コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第1回です。今回は、長年コクリ!プロジェクトを見守ってくださっているボブ・スティルガーさん(ニュー・ストーリーズ共同代表、社会変革ファシリテーター)に、わかっているようでなかなかよくわからない「コ・クリエーションとコラボレ―ションの違い」について詳しく伺いました。
聞き手/愛ちゃん(三田愛さん)
私たちはコ・クリエーションとコラボレーションの違いをようやく理解し始めた
――― 今日、ボブさんに一番伺いたいのは、コ・クリエーションとコラボレーションの違いです。この2つは何がどう違うのですか?
コラボレ―ションは、達成したい目的のために、何をすればよいか、どのような方法を使うのが良いかを知っているときに、チームが協力して行うことです。たとえば、今日も世界中で、パイロットやCA、整備士やさまざまなスタッフが一致団結して、数多くの飛行機をある場所からある場所へと飛ばしています。これはコラボレーションです。一番良いやり方を知っている場合は、その通りに実行すればよいのです。日々、世界で多種多様なコラボレーションが行われています。
一方のコ・クリエーションは、大きな方向性や可能性は見えているけれど、そのために何をしたらよいか、どのような方法がよいかがわからないときに行うことです。コ・クリエーションのほとんどは、ある地域やあるつながりのなかで起こります。その地域やつながりの中にいる方々が「こうしなくてはならない」という一つの想いのもとに立ち上がり、行動を起こすのです。知らないことに対して、皆で探求していくのです。その試行錯誤のなかから、自分たちの目的は何か、その目的を達成するために何をしたらよいか、どの方法が一番良いかを見出していくのがコ・クリエーションです。つまり、コ・クリエーションはまったく新しいことを生み出したいとき、イノベーションを起こしたいときに行うものです。コ・クリエーションがうまくいけば、自分たちでは思ってもみなかったような素晴らしいこと、大きなことが成し遂げられます。
私は、コ・クリエーションとコラボレーションの両方が必要で、重要だと考えています。ベストプラクティスを実行していくことも、新たに何かを生み出していくことも、どちらも社会に欠かせないのです。私はコラボレーションしている方々をいつもリスペクトしています。私たちの生活にはさまざまなコラボレーションがなくてはなりません。しかし、私がどちらにワクワクするか、どちらにエネルギーを傾けたいかといえば、それはコ・クリエーションです。
――― まだこうした定義は広く知られていないと思うのですが。
そうですね。今、私たちはコ・クリエーションとコラボレーションの違いをようやく理解し始めたところです。なぜかといえば、コ・クリエーションがその名を名づけられて、強く世の中に求められてきたのはごく最近のことだからです。
コ・クリエーション的な活動は世界のさまざまなところにいくらでもある
――― コ・クリエーションの世界の事例をいくつか教えてください。
アメリカ・ウェストバージニア州は、貧困や肥満など、アメリカ国内でも特に多くの問題を抱えていることで知られている地域です。そのウェストバージニアで、4年ほど前にある新聞記者の女性が立ち上がりました。周囲がウェストバージニアの悪口ばかり言うのに飽き飽きした彼女は、地元の新聞に「Try This」というコラム欄をつくり、州で行われている良い活動を紹介していきました。そうしたら、このコラム記事がきっかけとなって、「Try This」が少しずつムーブメントになっていったのです。2016年6月、私は第3回「Try This Conference」に参加しました。彼女が紹介してきた活動や、新たに始まった活動などを行う方々が400名も集まっていました。「Try This」をキーワードにして関係が生まれ、さまざまな活動が盛んになってきているのです。少額ではありますが、頑張っている取り組みには資金援助も行っています。
写真 / ウェストバージニア州のコミュニティ「try this」(http://trythiswv.com/)
ウェストバージニアの当事者の皆さんは、「Try This」をコ・クリエーションとは呼んでいませんが、私の目から見ると、これは明らかにコ・クリエーションです。一人が「こうしなければならない」と立ち上がったことに賛同者が集い、協力して進めていくうちに少しずつ道が見つかってきているのですから。
――― アメリカ以外ではどのような事例を知っていますか?
私が知る限りでも、世界中にいくつものコ・クリエーションがあります。たとえば、ブラジルのある村では、25年ほど前に、一人の先生がラジオCMを流しました。「子ども達には今よりも良い学び方があるのではないか。そう思う方は、木曜の午後にマンゴーの木の下に集まってください」と彼は呼びかけたのです。その呼びかけに応えて、多くの村の方がマンゴーの元に集まり、新しい学校を立ち上げて、どういった方法がよいかを試していきました。数年後、彼らは、どの学び方がうまくいって、どれがうまくいかないかがわかってきたので、機能しないことを手放し、機能している学び方に集中することに決めました。優れた学び方で確実に教えていく段階に移ったのです。つまり、コ・クリエーションからコラボレーションに移ったのですね。これはよくあることです。コ・クリエーションを進めた結果、優れたやり方や押さえるべきポイントがわかったのですから、コラボレーションに移るというのはごく自然な流れです。
ジンバブエのクフンダコミュニティビレッジも、コ・クリエーションからコラボレーションに移っています。彼らは15年ほど前、ハーブ主体の医学を研究し始めました。当時のジンバブエでは西洋医学にアクセスするのが難しかったため、自分たちで健康のためにできることを始めようと考えたのです。最初の頃は、何をどうしたらよいかがまったくわからなかったそうですが、今では素晴らしいハーブの研究所となっており、レメディ(治療法)をいくつも開発しています。
――― コ・クリエーションの事例は世界中でもっと見つかると思いますか?
おそらく世界中のどこでも見つかるはずです。ブラジルやジンバブエの事例のように、コ・クリエーションと呼ばれるようになるずっと前から行われている例も、決して珍しくありません。
私はこの3年ほど、アメリカ人の健康のために最も長く活動してきた「RWJF」という組織のプロジェクトに参加してきました。彼らはアメリカ人の健康のために年間何百万ドルものお金を費やしているのですが、それでもアメリカ人はより不健康になるばかりです。そこで、どこにお金を使うのが有効なのかを知るため、アメリカの4つの貧困地区で、健康に関してどのくらい主体的な取り組みが行われているかを調査したのです。すると、政府や誰かを当てにするのではなく、自分たちで立ち上がり、行動を起こしているチームや集まりが次々に見つかりました。きっと他の地域でも状況は同じでしょう。コ・クリエーション的な活動は、世界にいくらでもあるのだと思います。
写真 / アメリカ人の健康のために最も長く活動してきた「RWJF(Robert Wood Johnson Foundation)」(http://www.rwjf.org/)
もちろん日本にも、数え切れないほどのコ・クリエーションがあるはずです。たとえば島根県海士町唯一の高校、隠岐島前高校が廃校のピンチに陥ったとき、まちの多くの人が「廃校にしてはならない」と声を上げ、海士町を含む隠岐諸島の3町村の方々が力を合わせて「高校魅力化プロジェクト」を立ち上げ、知恵を寄せ合って「隠岐國学習センター」「島留学」などの行動を起こして、危機を乗り切った例があります。何をどうしたらよいかわからないけれど、行動しなくてはならないと考えた方々が集まって、可能性を探求し、行動を起こす。そして、クリエイティブな解決策を生み出していったのです。これは典型的なコ・クリエーションの事例です。
コ・クリエーションが注目されているのは私たちが「古い生き方」から外れる必要があるから
――― 今なぜコ・クリエーションが注目されてきているのだと思いますか?
あるチーム、あるいはある一人が何をすべきかがはっきりしているときに、コ・クリエーションの必要はありません。少なくとも私は、飛行機のパイロットや新幹線の運転手に、新しい運転方法を生み出すためにコ・クリエーションをしてほしいなどとは思いません。上空10000メートルや時速300キロで「この運転方法を試そう」なんて考えられたら、たまったものではありませんからね。彼らに求められているのは、自分の役目を果たし、チームでしっかりとコラボレーションすることです。
写真 / ボブさんが代表を務める「ニュー・ストーリーズ」のWebサイト(http://www.newstories.org/)
対して、コ・クリエーションが必要とされるのは、自分たちが何をどうしていいかわからないときです。ですから、コ・クリエーションが注目されているということは、何をどうしていいかわからない人たちが多いということでしょう。
――― では、なぜ何をどうしていいかわからない人が増えているのでしょうか?
それを理解するには、歴史を簡単に辿る必要があります。長い間、世界を支配していた金持ちの白人男性たちは「人間は地球の支配的な存在で、資源を好きなように使っていいのだ」と考えてきました。さらに第二次世界大戦後、先進国を中心にして資源を使うスピードが急速に上がり、「より多くの資源を使って生産し、より多くを消費すれば幸せになれる」という考えが広まりました。日本の高度成長期もそうでしたね。
しかし、私たちは今、それが本当ではないことを経験的・普遍的に理解し始めています。つまり、「3つの不幸せ」に気づいたのです。
(1)より多くを生産し、消費する側の不幸せ
(2)たくさん生産せず、消費していない側の不幸せ
(3)資源を好きなだけ使われた地球の不幸せ
今、世界各地で勃発している紛争や戦争、テロなどは、(2)の不幸せを抱える人たち、言い換えると、これまで支配と搾取に甘んじてきた人たちが、自分たちにももっと生産と消費をさせなさい、分け前をよこしなさいと主張していることの表れと見ることができます。また、毎年世界のどこかで起きている異常気象や災害などは、(3)の不幸せな地球が「私をこのように扱ってはいけない、資源を好きなように使ってはいけない」と言っているかのようです。
(1)についてはまだ気づいていない方がたくさんいます。その証拠に、先のアメリカ大統領選挙では、トランプ候補が「私は皆さんをアメリカが幸せだった前の時代に戻します」と主張して人気を集めましたし、2012年に安倍首相が再び日本のトップに返り咲いたときも、「私は皆さんを日本が経済的に力を持っていた90年代に戻します」といったことを話して、拍手喝采を受けました。彼らは、私たちがどちらに向かえばよいかを知っていた(知っていると思っていた)時代に針を戻そうと言っているのです。生産と消費こそが幸せの源泉だと思っている方々はまだ多数を占めています。
しかし一方で、現実を直視すれば、経済的にも社会的にも環境的にも、崩壊の速度がどんどん速くなっているのは明らかです。このことに気づいている方は確実に増えていて、一様に「未来が見えない」と感じています。彼らは、自分たちの3つの不幸せを認識しているのです。その不幸せを克服するには、今までとは違う生き方をしなければなりません。古い生き方から外れなければならないのです。Iターン、Uターンをして、消費経済が盛んな都市部から離れ、地域で暮らす家庭が増えているのはその一例でしょう。
ところが、何が「新しい生き方」として優れているのか、どうしたら私たちが幸せになれるのかは、まだ世界の誰も知りません。向かう方向性はわかっているけれど、未来が見えない、何をどうしていいかわからないのです。まさに世界中が、あり方・生き方・働き方といった意味でコ・クリエーションが必要な段階に入っているというわけです。今、コ・クリエーションが注目を浴びてきているのには、こうした大きな理由があると思います。
世界の全員が共にやっていくためのあり方・生き方・働き方をコ・クリエーションで探求する時期がやってきた
――― 現在のコ・クリエーションに課題はないのでしょうか?
私が一番気になっているのは、ローカルで起こっているパワフルで意義のあるコ・クリエーションが、なかなか大きなムーブメントになっていかないことです。コ・クリエーションはどうしても小さく留まってしまいがちなのです。しかしそれでは、政府や大きな公共機関などのあり方を変える、あるいは新しい生き方のモデルをつくるといった全体的なシステムの変容にはつながっていきません。コ・クリエーションの影響やムーブメントをどうやったらもっと大きくしていけるのか。私のテーマの一つです。
その課題に対して、私が長年使ってきた「Power4フレームワーク」を紹介したいと思います。そのフレームワークは、「名づける(name)」「つなげる(connect)」「栄養をあげる(nourish)」「光を当てる(illuminate)」の4つからできています。まず「Try This」のように、自分たちが何をしようとしているのかを名づけます。次に、有望な活動をしている方々や必要な関係者をつなげて、ネットワークをつくり、情報や経験を共有していきます。そこまで来たら、その活動をどう育てたらよいか、どこに資金を使ったらよいかを一緒に考えていきます。その上で、その活動に光を当てる、つまり外部に向けて発信していくのです。広く知らせると、内部のメンバーが自分たちの活動のすばらしさや意義をより明確に自覚できるようにもなります。
このPower4フレームワークは、ある地域、小さなシステムのなかで行われているコ・クリエーションをより大きなシステムに持ち出していくための方法の一つです。今後のコ・クリエーションでは、こうした方法を使ったムーブメントの拡大が大切になってくると思います。
それから、コ・クリエーションの「価値計測」ができるようになるとよいと思っています。その意味では、Michael Quinn Patton教授が提唱する「Developmental Evaluation」が先駆的ですね。Developmental Evaluationでは、コ・クリエーションを推進するプロジェクトやチームの「成果」だけでなく、そこにどのような「価値観」「信念」「原則」「実践」があったのかを明文化し、それら全体を評価するのです。
コ・クリエーションの問題点の一つは、こうしたことをあまり明文化しないということです。コ・クリエーションに関わる人々の多くは、なぜうまくいったのか/うまくいかなかったのかをあまり振り返って考えようとしない傾向があります。しかし、それではなかなか発展していきません。価値観・信念・原則・実践を言語化することで、振り返りができるようになります。また、言語化を進めていけば、コ・クリエーションとコラボレーションの違いもより明確になってくるはずです。Developmental Evaluationのような研究が、コ・クリエーションの意義を一層高めるのではないかと考えています。
――― コ・クリエーションの将来について伺えたらと思います。
マザーグースの「Ring-a-Ring-o’ Roses」という歌をご存じでしょうか。
Ring-a-Ring-o’ Roses, (バラの花輪だ 手をつなごうよ)
A pocket full of posies, (ポケットに 花束さして)
Atishoo! Atishoo! (ハックション! ハックション!)
We all fall down. (みんな ころぼ)
この童謡は、いったい何の歌だと思いますか。実は、有力な説として、ペストの大流行に関する歌だと言われているのです。「バラ」はペストに特徴的な赤いバラのような発疹を示しており、「花束」はペストの匂いを隠すための薬草の束、「ハックション」はペストの末期症状で、「みんな ころぼ」で全員が死んでしまうのです。
私がこれを聞いたときに思ったのは、大変な危機の時代にも、人々や子どもたちは歌をつくって楽しみを見出すのだ、生き残った人の人生は続くのだということでした。ペストは14世紀に大流行し、世界人口を1億人減らしたと言われている大変な感染症です。そんな大災害を巻き起こした病気までも楽しいわらべ歌にしてしまうのが人間なのです。今、私たちは大きな変化の時代を迎えています。今後、この世界に何が起こるのか見当がつきませんが、何があったとしても、私たちや私たちの子孫は生きていくのです。それなら、好奇心を持って楽しみながら、世界の全員が共にやっていくためのあり方・生き方・働き方を、コ・クリエーションで探求していくのがよいのではないかと思います。
私たちは今、世界の全員にとって機能するやり方を探求するタイミングを迎えています。今こそ、思いやりと喜びと共に、自分たちについて真剣に考える時なのです。「コ・クリエーションの時代」と言ってもよいでしょう。そのことを多くの方に理解していただきたいと思います。
――― 最後に、コクリ!プロジェクトへのメッセージをお願いします。
コクリ!プロジェクトも、そろそろ価値観・信念・原則・実践をよりクリアにして、Developmental Evaluationを行い、ガイドラインをつくっていくような時期ではないでしょうか。価値観・信念・原則は、別に一度決めたら変えられないというものではありません。まず一度設定してみるのです。それがコクリ!プロジェクトの価値をより一層高めるのではないかと思います。