「コクリ!的関係人口」を考えたい! そのためにはまず、関係人口を深く考える皆さんにお話を伺おう。そうして、私たちは「関係人口インタビュージャーニー」を始めました。第7弾は、ユニリーバの人事総務本部長として活躍する一方で、宮崎県新富町の関係人口として、さまざまな活動を行っているゆかさん(島田由香さん・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長)にお話を伺いました。 ※インタビュー:三田愛
※私たちが考える「コ・クリエーション型関係人口」の記事はこちらです!
「コ・クリエーション型関係人口」で、予想だにしない未来を生み出そう!
〈コクリ!をご存じない皆さんへ〉 コクリ!プロジェクトとは何か? なぜ私たちが共創型関係人口を考えているのか?
ごく簡単に言うと、コクリ!プロジェクトは、コ・クリエーション(共創)プロセスを使って、地域や社会に「大転換」を起こそうとする取り組みです。コ・クリエーションプロセスでは、自分や仲間の「根っこ」とつながること、そして自己変容を重視します。参加者全員が対等な関係性で、仲間とともに、恐れを超えて未知に踏み出し、自分を変えていきます。自身の身体の声に耳を傾ける身体ワークや、自分を巡る大きな環に想いを馳せるワークなどを通じて、集合的無意識のなかに次の時代のうねりを感じ、自分たちが信じる世界を体現していくのです。その結果、コ・クリエーションでは、単なるコラボレーションとはまったく違う成果が出てきます。地域や社会に「想定外の変容」が起こるのです。コクリ!プロジェクトは、さまざまな場にコ・クリエーションを起こすことで、地域や社会を大きく変えようと試みています。なお、もっと詳しいことはこれらの記事に書いてあります。
私(三田愛)が地域で活動を始めたのは2011年ですが、そのとき私は、深く関わった熊本県南小国町で「第二町民」の創出に関わりました。また同時期に、やはりコクリ!と深い関わりがある島根県の海士町、長野県の小布施町にも第二町民が増えてきました。第二町民というのは、最近「関係人口」と呼ばれている人たちとほぼ一緒です。つまり、コクリ!では、2011年頃から関係人口の創出に携わってきたのです。その私たちから見ると、関係人口には大きな可能性を感じる一方で、不安や危惧も感じています。特に心配しているのは、関係人口と名付けられる前からあった大切なものや想いが損なわれることです。
その不安や危惧を振り払い、「良い関係人口づくりとは何か?」「共創型関係人口とは何か?」をもっと深く考えたい。そう思って、専門家・地域側と聞いて、最後は都市側の方々にお話を伺いました。都市側の2人目は、ユニリーバの人事総務本部長として活躍する一方で、宮崎県新富町の関係人口として、さまざまな活動を行っているゆかさん(島田由香さん・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長)です。
2018年の年末から、毎月1、2回は新富町に行っている
―― ゆかさんは新富町とどんな風に関わっているんですか?
発端はコクリ!です。2017年のコクリ!2.0@増上寺で、ささひろさん(佐々木裕子さん・株式会社チェンジウェーブ 代表取締役社長)が潤ちゃん(齋藤潤一さん・宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」代表理事)を紹介してくれたんです。その後、2018年の年初に別の場所で再会してそこから関係が始まりました。
再会した場で、“地域にコWAAキングスペースを作ってほしい!!”って野望を話したら、“それやろう!”って、本当にその3週間後に初のコWAAキングスペースin地域を作ってくれたんです。それ以来、毎月1、2回は新富町に行ってますね。潤ちゃんやこゆ財団のみんなが、何かしら場や機会を用意してくれるんです。宮崎ローカルベンチャースクールの講師や審査員になったり、住民の皆さんとの対話の場を設けてくれたり。そこに私が関わらせてもらうことで、みんなが喜んでくれたり、関わった方やや地域に変化が起きていったりするのもわかります。また、新富町にうかがうたびに、こゆ財団のみんなの悩みを聞いたり、コーチングのようなことをしたりしていますが、それがきっかけで一歩を踏み出してくれたり。そういうことがモチベーションになって、いままで関係が続いている感じです。いまでは、こゆ財団以外にも、新富町の皆さんとさまざまなつながりが生まれています。今度は新富町長から依頼をいただいて、町役場の職員の皆さんのトレーニングに関わります。
それから、社会冒険家・イケダチカオさんのように、新富町に合いそうな人、お互いに知り合うとよいのではないかと思う人を新富町に連れてきて、紹介してきました。そうやってつながりを広げてきたところもあります。
―― ゆかさんが所属するユニリーバにとって、新富町と関わる意味はどこにあるんですか?
私が新富町と関わったことで、結果的にユニリーバとの関係がいろいろと生まれています。たとえば、作ってもらったコWAAキングスペースをユニリーバ社員が活用したり、私が展開する「team WAA!」(誰もがいきいきと自分らしく働き、豊かな人生を送れるような「新しい働き方」に共感し、実現していこうとする、企業・団体・個人のネットワーク)でメンバーが新富町に行って新しいアイデアを事業のヒントにする研究生の取り組みをしたり、こゆ財団が始めた「こゆアイスクリーム」で、ベン&ジェリーズのアイスを販売してもらったりもしています。
また、ユニリーバ日本法人の社長と新富町長の対話の場を設けて、ユニリーバが新富町の発展のためにできることはないかをディスカッションしたりもしています。ユニリーバは、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」という企業目的を持ち、「成長とサステナビリティの両立」をビジネスモデルの中核に据える会社です。社会貢献を極めて重視しているんですね。当然、地域課題の解決に貢献したい気持ちも強い。新富町の皆さんと関わることは、私たちのビジネスにとっても大きな意味があります。
「できる」「やろう」という気持ちが以前よりも大きくなった
―― 新富町の関係人口を続ける上で大事だなと思うことはありますか?
私も新富町の皆さんも、お互いに得るものがなかったらここまで続いてないと思います。いちばん大事なのは、そこじゃないでしょうか。一方的な関係じゃなくて、相補的な関係であること。
では、私が新富町から何を得たかというと、まず「縁はつくるものなんだ」という気づきを得ました。私は東京生まれ・東京育ちで、日本には強い縁のある地域がありませんでした。でも、新富町とは縁ができた。新富町の皆さんと「根っこ」でつながって、一緒にまちをつくっていく仲間になることができた。みんなとコ・クリエーションして、ワクワクの熱量をシェアすることができた。地域外にいながらにして、そういう風になれることは、新富町の皆さんに教えてもらったことです。
また、「できる」「やろう」という気持ちが以前よりも大きくなりました。コWAAキングスペースは、私が潤ちゃんと話しているとき、「新富町の余っている建物にWifi入れて、コワーキングオフィス作りたい!」って言ったらたら、潤ちゃんたちが1カ月もしないうちに形にしてくれた。新富町のみんなは、そうやってどんどん物事を前に進めていく。そんな彼らと一緒にいると、私自身ももっとできる、もっとやろうという気持ちになっていきます。
それから、日本の地域に意識が向くようになりましたね。大きな気持ちの変化です。以前は、休みのたびに海外旅行をしていたんですが、この前のお正月は両親と宮崎・新富町に行きました。新富町のみんなに、日本の魅力に気づかせてもらったんですね。もう一つ、地方公務員の皆さんを心から尊敬するようになりました。皆さん、本当に大変な仕事をされている。そんなこと、これまでは全然知りませんでした。本当に勉強になりました。
こう考えると、私が新富町から得たものは本当に大きいですね。
どんな地域でもキーパーソンを抜擢できるはず
―― ゆかさんは他の地域ともつながりがあると思うんですが、新富町は何か違いますか?
新富町が違うのは、やっぱり潤ちゃんと町長の存在だと思います。私の感覚では、「キーパーソン」が一人でもいるかいないかで、関係人口の質や量は大きく変わります。積極的で前向きでチャレンジングで、アクションが早く、アイデアをどんどん形にしていけるキーパーソンが一人いるかどうかで、全然違うんですよ。さらに、そのキーパーソンに大きな権限を与える首長がいると、理想的です。新富町には、その2人がセットでいる。そこが他の地域と違うのではないでしょうか。
―― キーパーソンがいない地域はどうしたらいいんでしょうか?
いや、探せば絶対に見つかると思いますよ。別に地元の人でなくてもいいんです。潤ちゃんも新富町の出身者じゃない。新富町の場合は、岡本さん(岡本啓二さん)という地元の優秀な公務員出身のメンバーがいて、潤ちゃんと力を合わせて頑張っている。そういう形でもまったくかまいません。地域内外からキーパーソンになり得る人材を見つけてきて抜擢し、権限を与える。きっとそれだけで、大きく変わる地域があるだろうと思います。
島田由香さん
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長。1996年慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナ入社。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GE(ゼネラル・エレクトリック)にて人事マネジャーを経験。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。日本の人事部HRアワード2016 個人の部・最優秀賞受賞。高校1年生の息子を持つ一児の母親。