2016年末から始まった「コクリ!2.0」。その参加者は、コクリ!2.0の場をいったいどのように感じているのか。長期間参加するメンバーには何か自己変容が起きているのか。その辺りについて伺っていく「コクリ!2.0インタビュー」を始めました。第4回は、ホラクラシーで知られるダイヤモンドメディア株式会社代表取締役のタケイちゃん(武井浩三さん)に、2018年3月に開催した「GI探究デイ」について、そのなかでも特に「SPTいけばな」の体験・感想について詳しく伺いました。
※研究チーム参加者:愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)
※インタビュー:米川青馬
チームメンバーの身体に触るのはちょっと気恥ずかしさがあった
愛 タケイちゃんは建長寺のコクリ!キャンプ2017が初参加で、今回の「GI探究デイ」が2回目でしたが、2つの場に参加してみてどうでしたか?
タケイ 建長寺のときは初めてだったので、最初は多少様子見をしていたんですが、途中からはチームや流れに身を委ねて楽しむことができました。なかでも身体ワークが面白くて、たとえばチームメンバーが自分の課題を身体で表現するワークをサポートしたときには、僕の中にもその課題を解決するためのアイデアや想いが浮かんできたりしたんです。これまでにない体験をさせてもらいました。ただ、チームメンバーの身体に触るのは、ちょっと気恥ずかしさがあったことも確かですね。
GI探究デイの「SPTいけばな」は、結論から言うと、個人的には前回の身体ワーク以上に発見が多くて、体験できてよかったと思っています。いけばなの表現力の広さが、良い方向に働いた感じがしています。相手の身体に触れる恥ずかしさがなかったのもよかったのかもしれません。
「僕が現場に寄り添っていないこと」が問題の核心にあると見えてきた
愛 「SPTいけばな」は、今回私たちが新たに開発したワークですから、読者の皆さんはご存じありません。ですから、私のほうで順を追って説明しながら、タケイちゃんに詳しく伺っていけたらと思います。今回のSPTいけばなでは、まず1回目のワークとして、「桜」「ピンクマム」「スプレーマム」「コデマリ」の4種類の花にそれぞれ役を与えて、「誰かの抱えている課題」をいけばなで表現してもらいましたよね。この1回目では、いけばなの基本の型を一切無視して、美しさよりも意味や関係性、想いを前面に出してもらいましたが、どうでしたか?
タケイ 僕のチームでは、僕が抱えていた課題を使いました。「僕が代表取締役を務めるダイヤモンドメディアの新規事業が行き詰まっている」という課題です。ダイヤモンドメディアは、上司なし、ルールなし、管理しない経営スタイルを導入している会社で、「TEAL組織」「非管理経営」「ホラクラシー経営」などと呼んでもらうことも多いです。僕も単に会社法上必要だから代表取締役をやっているに過ぎず、誰かの上司ではありません。社長だからといって、自分が関わっていない新規事業に手出しすることは、基本的にはできない仕組みになっているんです。ただ、そうはいっても、新規事業が成功してほしいという想いは人一倍強く、どうしても口出ししたくなってしまう。つまり、ホラクラシーのもとで新規事業を手放して任せているようで、完全には手放せていない自分がいるわけです。このモヤモヤからどう抜け出せばいいのか。これが、当時の僕が抱えていた課題でした。
そこで、僕のチームでは、それぞれの花に
「桜=僕」
「ピンクマム大=プロジェクトマネージャー(新規事業を仕切るメンバー)」
「ピンクマム小=エンジニア・デザイナー・カスタマーサクセス(新規事業の現場メンバー)」
「スプレーマム=不動産会社・管理会社の経営陣、不動産オーナー(顧客の経営層)」
「コデマリ=不動産会社・管理会社のスタッフ(顧客の現場社員)」
という役を与えて、SPTいけばなをスタートしました。
愛 課題を提供した人は、チームメンバーの作業中に話したり、手出しをしたりしてはいけないというルールでしたが、みんなが花をいけていくのを見ていて、どうでしたか?
タケイ 最初に桜、つまり僕がドーンと置かれたんですよ。1回目は、その桜の存在に強く影響を受けながら、硬直した感じで進んでいきました。高く伸びている桜に影響されて、すべての花が、直線的に上に向かうように配置されていったんです。その結果、背の高い桜(僕)やスプレーマム(顧客経営層)と、背の低いピンクマム小(新規事業の現場メンバー)やコデマリ(顧客の現場社員)の間に距離ができてしまいました。これを見ていて思ったのは、いつもひたすら理想ばかり話す僕に引っ張られて、自社・顧客の現場が無理をしたり、困ったりしている姿でした。もう少しわかりやすく言うと、顧客の経営層に理想を話して、それに共感してもらい、新たなシステムを導入してもらうのが僕の役目です。しかし、そのシステムの導入が決まると、ダイヤモンドメディアの現場メンバーや顧客の現場社員は、どうしたって忙しくなるわけです。そのとき、僕がその現場に寄り添っていないことが問題の核心にあるんだ、ということが、はっきり見えてきたんです。ただいけばなづくりを眺めているだけなのに、不思議ですよね。みんなが花をいけているのを見ていると、一人ひとりが何をどう考えながら花をいけているのかがわかるんですよ。そのうち、本当にピンクマムがSEに見えてきたり、スプレーマムが不動産オーナーに見えてきたりしたんです(笑)。あれはいったい何だったんでしょうね。
それに、チームメンバーのみんなが、ダイヤモンドメディアの内情を知っているのではないかと思うくらい、的確に配置していったのにも驚きました。ダイヤモンドメディアは、不動産業界向けのクラウドサービスやアプリケーションをつくっている会社で、IT業界の中でもマニアックなビジネスを展開しています。ですから、会社の細かいことをみんなが知っているわけがないんですけどね。それも本当に不思議で、チームメンバーのスゴさを感じました。
まゆかさんの一手で新規事業に口出しするのを控えることに決めた
愛 2回目は、その1回目の作品を受けて、今度は美しさを追求した作品を作ってもらいました。2回目はどうでしたか?
タケイ 実は、1回目からえいすけくん(太刀川瑛弼さん・NOSIGNER代表)がひっきりなしに器を変えたりしてくれていたのですが、2回目はさらに新しい器を持ってきて、余った花や葉を投げ入れたりして、チームに遊び心を持ち込んでくれたのが、特に印象に残っています。そのおかげもあって、全体的に作品に動きが出てきて、1回目の硬直した印象がなくなりました。その結果、すべての花が上に向かうのではなくて、適度に下に重みがついてきて、落ち着いた作品になっていきました。それから、桜(僕)が、1回目よりもピンクマム小(現場社員)やスプレーマム(顧客)に寄り添う形になって、見栄えがずいぶん良くなったんです。1回目よりも断然美しく自然な仕上がりになりました。
そして、何より忘れられないのが、最後に今回のいけばなの師範・まゆかさん(山崎繭加さん)が、でき上がった僕たちの作品を整えてくれたときに、桜の先っぽをチョキンと切って、それを下にそっと添えたことです。まゆかさんは、僕の課題のことも、みんながどうやって作品をつくってきたかという文脈もほとんど知らないんですよ。それなのに、ただ作品のバランスだけを見て、僕らにとって完璧な一手を指したんです。だって、その一手は「経営者の僕が、理想ばかりを追って上に伸びているばかりではダメで、一方では地に足をつけて、現場に寄り沿わなくてはうまくいかない、理想と現実のバランスを取らないといけない」という強烈なメッセージだったのですから。それを見て、僕やチームメンバーはみんな「すげー」とか「まじか」といった言葉を発しました。僕だけじゃなく、チーム全員が同じメッセージを受け取りました。
僕はこの一手を見て、新規事業に口出しするのは一切控えることに決めました。新規事業に取り組むメンバーが花を咲かせるのを、ただじっと見守り、待つことにしたんです。
いまも日常的にまゆかさんの一手をよく思い出す
愛 SPTいけばな、いまはどのように記憶に残っていますか?
タケイ 頭で学んだことではなく、体感したことなので、全然忘れないんですよね。あれから二週間くらい経ちますけど、いまも日常的にまゆかさんの一手をよく思い出すんですよ。そして、「桜の先っぽを切らなくちゃ」「また理想ばかり追いかけていないかな」「片足はしっかり地面につけておかなくちゃ」などと我に返るんです。僕は小さい頃に交通事故に遭っていまして、それ以来、いまでも道路を渡るときは絶対に右・左・右を見るようにしているんですが、それと似ていますね。きっとこれからもしばらく忘れないと思います。
あと、いま振り返ってよかったなと思うのは、SPTいけばなの前に、まゆかさんにいけばなの基本、花の活かし方を教えてもらったことです。あれで「花を活かす」ことを知ったのが、良い体験になった理由の1つだと思います。僕たちが目指す経営スタイルは、いけばなの精神に共通する部分があると思っているんですよ。たとえば、僕たちは、最短で会社や利益を大きくすることを目標にしていません。個人的には、花に例えるなら「いかに美しく咲くか」を追求していると考えています。また、正しいか正しくないかよりも、仲間と心を通い合わせながら、ワクワクする方向に向かうようにしていて、そのために僕自身もエゴを排除したいと思っています。そう思うと、いけばなのことを知ったこと自体が学びだったかもしれません。
それから、今回のSPTいけばなのチームに、建長寺で一緒だったるーさん(藤井薫さん)、大島さん(大島正幸さん)、けんちゃん(藤代健介さん)たちがいたのも大きかったです。ゆきさん(井上有紀さん)やえいすけくんも含めて、今回のチームには、自分のことを思いきってさらけ出して大丈夫という安心感がありました。
愛 最後に、GI探究デイ全体について、何か感想をもらえたら嬉しいです。
この場を通じて、新たな接点ができました。たとえば、ゆうじろうさん(本川祐治郎さん)やユーティーさん(吉田雄人さん)とつながることができたんです。お二人とも不動産業界に詳しく、参考になるお話をさせていただいています。今後、こうしたコクリ!でのつながりを基に、会社ではできないような面白いプロジェクトに取り組めたらいいなと思っています。
武井浩三さん
ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役。会社設立時より経営の透明性をシステム化。「給与・経費・財務諸表をすべて公開」「役職・肩書を廃止」「働く時間・場所・休みは自分で決める」「起業・副業を推奨」「社長・役員は選挙と話し合いで決める」といった独自の企業文化は、「管理しない」マネジメント手法を用いた日本初のホラクラシー企業として徐々に注目を集めるようになった。現在では不動産テック・フィンテック領域におけるITサービスを中心にサービス展開を進める一方、ホラクラシー経営の日本における実践者としてさまざまな媒体への寄稿・講演・組織支援などもおこなう。第3回(2017)ホワイト企業大賞受賞。著書に『社長も投票で決める会社をやってみた。』(WAVE出版)がある。