私たちは、「関係人口」という言葉、考え方に、大きな可能性を感じています。なぜなら、コクリ!プロジェクトは、これまでの9年間、ずっと「コ・クリエーション型関係人口」を考え続けてきたようなものだからです。その自負から、今回、私たちは「コ・クリエーション型関係人口」を提唱します。ぜひ皆さんに、その方法を使っていただけたらと思います。
また同時に、「関係人口の落とし穴」についてもポイントをまとめました。なぜかというと、関係人口のなかには、結果として地域に良い影響をもたらさない関係人口もあるようだからです。私たちは、そうした関係人口をなくしたいのです。
なお、この考察は、関係人口の専門家であるさっしーさん(指出一正さん・『ソトコト』編集長)と小田切さん(小田切徳美さん・明治大学農学部教授)、地域側で活動するゆうきさん(北里有紀さん・熊本県南小国町黒川温泉)、とおるちゃん(大宮透さん・長野県小布施町)、じゅんさん(齋藤潤一さん・宮崎県新富町)、都市から地域に関わっているヤスくん(田村祥宏さん・EXIT FILM inc.)、ゆかさん(島田由香さん・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長)へのインタビューから多くのものを得ています。また、他の多くのコクリ!メンバーの方々の意見も参考にしています。皆さんありがとうございました!
関係人口にはさまざまな形がある
関係人口は多様です。まず大きな入口として「体験」があります。農業体験やマラソン大会など、地域のさまざまなイベントに参加したことがきっかけで、その地域の関係人口になることは珍しくありません。次に、「ライフスタイル」としての関係人口があります。最近、都心と田舎の2つの生活=デュアルライフ(2拠点生活)を楽しむ人たちを「デュアラー」と呼びますが、たとえばそうした皆さんのことです。
また、「ビジネス」で地域に入り、次第に関係人口に移行していく方々もいます。なお、私たちは、ビジネス型の関係人口を「コラボレーション型関係人口」と位置づけています。コラボレーション型関係人口とは、ゴール・KPI・明確なステップなどを設定して、計画的アプローチで進めるものです。こうしてビジネスと同じように、事前に想定した通りの成果を出していきます。私たちは、これが悪いとはまったく思っていませんが、コ・クリエーション型関係人口とは質がかなり異なります。もちろん、両者はきっぱり分かれているわけではなく、コラボレーション型からコ・クリエーション型に移っていく方もいますし、普段はコ・クリエーション型だけれど、ある部分ではコラボレーション型で地域に関わるというケースもあるでしょう。善い悪いではなく、単に質が違うんです。
「コ・クリエーション型関係人口」なら
運命の出会いが起こり、その出会いが地域に奇跡を起こす!
そうした多様な関係人口の1つに、「コ・クリエーション型関係人口」があります。その最大の特徴は、「予想だにしない未来を生み出せること」です。明確なゴールやKPIは設定せず、生成的なアプローチで進め、関係性の「質」や「プロセス」を大切にすると、運命の出会いが起こり、その出会いが地域に奇跡を起こすんです。それが、コ・クリエーション型関係人口の特徴です。私は、小田切さんやさっしーさんとともに国交省で関係人口関係の委員をさせていただいていますが、そこでも強調して伝えているのが「関係性の質」と「プロセス」です。この視点はとても大切だと思っています。
たとえば、私たちは2011年から熊本県南小国町と黒川温泉に関わってきました。黒川温泉は、30年前に地図に載っていない温泉地でしたが、当時の旅館青年部(今の親世代)の取組みによって、2002年には120万人が訪れる人気温泉地になりました。いまは有名温泉地ですから、ご存じの方も多いと思います。ただ、私がはじめて訪問した2011年は、10年連続で来訪者の減少が起こっている停滞期でした。UIターンの若手世代は、停滞期にもかかわらず同じ手法を続けていることに危機感を持っていたんですが、成功体験が強い親世代には、なかなか自分たちの意見を言えない状況にあったんです。
2011年、私は研究の一環でたまたま黒川温泉を訪ね、黒川温泉観光旅館協同組合の青年部リーダーだったゆうき(北里有紀さん)と出会いました。そして、彼女をはじめとする青年部のメンバーたちと話し合っているうちに、「一緒にまちを変える取り組みをしよう」ということになったんです。それで始めたのが、「“いち黒川”わっしょいプロジェクト」でした。「地域コ・クリエーション」の取り組みです。
“いち黒川”わっしょいプロジェクトに関しては、詳しくはこちらの記事を読んでいただきたいんですが、従来とはまったく違う対話の場を創りました。たとえば、普段の黒川温泉の会議は、ロの字型に座り、親世代中心で声が大きい人が話すスタイルでした。また、温泉旅館以外の商店・農家・役場などの人たちが、その会議に加わることもありませんでした。それに対して、“いち黒川”わっしょいプロジェクトでは、ロの字型を止めて、親世代・青年部世代に加え、農家・商店・役場・県庁などのメンバーも対等な立場で参加し、みんなが想いでつながれる場を創ったんです。このプロジェクトでは、月1回、9か月間にわたる対話セッションを行いました。
その結果、何が起こったかというと、まず後ほど詳しく説明する「第二町民」がたくさん生まれました(濃いつながりの第二町民が数十人、薄いつながりが200人ほどいます)。また、2015年に42歳の新町長が誕生したり、黒川温泉観光旅館協同組合(いわゆる親会)の代表理事がゆうきに変わったりしました。ゆうきは、史上最年少・初の女性の親会代表理事(当時37歳)になったんです。こうしてまちの世代交代が一気に進みました。さらに、2016年の熊本地震のときには、第二町民の皆さんが黒川温泉に100人のライターを集めるイベントを開催し、その参加者が観光体験をブログなどで報告。キャンセルが相次いだ旅館の客数向上に、大きな貢献を果たしました。地震発生から1か月弱で被害総額が約9.2億円、予約数は例年の3割程度と、何もやってもお客さんが来ず、黒川温泉の皆さんは精神的に追い詰められていたんですが、これでかなり救われたと言います。加えて、そのイベントで行ったサイクリングツアーが、新ビジネスとして立ち上がったりもしています。
それから、まちの皆さんが都会のクリエイターと協力して「KUROKAWA WONDERLAND」という映像作品を制作しました。予算はなし。お互い持ち出しのGive&Giveの関係で制作し、出演者はほぼ南小国のひとたちでした。場所の許可なども南小国側メンバーが取るなど、本当にまちの皆さんとクリエイターだけでつくりました。その結果、KUROKAWA WONDERLAND は、ミラノ・ロス・スペイン・インドネシアなどで15以上のアワードを受賞。大きな話題になって、観光客の誘致にも一役買っています。さらに、このプロジェクトがきっかけで、消滅の危機に立たされていた吉原岩戸神楽が、次世代に継承されました。南小国町と黒川温泉では、コ・クリエーション型関係人口の存在によって、こうした「予想だにしない出来事」が次々に起きているんです。
結果的に、10年減少を続けていた来訪者数が、コクリ!を行った翌年から3年連続増加したんです。もちろん、そのすべてがコクリ!の影響だとは言いませんが、コクリ!の取り組みは、黒川温泉を盛り上げることに寄与できたと感じています。
これはすべて、わたしとゆうきが出会い、”根っこ”でつながったところから始まったことです。田舎育ちと都会育ち。見た目もこれまでの経験も、あまりにも違う二人ですが、立場を超えてフラットで対等につながり、お互いの根っこの想いに共感しあった。そうすると、多様性が力になり、次の渦が生まれていきました。私たち2人の運命の出会いが、まちの皆さんと第二町民との出会い、クリエイターとの出会いに広がっていったんですね。こうして運命の出会いは連鎖して、地域に奇跡をどんどん起こしていくんです。“いち黒川”わっしょいプロジェクトが始まるとき、ゆうきは私に「あーちゃん(愛ちゃん)、これは山が動くばい!」と言ったんですが、本当にその通りこうやって山が動きました。私もこの言葉が大好きで、この想いを握りしめて、ともに走ってきました。
海士町には、英治さんが1年間親子島留学で住み
数多くの変容をもたらしていった
2つ目の例は2017年から取り組んだコクリ!海士プロジェクトです。島根県海士町は、隠岐諸島の1つ・中ノ島にある人口2000~3000人くらいのまちです。そのうちIターンが約600人もいて、彼らもまちの力となってCAS・岩牡蠣・隠岐牛などの産業を大きくするとともに、島留学・高校魅力化などの教育に力を入れるなど、さまざまな施策にチャレンジする島として知られています。
2017年当時、海士町は第二変容期を迎えていました。まず何よりも、4期16年にわたって海士町を盛り上げてきた山内道雄前町長の引退を間近に控え、町長と一緒にまちをリードしてきた課長陣も、数年以内に退職することがわかっていました。まちはこれからどうするのかを考えるフェーズに入っていたんです。また、一部の人材に負荷が集中しており、UIターン者が疲弊することも起きていました。さらに力を入れてきた交流も、まだ点から線につながらずに伸び悩んでいました。地方創生の先進事例として知られている海士町ですが、実は将来が描きにくい閉塞感があったんです。そこで、コクリ!海士プロジェクトを開催することになりました。
コクリ!海士プロジェクトは、2017年4月と2018年9月の2回、開催しました。それぞれ地域からは観光、漁業、役場、福祉、教育、商店などの次世代リーダーが30名ほど、地域外からは企業経営者、大学教授、官僚、編集者、出版、プロデューサー、他地域の自治体職員など30名ほどが参加して、2泊3日、対話し続けたんです。地域内も地域外も、集まったのは忙しい方ばかり。そうした方々がコ・クリエーションの場に価値を感じ、貴重な時間を空けて参加してくれました。
その結果として何が起きたかというと、まず初回のコクリ!海士の3日間を見て、山内前町長が「(ずっと心配していたが)これで海士町の未来は大丈夫だ!」と涙を流されました。前町長は、地元の若手たちが島外の皆さんと対話する本気の姿を見て、これで自分が引退しても大丈夫 だと思ったんです。また、まちの主要産業である観光ホテルの経営者に、30代の青山敦士さんが抜擢されたりしました。海士町で、30代が主要企業の経営者になったのは史上初のことです。
それから、コクリ!メンバーの一人である英治さん(原田英治さん・英治出版代表取締役)が、1年間親子島留学で海士町に住み、東京との二拠点生活を実行したのも、実に大きな出来事でした。英治さんは、東京からやって来るのに6時間もかかる島に、世界銀行元副総裁の西水美恵子さん、世界的ファシリテーターのアダム・カヘンさんといった名だたる著名人を何人も呼びました。その滞在期間は、全員合わせて200泊にも及んだそうです。そして、英治さん自身も島の人たちに直接大きな影響を与えています。たとえば、彼の経営者としての姿勢を見て、地域のリーダーたちが「後輩を育てる/社員の力を引き出す/チームとして成長する」リーダーに変わりつつあったり、リーダーが自己犠牲・疲弊しながらのまちづくりからの脱却しようとしていたりしています。また、Iターン10年目で、まちの中心的な存在の1人であるべっく(阿部裕志さん)は、コクリ!海士で英治さんと出会ったことで、島から知を発信する出版事業に事業を拡大することを考えています。
他にも、さまざまなコクリ!メンバーが海士町に関わってくれているんですが、英治さんたった一人でも、海士町にもたらした変容は大きい。やはり運命の出会いが起こり、その出会いが地域に変容を起こしました。
コクリ!新富町では、リーダーの潤ちゃんが
最後に男泣きして、経営を半ば手放すまでに変容した
もう1つ、宮崎県新富町の事例も紹介します。新富町では、地域商社のこゆ財団と私たちが中心となって、2018年7月にコクリ!新富町を開催しました。
こゆ財団は、コクリ!メンバーでもある潤ちゃん(齋藤潤一さん)がトップに立ち、ふるさと納税をテコに事業開発を推進する組織で、国の地方創生優良事例に選出されたりして注目を集めています。「世界で一番チャレンジしやすいまち」を旗印にして、一粒1000円のライチなどを開発して有名になりました。また、こゆ朝市は、さっしーさんが関係人口の窓口として素晴らしい取り組みだと褒めていました。ただ、潤ちゃんに話を聞くと、当時はトップダウンでビジネスを進めていて、それでいつまで走り続けられるのだろうかと不安を抱いていたと言います。
コクリ!新富町にも、コクリ!海士同様に地域内から農家・役場・教育・財団・商店などの次世代リーダーが20人、地域外からは起業家・官僚・大学教授・観光・編集者・大企業役員・クリエイター・他地域の自治体職員などが30人集い、やはり2泊3日で対話の場を設けました。
コクリ!新富町で最も印象的だったのは、3日目の最後、全員が輪になって集まったところで、潤ちゃんが男泣きしたことです。彼はそこで「心の底では、1人で頑張る自分を手放したいことに気づいた」と話してくれました。そして、それ以降は仲間を信じて任せるようになったんです。現在は経営も半ば手放すまでに至っています。トップに大きな自己変容が起きたことで、こゆ財団全体が大きく変わったんですね。これも予想だにしない未来の1つです。
また、地元の主婦・永住美香さんが商店街にカフェをオープンしたり、ライチ農家の森哲也さんが新たにバニラ栽培に挑戦していたり、きゅうり農家の猪俣太一さんが認定農業者連絡協議会の会長になったり、役場の高山研二さんが自治体ポイントの推進に取り組み始めたりと、コクリ!新富町をきっかけにして、地域の人たちがチャレンジするようになったそうです。一人ひとりにも自己変容が起きているんです。
さらに、コクリ!メンバーのゆかさん(島田由香さん・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長)は、新富町にWAA(Work from Anywhere and Anytime)初の地方拠点を開設したり、 IoTを活用したシェアサイクル事業を生み出したり、高校生インターンシップや個別のコーチングを行ったりして、まちの皆さんが諦めずに夢を実現する応援者となっています。彼女自身、月1、2回は新富町に来訪していますし、ゆかさんをきっかけにして、何と数十人もの方々が新富町に来ているんです。また、2019年7月には、「ユニリーバ」と、宮崎県新富町でまちづくりに関する連携協定が結ばれるなど、1人の出会いから、会社組織も巻き込み、変化がどんどん広がっています。また、こみーさん(小宮山利恵子さん・スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院准教授)が「しんとみ教育まちづくりプロジェクト」に深く関わっていたりと、地域外のメンバーが新富町で次々に活動しています。
5つのポイントを押さえれば
コ・クリエーション型関係人口は実現可能
では、コ・クリエーション型関係人口はどうやってつくればよいのか。実は、次の5つのポイントさえ押さえれば、実現は十分に可能です。コ・クリエーション型関係人口がこだわるのは、「関係性の質」と「プロセス」です。ゴールを達成するためにプロセスを設定するのではなく、良いプロセスを実現できたら、必ず予想だにしない未来が何かしら立ち現れてくる、という考え方なんですね。その大切にしているポイントを紹介します。
(1)フラットで対等な関係性
一番目に大事なのは、「都会の人たちを先生や主役にしないこと」です。都会の人たちに地域の課題を解決してもらうのではなく、地域内外のひとたちが一緒になって「ともに地域の未来を創ろう!」「一緒に何かを生み出そう!」というスタンスで関わることが大切なんです。その大前提として、フラットで対等な関係性が欠かせません。その象徴として、私たちは肩書きではなく、「あだ名」で呼び合っています。そうすることで、一人の人としての関係ができていくんです。
たとえば、コクリ!海士のような場をつくるとき、まちの皆さんが「すごい都会の人たちが30人もくる」と引け目を感じたり、都会側を「先生」ととらえたりしてしまう、といったことがどうしても起こりがちです。言葉から始めてしまったら、だいたいの場合、都会の人たちのほうが話が上手ですから、都会側が勝って上下関係ができてしまいます。そこで、第1回コクリ!海士では、最初に「綱引き」を行いました。綱引きは、海士町では毎年「隠岐島綱引大会」が行われているくらい、盛んなんです。綱引きから始めて、できるだけフラットで対等な関係をつくろうとしたんですね。
また、コクリ!新富町ではオープニングゲームとして「水鉄砲合戦」をやりました。考え方としては海士町と同じで、できるだけフラットな関係性をつくるためのイベントです。ある農家の方に、海士町では綱引きから始まったんですと伝えたところ、「新富町では水鉄砲合戦が人気なので、これをやりませんか?」とおっしゃった。それで水鉄砲合戦を行いました。
フラットで対等な関係性をつくる上で大切なのが、「事前の一人ひとりとの対話」です。たとえば、コクリ!海士では、主催者メンバーのおかべちゃん(岡部有美子さん)が海士町メンバー全員と事前に直接会って、1時間ずつくらいかけ、場の意図を説明したり、相手の状況をヒアリングしたりしていきました。新富町の場合は、メンバーの中にそもそもワークショップ自体に慣れていない人たちが大勢いて、多くが参加すること自体に引け目を感じていました。そこで、彼らに安心感をもってもらうために、まず私が直接新富町に赴き、10人近くの方々と1~2時間対話しました。その上で、新富町メンバー3~5人が参加するオンライン事前説明対話会も数回実施。そこでコクリ!新富町の場の意図・願いを伝え、集まる人の紹介をした上で、一人ひとりの不安やいまの想い、どんなことが起こってほしいか、といったことを聞き、本番につなげていったんですね。
南小国(黒川温泉)の場合は、先ほどもお伝えしましたが、親世代、青年部世代、周辺の農家・商店の皆さん、役場、県庁などの皆さんが、対等に想いでつながれる関係性をつくっていきました。その結果、親世代がその想いを受け、若手世代を組合の代表理事や理事に抜擢するという大きな変化が起きたんです。また、農家・商店などの皆さんも、ともにまちを創る仲間になりました。
通常は、3日間の場があると、「1日目:地域の視察 2日目:地域課題へのアイデアだし 3日目:アウトプット」というプログラムの流れが一般的です。でも、この流れが、「課題を持った地域」と「都会からきた、課題を解決する先生」という構造をつくってしまうんです。たとえば、30人いると、普段は貸切バスで地域全体を視察案内することから始めるそうですが、これも地域外の人に「お客さん」モードをつくってしまいます。この構造やプロセスを変えて、互いが対等でフラットな関係をつくらないと、現状見えている課題を外の専門家がアドバイスする以上のパワフルなアイデアやコミットは生まれません。つまり、ともに未来を創る、予想だにしない未来を生むコ・クリエーションが生まれないのです。
そこで私たちは、この構造をまるっきり変えました。
いきなり地域の視察や地域課題から入るのではなく、「個人同士が知り合う」ところからはじめる。そして「個人を通じて地域を知る」構成にしました。たとえば、次のポイントでご紹介するホームチームでの「根っこでつながるストーリーテリング」など、互いを知り合う時間を3日のうち2日目の午前中までたっぷり時間をとりました。個人の話を深く聞いていると、自然と地域のことも理解が進みます。
また、地域の1、2名が大型バスで30人を連れ、お客さんをまち案内する形ではなく、ホームチームごとに、仲間として、自分が地域外の人をつれていきたい場所に自分たちの車で自由に案内する、という仕立てにしました。それにより、フラットで対等な関係が築け、根っこでつながり、一人一人が主体的になっていきます。
(2)根っこでつながる
(1)とも強く関係することですが、コクリ!プロジェクトでは、肩書きではなくて、「根っこの想い」でつながることを大事にしています。
根っこの想いとは、簡単に言えば、自分の夢や願いのこと。自分のハラや丹田、源で感じていることのことです。自分の根っこつながると、自分の生まれてきた意味を実感し、内なるエネルギーが、温泉のようにこんこんと湧き出続けてきます。深く感じられた時には、自分個人だけではなく、地球の願いが自分を通してでてきているような、そんな感覚にもなります。ふだん、この根っこを意識する時間はあまりありません。ですから、自分の根っこを忘れていたり、わからなくなっていたりする方も少なくありません。コクリ!では、内省したり、身体の声を聴いたりして、自分の根っことつながる時間を大事にしています。
さらに私たちは、自分の根っことつながった上で、「仲間の根っこ」とつながることも重視しています。そのために、たとえばコクリ!海士では、3日間をともにする6~7名の「ホームチーム」を用意しました。70人全員と3日間で深くつながることはできないけど、この6~7人は一生の仲間となれそうだ、というチームをつくるんです。私たちは、このホームチームをつくるのに、20時間近くの時間をかけています。多様性(地域・職種・性別・年齢など)、興味、性格などを加味しながら、最もつながりと創発が生まれそうなチームを設定したんです。
とっても大切にしていること、それは、お互いの根っこを語り・聴き合う「ストーリーテリング」です。この時間をとても大切にしていて、コクリ!海士では、ホームチームでお互いの根っこを語り合う「ストーリーテリング」の場を用意しました。まる一日くらいかけて、自分と仲間の根っことつながってもらったんです。3日間のうち2日目の午前中まで、この時間をとりました。そのくらい重要視しています。1人40分ほどでじっくり話を聴きあっていきます。
例えば、「自分の人生を振り返り、誇りに思うような、最も嬉しかったこと、力を発揮したことを思い出してください。その印象に残っている“シーン”をありありと教えてください」という問いがあるのですが、毎日隣で働いている同僚でも、その人が人生で一番輝いた瞬間って、意外と知らなかったりしますよね。それだけでなく、自分自身も、日々の忙殺の中でそうしたことを忘れていることが多い。そんな自分が、源からエネルギーが湧き出た瞬間を思い出すことで、自分の根っこに気づくことができるし、それを聴き合うことで、根っこでつなある深い関係が築けていくんです。こうやって自分と仲間の根っことつながることが、その後のコ・クリエーションの原点、原動力となります。
(3)ワクワク・楽しむ・熱量(オーナーシップ)
3つ目に大事なのが、「地域の人が楽しんでやりたいことをやる」ことです。地域外の人のやりたいことを応援するのではなく、自分たちが「ワクワクするか」「楽しいか」「熱量を持って取り組めるか」を基準にするんです。そうすると、その熱量が、地域内外の人たちに伝播していきますし、地域外の人たちとどうやってコ・クリエーションすればよいかも見えてきます。
関係人口づくりの現場では、都会の人たちをお客さん扱いしたり、都会の人たちを主役にしてまちの人たちがお膳立てをしたり、という光景をときに目にするのですが、それはあまり良くありません。なぜなら、地域側が「やらねばならない仕事」に忙殺され、疲弊してしまうからです。
南小国では、地域に関心がある都会の人たちを“お客さん”ではなく“第二町民”として巻きこんでいきました。フラットで対等な関係性を築いたわけです。そのなかで、法被を着てイベントの裏方を手伝う、人の家で飲み明かすといった「第二町民的な旅」が生まれていったんですが、この旅は地域の人たちも第二町民も楽しめるものでした。最終的に、第二町民は新たなふるさとを創ることができ、地域の皆さんは都会の人たちとフラットな関係で楽しめることを知ったんです。その意味ではKUROKAWA WONDERLANDも一緒で、黒川側とクリエイター側が根っこでつながり対話をする中で、「世界に打って出る映像をつくりたい!」という願い・夢が生まれてきました。こうしたコ・クリエーションは、地域外の人たちにオーナーシップを委ねていては決して起きません。
そうやって、地域内外の人たちが一緒にワクワクしたり、楽しんだり、熱量を持てるものをコ・クリエーションするには、まず地域の人たちがオーナーシップを持つことが大事なんです。
(4)お互いが進化する(自己変容)
4つ目に、こうしたコ・クリエーションを経て、参加者がお互いに影響を受け合い、価値観が変化したり、人生が変化していったりするのが、コ・クリエーションの大きな特徴です。
たとえば、コクリ!海士では、海士町のべっく(阿部裕志さん)と東京の英治さんが出会った結果、べっくは海士町で新たに出版事業を始めようとしていますし、英治さんは先ほども触れた通り、海士町に1年間移住するという変化を起こしました。海士町Iターンして10年ほど、海士町の中心的存在として活躍してきたべっくですが、あるコクリの場で「自分は限界だ。このままでは燃え尽きてしまう」と気づいたそうです。それからは、休日にお米づくりをしたり、自然とつながる時間を大事にしたりして、暮らし方を変えました。また、会社の事業も整理し、会社名も「巡の環」から「風と土と」へ変更。本当に自分が使命を感じることに注力していくようになりました。地域づくりのリーダーが自己犠牲を払って疲弊してしまうケースが多いなか、彼の変容は大きいと感じます。
それから先ほど、海士町の観光ホテルの経営者に30代の青山敦士さんが抜擢された話をしましたが、彼はコクリ!海士の際、他地域の仲間に、ホテルの経営にチャレンジすべきかどうかを泣きながら相談したそうです。こうしたことは、海士の中では、関係が近すぎてなかなか本音では相談しにくいんです。その仲間の方は、自分自身の一皮むけた経験を話して、背中を押してくれたそうです。それが、青山さんの社長就任の大きなきっかけになったんですね。そのように、個人が自己変容をしていく過程で地域の変容も起こっていきました。
黒川の事例で言えば、たとえば、クリエイター側の代表メンバーのヤスくん(田村祥宏さん・EXIT FILM inc.)はいろんなクリエイターを巻き込みながら、本領を発揮してKUROKAWA WONDERLANDを創ったことで、その後にやって来る仕事が変わったと言います。また、私の目からは、彼のあり方や地域の人との対峙・関係性の持ち方も変わったように見えます。一方、地域側のゆうきは、これまでは黒川に来る都会の人は“お客様”だから、上下の関係でおもてなしをしたら喜ばれると思っていたけれど、第二町民のみんなが地域の生活を一緒に体験したいと望んでいることを知り、みんなが望んでいたのは横の関係だったんだとわかって、人生観が変わったと話してくれました。黒川の皆さんは、「あの時に歴史の潮目が変わった」と今では言ってくれます。関わる個人の人生が変わった結果、地域の未来も変わっていくんです。また、海士町も第二変容期で、危機感ドリブンの第一世代から、関係人口と共に新しい事業がつくられていく第二世代へと変容してきています。
(5)受け皿の多様性とキャパシティ
そうした場を創ることで、コクリ!が増やそうとしているものの1つが、「主体的に外とつながる地域住民」です。なぜなら、少数の地域リーダーが地域外と持つつながりの数には、一定の上限があるからです。コ・クリエーション型関係人口を多様に増やそうと思ったら、自ら外とつながろうとする地域内の人たちを増やす必要があるんです。私たちは、そうした主体的な地域住民の皆さんの「受け皿」を増やすことを大切にしています。受け皿となる地域の皆さんが増えるほど、コ・クリエーション型関係人口のキャパシティも大きくなっていきます。
言い換えると、コクリ!海士もコクリ!新富町も、「面の関係人口」をつくるための試みなんですね。たとえば海士町では、これまではべっくさんをはじめ、地域の受け皿となる人は数名しかいませんでした。島外からの来訪者も、島外に出て誰かに会いに行くのも、その数名に偏っていたんです。べっくやおかべちゃんたちは、そこに問題意識を持っていました。「島からそんなに出ない人たちにも、コクリ!の人たちとの接点をもってほしい」というのが、彼らの想いでした。「30人対30人」のコクリ!海士の場は、狙い通りに効果を発揮しました。これまで受け皿となってこなかった海士町メンバーに会いに来る関係人口メンバーが何人もできましたし、そうしたメンバーが海士から東京に出るときを狙って、東京で飲み会を開いたりもしています。こうやって地域の受け皿人口が増えると、関係人口の質や量も上がっていくんです。
関係人口には5つの落とし穴がある!
では、「関係人口の落とし穴」を紹介します。これは主に、さっしーさんや小田切さんとの対談から得た知見です。詳しくはお二人の記事もお読みください。
(1)数を追わない
これはさっしーさん、小田切さんのお二人ともおっしゃっていたことですが、関係人口数が増えれば地域が変わる、というのは明らかな間違いです。関係人口は数よりも質のほうがずっと重要で、たった1人の存在で地域がガラリと変わることが多いんですね。英治さんが良い例ですが、特にコ・クリエーション型関係人口なら、1人の存在が地域を変えていくことが珍しくありません。私たちの経験では、数を追いかけるよりも、プロセスを大事にするほうがずっと重要です。また、関係人口側からすると、数が少ないからこそ、濃密な関係が作れますし、役割意識が生まれ、コミットが高まります。行政施策となると、どうしても1年での成果や数を求められたり、KPI設定など必要になったりすることもありますが、奇跡を起こすために大切なのは、関係人口の「質」と「プロセス」です。数・KPI・短期成果を求めすぎると、無理矢理の仕事も増え、地域の疲弊につながってしまいます。その方向に向かう施策はお勧めできません。
(2)移住をゴールにしない
これもお二人ともおっしゃっていましたが、移住をゴールにしてはいけません。時期によって関係が濃くなったり薄くなったりするのが普通です。結果的に移住をする人はいますが、それはあくまでも結果論にすぎません。最初から移住をゴールにしている人はごく少数なんですね。ですから、地域側も移住をゴールと考えないほうがよいでしょう。それに、他の地域に住んでいる関係人口が多様に関わるからこそ、イノベーションが起きやすくなるんです。移住する気はないけれど、地域にコミットする関係人口はたくさんいます。むしろ別の地域に住んでいるからこそ、違う風(リソース・価値観など)を地域にもってこられるんです。移住をゴールにすると、その多様性を消してしまうことにもつながりかねません。
(3)ファンやサポーターと捉えない
ファンやサポーターには当事者意識はあまりありませんが、関係人口には当事者意識がある。ここが大きな違いです。関係人口の多くは、そのまちのことを、まちの人たちと一緒に真剣に考えていく人たちなんです。だからこそ、お客さん扱いをしたり、逆に消費者扱いをしたりせずに、一人の人として遠慮せずに接することが大切です。そのあり方が、コ・クリエーションの契機となっていきます。
(4)単なる労働力と捉えない
関係人口を「単なる労働力と捉えない」ことも大事です。相手を労働力だと思っていて、良い関係を築けるわけがありませんからね。これについては、多くを語る必要はないはずです。一人の人として向き合っていきましょう。
(5)類義語を増やさない
最近、関係人口とほぼ同義語の「つながり人口」「複業人口」という言葉が出てきました。これらの言葉が悪いとは思わないんですが、ただ類義語がどんどん増えることで、関係人口のうねりが小さくなってしまうことは避けたい。さっしーさんはそうおっしゃっていました。も関係人口は、これまで存在していたけれど、言葉にならなかった願いや想いに言葉がついた状態で、私たちが提唱しているGI(ジェネレイティブ・インテンション)の一つでもあり、今後時代のうねりになっていく可能性があると思っています。
関係人口をブームで終わらせたくありません。ぜひ皆さんも一緒に、関係人口という言葉を大事にしていきましょう。
コクリ!の大事な技法の1つ
“根っこでつながる”ストーリーテリングの進め方を紹介!
では最後に、「“根っこ”でつながるストーリーテリングの進め方」を紹介します。これはコクリ!の最も大事な根幹の一つで、「秘伝のタレ」のようなものですが、本邦初公開!これまで全国で100回以上、1人5分×3人チームなどの簡易なものから、1人40分×6人チームという本格的なものまで、“根っこ”でつながるストーリーテリングを行ってきましたが、どんな場面でも、人の表情やその場のエネルギーがパッと変わるほどの威力があると感じています。もちろん、ただこの手法を行えばいいというわけではなく、場をつくる人が、一人ひとりの可能性を信じ、まだ見ぬお互いの根っこに触れあうことで起こる奇跡を信じているかという「あり方」が最も重要です。どんな場でも、最初にこのストーリーテリングから始める、そんなカギとなるエッセンスです。活用したい方は、ご利用いただいてかまいませんが、使用される場合は「出典:コクリ!プロジェクト」を必ず入れてくださいね。ぜひ試してみてください。これだけでも効果を感じられると思いますよ。
もちろん、この問いは一例です。私たちは、参加者の顔ぶれ、状況、ワークへの慣れ、集まる回数などで、問いの内容毎回細かく変更しています。「いい問い」をつくることが、ファシリテーターの腕の見せどころでもありますから、問いのチューニングは欠かせません。ただ、これはベーシックで使いやすい典型的な問いですので、ぜひ活用いただければと思います。
「コ・クリエーション型関係人口」として、私たちが9年間のコ・クリエーション研究の中で見えてきた、地域と地域外の関係性についてご紹介しましたが、いかがでしたか。私自身が実感しているのは、「運命の出会いが奇跡を起こす」ということ。私自身、黒川のゆうきをはじめ、運命だと思う出会いから人生が変わり、生み出すプロジェクトが変わっていきました。そして、地域にとってはたった一人でも運命の出会いがあることで、「地域の人生」が変わっていきます。
もしかしたら、皆さんもすでに「地域の運命の人」にすでに出会っているのかもしれません。ただ、正しいプロセスを経ないと、その人も潜在的な存在で終わってしまいかねません。ぜひ対等でフラット、根っこでつながるプロセスを経て、関係性を深めていってください。運命の出会いを逃さないでもらいたいと思います。一方で、地域と深いつながりをつくることは、地域外、特に都会に住む人にとっても大きな喜びで、彼らが生み出す成果の質が変わっていったりすることも少なくありません。都会も地域も、双方が生かされる、そんな関係人口が増えていってほしいと心から願っています。
関係人口の施策を考えるとき、ここで紹介した5つのポイントのエッセンスを入れるだけでも、きっと状況が変わってきます。たとえば、いわゆるアイデアソンのように、地域の課題を出し、関係人口側がアイデアを考え、地域の人たちにプレゼンをする、という関係人口施策をよく目にします。その初日に、地域と関係人口の人たちで互いを知り合ったり、根っこのストーリーテリングをしたりする時間をとるだけで、コ・クリエーション型の施策に少し変わるはずです。
最後にもう1つ、次の展開を少しだけ紹介します。現状は、プロのファシリテーターがいないと、コ・クリエーション型関係人口を創りきるのは難しい面があります。このハードルを下げるために、現在、プロのファシリテーターでなくてもコ・クリエーションの実践ができる「コクリ!実践ガイド(仮)」を作成中です。2020年にはご覧いただけると思いますので、こちらもぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。