ニュー・ストーリーズ共同代表、社会変革ファシリテーター)と話す機会があって、「愛ちゃんは、そろそろラーニング・コミュニティを創る時期なんじゃない?」と言われたのです。そうか、地域のメンバーたちが定期的に集まって、課題や行き詰っていることを共有したり、「こうやったらうまくいった!」という方法を共有したり、どうしたらうまくいくかを相談しあったりできるコミュニティを作れば、黒川や上天草にもちょうどよい感じで関わっていける。それに、これはコクリ!プロジェクトの新たなチャレンジ、セカンドステージにもなる。そう思って、第1回コクリ!ラボを開催したのが、2013年10月のことでした。

黒川・南小国、上天草のほかに、京都、小布施、宮崎、高知といった先進地域のメンバーにも参加してもらい、各地域の事例を紹介し合ったり、共通の悩みについて対話したり、幸福学の前野先生(前野隆司さん/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授)などのゲストに参加してもらったり、新しい智慧を学んだりして、学び合いを深めていきました。その後、ラボは約3カ月に1度開催し、海士、塩尻、氷見、丹波、雪国観光圏など、地域の仲間を少しずつ増やしていきました。前野先生を中心とした慶應義塾大学チームや学生チームも参加するようになり、多様性も高まりました。

やってみて気づいたのは、地域で頑張るリーダーは孤独だということです。彼らには、自分の地域内に悩みを相談できる場はほとんどありません。だからこそ、コクリ!ラボに地域を超えた「仲間」がいて、彼らと悩みを共有したり、話し合ったりできることは、彼らにとって大きな励みになるんです。私はこのとき初めて、コミュニティの大きな力を感じました。

コクリ!京都

ただ、その過程で同時にわかってきたのは、各地域が問題を共有することには大きな意味・意義があるのだけれど、その問題のなかには彼らだけでは解決できないものも多いということです。地域メンバーが集まるだけでは、限界があったのです。そこで、第1回コクリ!キャンプに参加した都市の皆さんを、「オープンデイ」という形でラボの一部にお呼びして、一緒に話し合う試みを始めました。このオープンデイが好評だったこともあって、コクリ!ラボはその後、地域と都市の方々が一緒に対話し、共創する「コクリ!プチキャンプ」へと形を変え、今に至ります。2015年10月には、さまざまなメンバーが京都に集まり、京都のまちづくり人たちと対話する「コクリ!京都」も開催しました。また、プチキャンプ@西粟倉やプチキャンプ@氷見など、地域でのプチキャンプも行われています。

コクリ!プチキャンプ@西粟倉

なお、オープンデイやコクリ!プチキャンプからはいくつもの「種火」が生まれています。たとえば、地方創生協働リーダーシッププログラム「MICHIKARA」は、塩尻の山ちゃん(山田崇さん/塩尻市役所企画課シティプロモーション係 係長/空き家プロジェクトnanoda代表)佐々木さん(佐々木裕子さん/株式会社チェンジウェーブ 代表取締役)が、2015年9月のコクリ!プチキャンプで出会ったことから始まりました。

影響力のある多様な社会リーダーたちが互いに深くつながっていることが価値

――話にも少し出てきたところで、コクリ!キャンプの始まりの経緯を教えてください。

もともとは2015年に、ラボに来ていない地域の人たちに、ラボメンバーたちが学びや挑戦事例を発表する「ラボ・フォーラム」を開催したいと思っていたんです。ただ、そのときにちょうど、アダム・カヘンの来日ワークショップで話を聞いて、発想が大きく変わりました。アダム・カヘンは、「変容型シナリオ・プランニング」という手法を使い、多様なステークホルダーを一致団結へと導くチェンジ・エージェントです。たとえば、アパルトヘイトの問題があった南アフリカでは、人種、政党・政策、職種などの異なるさまざまなグループから未来を担う有力者たちが集まり、アダム・カヘンの対話プログラムで互いを理解し合い、一緒に大きな未来に向かっていくようになりました。国レベルの複雑な課題でも、その社会の縮図といえるような多様な利害関係者の代表する人たちが集まることで、自分たちの手で解決していくようになったんです。

第1回コクリ!キャンプ

彼の話を聞くうちに、私は「アダムのように、みんなの力で日本や地域の未来を創ってみたい!」と思うようになりました。当時、私は多くの地域に関わるなかで、さまざまな問題が見えるようになっていました。たとえば、これは今でも珍しくありませんが、地域と企業の間にはよく大きな問題が起きます。なぜかというと、地域の論理と都市の企業の論理がまったく違うからです。企業は長期視点といっても、考えるのは5年先、10年先です。ところが、黒川温泉のゆうきは、これまで1000年受け継がれてきた黒川や阿蘇の自然を、100年先、1000年先にもしっかりと受け渡したいと思っていて、その前提で考え、行動しています。人間関係のあり方もずいぶん違って、都市では企業でも住まいでも人間関係を簡単に変えられますが、地域に行けば、一生隣の家が変わらなかったり、何十年も仕事相手が変わらなかったりするのが普通です。ところが、これまでは多くの企業が、そうした地域の論理に敬意を払わないまま、都市の論理を持ち込んできました。短期視点で考えたり、目に見えない資産や関係性を無視したりして、ひんしゅくを買ってきたのです。そうしたことが続けば、地域が外から来る企業を警戒するのは当たり前です。

とはいえ、企業の皆さんも決して悪気があるわけじゃありません。彼らの多くは、良かれと思って行動しているんです。問題があるのは、地域と企業を巡る「構造」なんです。私は、この構造をどうにか変えられないか、そして地域と企業の関係をもっと良いものにしていけないかと前々から思っていました。

第1回コクリ!キャンプ

さらに、地域の行政と住民の関係も何とかしたいし、大学や専門家にもっと地域に関わってもらいたいし、政策をつくる官僚の皆さんと地域の現場の方々が互いをもっと理解し合って欲しいし…。こうした問題を一気に解決するには、アダム・カヘンのようにマルチステークホルダーを一堂に集め、対話してもらうのが一番だと思いました。都市と地域のメンバーが互いに学び合い、尊敬し合い、人として深くつながり、ともに未来を創る仲間になれる場を用意すれば、構造や関係が変わり、多くのものごとはうまくいくようになる。これがコクリ!キャンプの基本的なアイデアです。

第2回コクリ!キャンプ

第1回コクリ!キャンプでは、地方自治体・地域リーダー・観光・農林水産業・官公庁・NPO・企業・大学・専門家・メディア・IT・金融などの130名以上の方に集まってもらい、5時間ほどの対話の場を開催しました。第2回コクリ!キャンプはさらに時間を伸ばして、濃密な場に仕立てました。2017年は、今のところ夏に開催する予定です。コクリ!キャンプの場合、地方自治体の首長や企業の社長をはじめ、30分単位で行動するような地域や都市のキーパーソンに数多く集まってもらっていますから、最初は5時間が限度でした。一度来ていただいて、大事な場だということを知っていただいた後、第2回は時間を伸ばしました。今後はもっと伸ばすかもしれません。さらに2016年の夏には、数十人で2泊3日の場を試す「リアル!キャンプ」も実行しました。こうした影響力のある多様な社会リーダーたちが同じ場に集い、互いに深くつながっていることが、コクリ!プロジェクトの本当に大きな価値になっています。

第2回コクリ!キャンプ

起こしたいのはシステムの「大転換」

――では最後に、現在と将来の展望を聞かせてください。

冒頭で話したように、私たちが起こしたいのはシステムチェンジと関係性を変えること、自己変容を起こすことです。言い換えると、システムの「大転換」です。大転換とは、ジョアンナ・メイシーが『アクティブ・ホープ』(春秋社)で語っている言葉です。彼女は、このままでは経済の衰退、資源の枯渇、気候変動、社会的な分断と戦争、生物種の大量絶滅などによって、世界は「大崩壊」を起こす可能性があると語っていて、それを防ぐには「生命持続型社会」への大転換が必要だと強調しています。私も同感ですし、できたらその大転換を起こす一助になりたい。そのために、コ・クリエーションを起こそうと続けているんです。

コクリ!2.0

私たちは今、本気で大転換を起こすために、さらに一歩踏み込んだチャレンジを進めています。2017年2月の「コクリ!2.0」から、1年単位の連続的な社会実験プロジェクトを本格的に開始したんです。コクリ!の仲間たちと何度も対話するなかから、大きな動きを起こそうとしています。次は4月に、島根県海士町で3日間に渡って、コクリ!の仲間たち30人、海士町のキーパーソン20~30人とともに「これからの地域の未来」を考えていきます。

ここまでは詳しく語ってきませんでしたが、システムの大転換を起こすためには、参加者一人ひとりが、まずは「自己変容」を起こす必要があります。より広い視野を持ち、世界全体を眺めることで「自分の使命」につながって、本領発揮することが何よりも大切なんです。その上で関係性を変えていけば、きっと世界のシステムは大きく変わるはずです。この社会実験プログラムが完成すれば、さらに広めていくこともできるでしょう。その先に、きっとシステムの大転換が見えてくると思います。

コクリ!2.0

また、海外研究機関との連携を進めたいとも考えています。システムの大転換が必要なのは、当然日本だけではありません。同じような考えの団体、もっと先に進んでいる団体が世界にはいくつもあるはずです。彼らと関係を持つことで、私たちの活動はさらに大きな力を得られるでしょうし、新たな視野・観点も得られるのではないかと考えています。アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどのいろんな研究機関とつながり、学んでいきたいと思っています。

最後に、この新たな動きをともに進めている「コアチーム」を紹介します。現在のコアチームは、賢州さん(嘉村賢州さん)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん)、直樹さん(太田直樹さん)と私の4名です。最初は自分だけで進めてきたのですが、それでは限界があり、「同じくらいコミットしてくれる仲間が欲しい」とずっと思っていたんです。そうしたらあるとき、またもやボブが「愛ちゃんは、一緒にリスクを取りたいと思う人とコクリ!プロジェクトを続けたほうがいい」と声をかけてくれました。その言葉に勇気をもらい、現在はこの4名が中心となってコクリ!プロジェクトを進めています。4人が同じように世界の大転換を夢見て、ともに前へ進んでいるんです。

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