• 2017/10/27
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
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コクリ!の深い話(6)気づいたら「コクリ!が当たり前」の社会になっているのでは ●宮城治男さん

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第6回です。特定非営利活動法人エティック 代表理事・宮城治男さんに、コクリ!プロジェクトの現在と将来について伺いました。聞き手は直樹さん(太田直樹さん)です。

コクリ!プロジェクトは「説明できないもの」に正面から向き合う稀有な存在

―― 宮城さんが創業した「ETIC.」は、今や日本を代表するNPO法人の1つです。ETIC.のさまざまなプログラムを通して、これまでに700名以上の起業家が生まれ、約5500名の若者たちが変革・創造の現場に参画していると伺いました。そのプログラムのなかには、「地域ベンチャー留学」「YOSOMON」「右腕派遣」など、地域や地域企業を対象にしたプログラムも多く、地域の現場のこともよくご存じだと思います。一方で、宮城さんは、コクリ!プロジェクトを始めた愛さん(三田愛さん)とは、愛さんの学生時代からの知り合いであり、理解者でもあります。都市や地域の現場とコクリ!プロジェクトの両方を知る宮城さんに、今のコクリ!プロジェクトがどう見えるのか、コクリ!プロジェクトの将来はどうあるのがよいのかといったことを伺えればと思っています。(直樹)

宮城治男さん

ETIC.の創業は1993年ですが、愛ちゃんは1998年頃にETIC.のインターンプログラムに参加していた大学生の1人で、それ以来、ずっとつながりがあります。私がコクリ!プロジェクトに参加しているのは、最もシンプルに言えばこの人がいるからです。彼女のピュアな探求心に、つい巻き込まれてしまう。あの親しみやすい関西弁で、こっちが思わず素になってしまうんですよね。超忙しいキーパーソンたちが、みんなロジックを越えた世界でコクリ!に巻き込まれている。首長さんや大企業の幹部のみなさん、いい年をしたオジサンたちが、訳もわからないまま即興劇などをやらされている姿は、時にシュールな感じなのですが、コクリ!を象徴する場面のような気もする。そして最後には素になって、立場とか年齢を越えて仲良くなっている。何か、「我に返る」機会をくれているような気がします。とても不思議な求心力です。

ところで、日本の歴史をおおざっぱに振り返ると、明治以来、日本は兵力(富国強兵)や経済力(戦後復興)といったわかりやすい指標を掲げて、国を強くしてきました。地方創生にKPIなどの指標を使うのも、その延長線上にあることでしょう。そして、かつてはそれらに貢献することが、そのまま人生の成功にも直結するというわかりやすさがありました。しかし、今を生きる私たちにとっての「幸せ」とか「生きがい」は、KPIなどのような従来のものさしでは測れないものです。そもそも言葉で説明しにくい。だから、ずっと横に置かれてきました。しかし、それが横に置かれてきたからこそ、現代日本には心の病が増え、多くのビジネスパーソンが働く意味を見失っているのではないでしょうか。多様で豊かな選択肢があるにもかかわらず、どう向き合っていいかわからないし、それが生きづらさにさえなってしまっています。

ETIC.が手がけるプログラムの1つ「地域ベンチャー留学」

コクリ!プロジェクトに大きな価値があるのは、そうした「説明できないもの」に正面から向き合っている稀有な存在だからだと思います。コクリ!の場に入れば、普段はビジネスの厳しい世界で揉まれている皆さんも、多少強制的に「説明できない世界」に触れることができる。ここにくると、我々が縛られてきた世間のロジックを越えて、本当に大切にしたいものは何なのか、問い直したくなる。一緒にピュアな探求心に立ち戻れるというか。こうした「説明できないもの」に人を巻き込むのは、本来は簡単なことではありません。世間のロジックや序列を持ち出して、謝金とかを払ってお呼びしたら、とても計算が合わない。地域で動いていても、愛ちゃんみたいに素で地域に入ってくる女性の右脳的な感性が、既存の壁を壊してくれることがよくあるのですが、コクリ!の場合は、日本を代表する地域まわりのキーパーソンを巻き込んで、それと同じことをやってしまっている。みなさん、ここに来ると、結果的にとても大切なものを得ていくんですよ。上質な出会いだったり、新たな世界観だったり。ただ、そんな人生観が変わるようなインパクトに出会えたとしても、ロジックでは説明できないし、ましてやKPIなどの指標では測れない。なぜ集まるのかと問われたら、「愛ちゃんに呼ばれたから」としか答えられないんですよね。ある意味プライスレスな求心力ですよね。

―― たとえば「介護」は、わかりやすい指標では語れない領域の1つだと思うのですが、コクリ!のエッセンスを持ち込めるのでしょうか。(太田)

できると思います。もっと言えば、「おもてなし」のような日本の高質なサービスを海外に輸出したいという声は大きいですが、コクリ!なら、それを面的に実現できる可能性があるかもしれないとさえ思います。なぜなら、コクリ!プロジェクトは、幸せや介護やおもてなしのようなことを、「成功・失敗の定義」のような本質的なところまで一度立ち戻って、これまでとはまったく違ったロジック、違った方程式で解こうとしているのですから。一方で、そもそも説明できなかった深い価値のあることを何とかロジックにしていこうという試みも、コクリ!の挑戦のような気がします。そのほかにも、コクリ!のアプローチで、たとえば「認知症のお年寄りが自由に、ありのままに暮らせる街をつくるには?」といった問いに向き合うこともできるんじゃないでしょうか。介護する側、される側といった従来の二分法的な壁を越えて、みんなを当事者にできる可能性があると思います。

地域の現場は人が育つキャパシティが大きい

―― ところで、宮城さんは、現在の地域の現場をどう見ていますか?(直樹)

ETIC.が地域に着目し始めたのは2003年頃でした。なぜ地域に目をつけたかと言えば、地域の現場は、人が育つキャパシティが大きいからです。私たちは「起業家や若者の育成」を常に目指しており、人が育つ場はどこにあるのか、ということをずっと追求してきました。その結果、彼らを地域企業のおじさんたちに預けるのは、かなり効果があることがわかってきたんです。なぜなら、地域だとやり抜く理由を積み重ねやすいからです。地域には、人間関係の濃いつながりがある。絆の力があるんです。頑張っていると、応援してくれる人、喜んでくれる人、ご飯を食べさせてくれるような人が出てくる。そうして地域の皆さんに認められたり、愛されたりすると、力が湧いてくる。つながりが生み出すパワーが都市とは違うのです。そしてそれが挑み続けるバックボーンになっていく。

なかでも特に3.11以降、私たちは東北にコミットし続けています。それは、東北から未来の力、未来の可能性が生まれているからでもあります。たとえば毎年、ハーバード・ビジネス・スクールの何十名もの学生たちが、「ジャパンIXP」というプログラムで東北を訪れ、東北の皆さんにお手伝いをしています。IXPというツアー型プログラムは、他にも世界中にいくつかの行き先があるのですが、ジャパンIXPが一番人気で、何年も連続で行われており、リピーターになる学生も多い。彼らのほとんどは、東北の皆さんの生き方、暮らし、親切さ、楽観的なものの見方、達観した人生観などに感動して帰っていきます。売上・利益・KPIのような従来の経済のものさしで測れば課題だらけでしかない場所に、ハーバード・ビジネス・スクールの学生が毎年大勢やってくるというのは、実に興味深いことです。こうした謎に挑み、謎を解いてくれるのがコクリ!ではないかと感じています。

太田直樹さん

―― ところで、コクリ!もいずれは政策提言をしたほうがいいと思いますか?(直樹)

無理に政策提言をゴールにする必要はない気がします。今はインターネットなどを通じて、多くの人の発言が影響力を持ちうる時代です。一人の高校生の発言が、世界中に広まり、政策に影響を与える可能性だって十分にあるのです。要は、どうすれば欲しい結果が得られるのかを考えればよいのだと思います。

個人的には、コクリ!プロジェクトは中途半端に政策提言をしようとするよりも、今まで通り、思いきり振り切った行動を続けていけばよいのではないかと思います。提言として簡単に人に責任を任せてしまうよりも、得たい結果に向かって、実際に人をつなげ、コトを起こしていくことのほうが、コクリ!らしいかと。また、そもそも提言というかたちで、誰にでもわかるロジックに整理した段階で、コクリ!の魂が抜けてしまうかもしれません。ただし、コクリ!らしい活動を続けるなかで、最終的に巡り巡って、イノベーティブな提言が生まれる可能性はあると思います。その時には、たとえば首長さんや行政パーソンも、もはや仲間、当事者となっているはずですから、単なる提言を越えたインパクトにつながることでしょう。たとえば、コクリ!から、「みんなが楽しく関われて、まったくお金がかからない政策提言」が生まれたとしたら、どうでしょうか。フリーパスでどんどん提言が通っていくかもしれません。こうした新たな発想が生まれたら、そのときに政策提言に打って出たらよいのではないでしょうか。

「見えにくいうねり」がいつの間にか世界を変える

――私たちはコクリ!ムーブメントを生み出し、持続させていきたいと考えているのですが、何かアドバイスをいただけないでしょうか。

私は、世の中の変化の流れには、誰の目にもはっきりと見える大きな「波」と、水面下にあって、誰もが気づくわけではないけれど、一度変化したら後戻りしない「うねり」があると考えています。

たとえば、1980年代のバブル景気や2000年頃のITバブルは、目に見えた「波」でした。私はITバブルの最中、渋谷のビットバレーでITムーブメントを起こす事務局の担当をしていました。つまり、ITバブルのど真ん中で、制御不能なバブルのプロセスを最初から最後まで味わったのです。私は、このような清濁併せ飲む大騒ぎも、世の中を進化させる大きな力の1つだと考えています。もちろん、いつかははじけて終息するのですが、バブルがあるから前に進める部分があるのです。実際、どの国の政策よりも、ITバブルがベンチャーを推進しました。

第2回コクリ!キャンプにて

ただ、そうした波よりも大事なのは、波の下で起こっている「うねり」です。たとえば、東日本大震災は、それ自体が大きな波でもありましたが、一方で、そもそも私たちは何のために生きるのか、今本当に大切にしたいものは何なのかといった、高度経済成長以降の私たちの心の底でずっと大きくなってきていたうねりに気づく大チャンスをくれたような気がしています。たとえば、地域で挑戦する若者やボランティアの動きなどは、ブームと捉えられがちですが、私自身はそのうねりが部分的に表出したにすぎないと思っています。後ろには、実はもっと大きく不可逆的な変化があるのです。

コクリ!プロジェクトが向き合っているのは、このうねりの部分ではないでしょうか。一言でいえば、コクリ!プロジェクトは、コ・クリエーションのうねりを創り出したり、加速させたりしているのだと思います。とらわれを捨てて、自分たちが本当に欲しい未来に素直に向き合い、創り出していく。コクリ!2.0で言っているような「まるごと変容」や「システムセンシング」や「一人ひとりの自己変容」の重要性は、今はまだ多くの方の理解を得られないかもしれませんが、気づいたら「システムセンシングが当たり前」「まるごと変容が当たり前」の社会になっている可能性は十分にあります。

ですから、コクリ!プロジェクトは、世の中の表面上の波に翻弄される必要はないと思います。軸をぶらすことなく、うねりを見据えた研究を続けていけばよいのではないでしょうか。

私は、実はコクリ!の最も大事なインパクトは「我に返る気づき」を提供してくれることにあるのではと思っています。私たちは普段、資本主義社会でくみ上げられてきた強固に見えるロジックや数字、またそれらを失う恐れなどに大きなエネルギーを割いています。しかし、本当に今もそうしたことに実体があるのでしょうか。コクリ!には、そうしたことを一瞬でばかばかしいものに思わせてくれるような不思議なパワーがあります。実は、私たち一人ひとりがこのようにして、はっと我に返ったときに、今のロジックではとらえどころがないけれど、本当は大切なこと、心の底にあるものが自分とつながっていることに気づくのかもしれません。それに気づいたら、力づくでも何かを変えなければ、わかりやすい結果を出さなければ、といった想いにとらわれることもなくなるでしょう。コクリ!は、みんなが本当は心の底で大事にしていることに気づかせてくれる場所、一人ひとりの内側にある真実にただ向き会うアシストをしてくれるような存在になれる気がします。こうしたコクリ!のアプローチがうねりをとらえたら、そのインパクトは計り知れないはずです。表と裏がひっくりかえるような時代が、もうすぐそこまで来ているように思います。

第2回コクリ!キャンプにて

ですから、コクリ!チームは、変化のうねりのおおもとを見据えながら、コクリ!のメカニズムを探しながら、今まで通り楽しく行動を続けるべきではないでしょうか。その積み重ねが、結果的に大きな求心力になるはずです。そのうち気づいたら、コクリ!プロジェクトが社会の当たり前を創る最前線にいるのではないでしょうか。

宮城治男氏
特定非営利活動法人エティック 代表理事
1972年徳島県生まれ。1993年、早稲田大学在学中に、学生起業家の全国ネットワーク「ETIC..学生アントレプレナー連絡会議」を創設。2000年にNPO法人化、代表理事に就任。

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

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