• 2015/08/31
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by KENICHI AIKAWA, RYO SHIMOMURA, TETSUMASA KASAI

コクリ!ラボ・インタビュー(1)三田愛さん – 地域を変えようと頑張っている皆さん、ここには、あなたの仲間がたくさんいます

「コクリ!ラボって、何?」と思っている方々、まずはこの文章をお読みいただけたらと思います。
三田愛さん/リクルートライフスタイル事業創造部 じゃらんリサーチセンター研究員

コクリ!ラボ・インタビュー第一弾として、コクリ!ラボを始めた張本人・愛ちゃん(三田愛さん)のインタビューをご紹介します。始めた経緯と、第1回から第6回までを振り返り、「これまでのコクリ!ラボ」が一体どのような場だったのか、これからのコクリ!ラボをどのようにしていきたいのか、存分に語っていただきました。ラボのことをよくご存じの方も、きっと発見が多いだろうと思います。

「そろそろ、ラーニング・コミュニティを創るときじゃないか」と
ボブに言われたのが、そもそものきっかけ

私は2011年頃から、日本全国の地域を元気にしたいと思い、いくつかのプロジェクトを動かしてきました。熊本県の黒川温泉(南小国町)や上天草市、和歌山県有田市などで、地域を元気にする中核となる「エンジンチーム」を創るプロジェクトや、地域の方々が地域課題を自分ゴトにして、自ら一歩踏み出すサポートをする「土創り」プロジェクトを行ってきました。これらのプロジェクトについては、地域コ・クリエーション研究のページに成果をまとめていますので、興味のある方はぜひお読みください。

最初の頃のコクリ!ラボは、自己紹介から始めていた

2013年、黒川温泉や上天草市、有田市のプロジェクトが一段落した頃、次の展開に悩むようになりました。他の地域で再び一からエンジンチームを創ること、あるいは1年間通い続けた黒川や上天草に今後も定期的に赴き、彼らをサポートし続けることは可能ですし、そうしたい気持ちもあったのですが、それでは先進的な研究にはつながらない。次の段階に進む時期が来ていたのです。問題は、私が直接関われるのが1年で最大4~5地域だということ。それでは、いつまで経っても「点」が増えるだけです。私はそろそろ、点を面にしていきたかった。どうしたらいいのだろうと悩んでいた頃、ちょうどボブ(ボブ・スティルガーさん)と打ち合わせする機会がありました。ボブは以前からの知り合いでしたが、黒川や上天草、有田などでの私の取り組みを具体的に紹介するのは、このときが初めて。そこで今後を相談したら、ボブが言ったんです。「愛ちゃん、そろそろラーニング・コミュニティを創るときじゃないか」。本当にその通りだと思いました。ラーニング・コミュニティがあれば、私がしょっちゅう行かなくても、黒川や上天草は「チェンジ・エージェント(自ら変革し続ける人・組織)」であり続けられるし、他の地域も私が自分の手で変えていかなくてもいいかもしれない。「ピッタリのアイデアだ、すぐにラーニング・コミュニティを立ち上げよう!」と思いました。これがコクリ!ラボ誕生のきっかけです。

前野先生は第3回に初めてゲストとしてきていただいた。いまではメンバーの一人

上天草の人たちが、黒川の動きから学び
自ら行動を起こしたことも、コクリ!ラボにつながった

もう1つ、コクリ!ラボのきっかけとなった出来事がありました。2012年から始まった上天草市のプロジェクトでは、役所のあっくん(北岡敦広さん)、おっくん(山川康興さん)、ゆうやくん(西釜裕也さん)の3人と一緒にエンジンチーム創りをしたのですが、彼らがあるとき、私が黒川温泉で行っていた「フューチャーセッション」をオブザーブしたんです。このフューチャーセッションでは、黒川温泉のエンジンチームだけでなく、町役場の方や農家さんなど、黒川温泉がある南小国町の多様な方々が参加して、町の今後を語り合っていました。黒川では、上天草と違って、行政だけでなく、市民が中心となって熱く地域の未来を対話している。3人はこのことに強くショックを受け、「自分たちも同じことをしたい!」と言って、すぐに上天草町で「未来自分ゴト会議」を開催したんです。スライドを提供したり、心がまえを教えたりといった部分では私も関わりましたが、基本的には彼らがすべて創り上げ、ファシリテーションもおっくんが担当。当日、私は涙が出るほど感動しました。

賢州さんは第2回からメンバーに。賢州さんから学ぶことは多い

自主的に開かれたこと自体がすでに素晴らしかったのですが、この会議からは具体的な成果も上がりました。会議の参加者が中心となって、早くも翌月に民間主導の「上天草海風マルシェ(現:マルシェ上天草)」が開かれ、約1000人を動員する成功イベントとなったのです。私のような「よそもの」が主導していたら、きっとここまで急速な変化は起きなかったはず。地元の人たちが主体的に動くと、影響力も大きいんです。この一件で、地域を変えていくのは地域の中の人々だと確信しましたし、地域の中の人々を動かすには「地域同士の学び合いの場」が必要だと知りました。ボブと打ち合わせをしていたとき、こういったことがすでに頭の中にあったので、「ラーニング・コミュニティ」のアイデアがより魅力的に見えたんだと思います。絶対に面白い場ができる!と思いました。

コクリ!ラボでは、ときに一人で内省する時間を大切にしている

都市の人々がすべきことを知っていて、
地域に教えに行くという時代ではなくなった

第1回コクリ!ラボは、黒川、上天草、小布施など、「土創り」がある程度進んでいる地域の変革の実践者たちに声を掛け、2013年10月、3日間の日程で開催。緊張しながら始めたのを覚えています。最初にボブから場の意味や目的を話していただきましたが、その言葉はいまだに印象的です。「都市の人々がすべきことを知っていて、地域に教えに行くという時代ではなくなりました。今、世界のあちこちで、地域の人々が自分たちで方法を見つける取り組みが始まっています。それらと同じように、私たちはこれから、新しいチャレンジをしている各地域が集まり、実践と学びを共有することで、大きな変革を起こしていくのです」。ラボは今も、このメッセージの延長線上にあります。あと、「地域はいつもぐちゃぐちゃで、“これをやれば成功する”というのは全部思い込み」とボブが言ったのも、このときでした。

身体で何かを表現することも

第1回には、早くも大きな発見がありました。多くの地域課題が共通していることです。「危機感が共有できない」「責任の所在が不明確」「合意形成が難しい」といった問題を、どの地域も抱えていました。これらの課題の解決策を全員が一緒に考えていくことで、例えば「さまざまな人の本音を探りやすい場を設けることが大事ではないか」などのアイデアが生まれてきました。皆で悩みを出し合い、解決策を考えるグループワークの必要性を最初に実感できたのは大きなことでした。

チームに分かれて対話するなかから、新たなアイデアを生み出していく

「なくなっても、誰も困らないコミュニティ」が、
第4回から、「私たちのコミュニティ」に変わってきた

第2回では、ラボの未来を皆で考えることができ、「トランジション・タウン」のヒデさん(榎本英剛さん)や京都の賢州さん(嘉村賢州さん)から学ぶことも多かった。第3回は、前野先生(前野隆司さん)に「幸せの4因子」を教えていただき、ワクワクと経済の両立を皆で考えました。さらには、ラボの場で、各自が自分と向き合った上で、他の実践者から学び、共鳴し、ときに混乱しながら刺激や学びを得て、それを地域に持ち帰って実践し、地域での成果を再びラボで共有するという流れもでき上がりつつありました。

チームの対話やアイデアの内容は、必ずその場で皆に共有

しかし、悩みや問題がなかったわけではありません。第3回くらいまでは、私がほぼ一人で3日間のスケジュールを細かく組み立て、スライド創りなどの準備をしっかり行い、いつも全体をリードしていました。まだ「私のコミュニティ」で、きっとこの頃にラボがなくなったとしても、私以外は誰も困らなかっただろうと思います。

一人ひとりが思ったことを発言できる「安心・安全な場」を重視している

それが、「私たちのコミュニティ」に変わっていったのが、第4回。初めて東京を離れ、黒川温泉で開催したときです。全員が黒川温泉に泊まり、ゆうきさん(北里有紀さん)をはじめとする黒川・南小国町チームがホストとなって、かなり主体的に動いてくれました。このとき、私と皆の関係がかなりフラットになったんです。この辺りから、「集合知」の立ち上がりがはっきり見えてきたのも印象的で、「ラボを“シンクタンク”にしよう!」などと語り合ったことが、いまや本当に目標となりつつあります。

最初は必ず、皆で円を作って「チェックイン」から始める

「みんなで創る場」になるなんて、
最初の頃は、まったくの想定外

第5回では、べっく(阿部裕志さん)から海士町の実践例と知恵を学び、改めて地域課題の根幹、解決の方向性が一緒であることを知りました。ここで新たなチームが一気に増えたことも特徴で、彼らの受け入れに時間をかけた回でした。前野先生が再び来てくださったのも思い出深いこと。前野先生、べっくなど、この頃から、ゲストとして招いた方が仲間になっていく動きが起こったのは嬉しい変化です。第6回以降は、坂倉先生(坂倉杏介さん)、保井先生(保井俊之さん)も加わって「慶應義塾大学チーム」ができ、ズク(藤原正賢さん)と土肥ちゃん(土肥梨恵子さん)の「学生チーム」も立ち上がり、地域の実践者以外の人たちが増えてきたのも変化の一つ。

場合によっては、皆で一気に知恵を共有していく

第6回は、「コクリ!キャンプ」の成功を目的にして集まった回です。私がコクリ!キャンプの準備で大変だったこともあって、宮崎チームと小布施チームが、私の代わりにホストを引き受けてくれました。振り返れば、コクリ!ラボは、この頃から完全に「みんなで創る場」になっていたと思います。私がファシリテーションを手放せるようになり、スライドを創って説明する時間も減りました。第7回なんて、まったくスライドを用意しなかったけれど、それでもうまくいきました。それどころか、私自身が悩みを吐露し、弱みをさらけ出せる場になったんです。こんなこと、最初はまったく想定していませんでした。

真剣に対話する時間と同じくらい、笑顔が絶えない時間を大切にしている

これからのコクリ!ラボは、
社会実験を行う人たちの集合体でありたい

最初の頃、コクリ!ラボは「自分を取り戻す場所」という側面が強かった。地域を変えようとしている人たちは、地域ではなかなか自分の弱みを出せないし、悩みを話せないけれど、ラボに来れば、自分を解き放つことができるからです。ただ最近は、ラボメンバーたち自身が、それだけでは物足りなくなってきている様子。各メンバーが「地域に変革を起こそう」「世界に向けたプロジェクトを仕掛けよう」「突き抜けた成果を出そう」という気概をもち、ラボでの学び合いの場を活用して、多様なコクリ事例を創出し始めています。

第4回のコクリ!ラボ@黒川では、自然のなかでも対話した 第1回コクリ!キャンプの準備や振り返りも、コクリ!ラボで行った

これからのコクリ!ラボは、地域を変えるために実践をする人たち、社会実験を起こす人たちの集団でありたいと思っています。さらにいえば、地域に限るつもりもありません。実際、第7回では「ラボOpenDay」を設け、都市部を中心に、地域を応援したい企業や大学、国の仲間たちにも参加していただき、地域×都市、地域×企業のコ・クリエーションを促進していきました。イトーキの戸田さん(戸田裕昭さん)が、そこで出会った丹波チームの元くん(井口元さん)、はるちゃん(田代春佳さん)と意気投合し翌週には丹波に行くなど、次々に新しい動きが起きています。今後はこうした、より新しい化学反応が立ち上がるための仕掛けづくりにも挑戦していきます。

海士町のべっくは第5回にゲストとしてきていただき、そのままメンバーに

きっと、日本全国にまだ見ぬ仲間がたくさんいるはず。ラボの構造上、現時点でいきなり参加者を増やすのは難しいのですが、できるだけ多くを受け入れられる仕組みを創っていきたいと思っています。コクリ!メソッドを活用したい方々に向け、ハンドブックや映像などを通じて、メソッドを提供していきたいとも思っています。地域を変えようと頑張っている皆さん、ここにはあなたの仲間がたくさんいます。共有できる方法やノウハウ、事例があります。皆さんに提供できる情報は、このWebサイトやFacebookページなどで逐一お伝えしていきますので、定期的に覗いていただけると嬉しいです。

コクリ!ラボはこれからも3カ月に一度のペースで続けていく予定だ

〈コクリ!ラボ・クロニクル〉

第1回コクリ!ラボ(2013年10月)

開催地/東京
参加チーム/南小国・黒川チーム、チーム上天草 ハッピーズ、小布施チーム、信濃町チーム、富山チーム、高知チーム
ファシリテーター/三田愛さん、ボブ・スティルガーさん
主な内容/●各地域での取り組みストーリー共有 ●地域変革手法の学習 ●日本全体におけるコクリ!ラボの役割探究

第2回コクリ!ラボ(2014年2月)

開催地/東京
参加チーム/南小国・黒川チーム、チーム上天草 ハッピーズ、小布施チーム、高知チーム、京都チーム、宮崎てげてげチーム
ファシリテーター/三田愛さん、ボブ・スティルガーさん
ゲスト/榎本英剛さん(よく生きる研究所代表、トランジション・ジャパン初代代表)
主な内容/●各地域の実践共有 ●個人の想いの探究 ●ナレッジ・カフェ ●トランジション・タウン(ゲストトーク)

第3回コクリ!ラボ(2014年5月)

開催地/東京
参加チーム/南小国・黒川チーム、チーム上天草 ハッピーズ、小布施チーム、富山チーム、高知チーム、京都チーム、宮崎てげてげチーム、沖縄チーム
ファシリテーター/三田愛さん、ボブ・スティルガーさん
ゲスト/前野隆司さん(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授)
主な内容/●各地域の実践共有 ●ワクワクと経済の両立について ●幸せの4因子(ゲストトーク) ●ラボの価値とは、ラボで/地域で取り組みたいこととは

第4回コクリ!ラボ(2014年9月)

開催地/熊本県・黒川温泉
参加チーム/南小国・黒川チーム、チーム上天草 ハッピーズ、小布施チーム、高知チーム、京都チーム、宮崎てげてげチーム、沖縄チーム
ファシリテーター/三田愛さん
ゲスト/松崎郁洋さん、後藤健吾さん(黒川温泉の先代の方々)
主な内容/●各地域の実践共有 ●黒川温泉の先代の方々へのインタビュー ●地域変革の共通課題整理 ●ラボのビジョニング ●挑戦したいこと

第5回コクリ!ラボ(2014年12月)

開催地/東京
参加チーム/南小国・黒川チーム、チーム上天草 ハッピーズ、長野チーム、富山チーム、高知チーム、那須チーム、有馬チーム、草津チーム
ファシリテーター/三田愛さん、ボブ・スティルガーさん
ゲスト/前野隆司さん、阿部裕志さん(株式会社 巡の環 代表取締役)
主な内容/●各地域の実践共有 ●リーダーシップと自己の想いの探究 ●新しい地域経済のあり方とは(ゲストトーク) ●感動のメカニズムと感動するまち、感動する旅ワーク(ゲストトーク・ワーク) ●コクリ!キャンプのプランニング

第6回コクリ!ラボ(2015年2月)

開催地/東京
参加チーム/黒川・南小国チーム、チーム上天草 ハッピーズ、小布施チーム、高知チーム、那須チーム、海士じゃキンニャモニャ!チーム、信州しおじりチーム、慶應義塾大学チーム、学生チーム
ファシリテーター/三田愛さん、ボブ・スティルガーさん
主な内容/〈1日目〉●第5回の振り返り ●コクリ!キャンプの情報共有・意見交換・準備 〈2日目〉●第1回コクリ!キャンプ(全員参加) 〈3日目〉●コクリ!キャンプでの気付き・問いの共有 ●コクリキャンプで生まれた問いを考える ●次回へ向けてのアクション

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