コクリ!プロジェクトは、2017年から新たな動きを見せていきます。そのコアメンバーである賢州さん(嘉村賢州さん)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん)、なおきさん(太田直樹さん・聞き手)の対談をお送りします。コクリ!プロジェクトのネクストステップ、少しだけでも感じていただけたらと思います。
賢州さん/嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事
場づくりの専門集団を組織。第1期~第3期京都市未来まちづくり100人委員会・元運営事務局長(~2011年)。
洋二郎さん/橋本洋二郎さん/株式会社ToBeings 代表取締役社長
外資系戦略コンサルティングファーム、株式会社ザマー代表取締役を経て現職。組織開発コンサルティング、社員研修の企画・実施、エグゼクティブコーチングなどの事業展開を行う。
聞き手・なおきさん/太田直樹さん/総務大臣補佐官
モニターカンパニー、ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナーを経て現職。地方創生とICT/IoTの政策立案・実行を補佐。
問題は個人ではなく構造にある
――― まずはお二人のプロフェッショナルとしての経験を聞かせてください。
賢州 学生時代、国際交流プロジェクトをきっかけにして、合計100くらいのプロジェクトに関わりました。プロジェクトにハマったんです。皆で力を合わせると、普段想像できないことを成し遂げられる点に惹かれました。いくつもの団体と関わっていると、いろいろなことがわかってきます。たとえば、普段は飲み会ばかりやっているようなところが、意外にファシリテーションを学んでいる団体よりも本番のパフォーマンスが良かったりするんですね。支え合いの絆ができ上がっているからです。そうやって観察しながら、プロジェクトや組織の力をもっと発揮するにはどうしたらよいのだろうと考えるようになりました。
それで大学卒業後は、自分なりにさまざまなプロジェクトの運営を行ってきましたが、2007年に1000人が参加する場のファシリテーターをすることになって、初めてOST(オープン・スペース・テクノロジー)に出会ったんです。OSTの「人は信じていれば動くので、余計なことをする必要はない。ファシリテーターは場から消えてなくなるのがいい。そこではじめて参加者の自己組織化が起こるのだ」という考え方が気に入って、しばらくは日本中のまちづくりの現場でOSTばかりやっていました。そのうち、ミラツクなどに参加して、ワールドカフェ、プロセスワーク、学習する組織といったOST以外のさまざまなテクニックや思想とも出会うようになり、まちづくりや組織変革に熱中して現在に至ります。なかでも、2008年から3年間携わった京都市未来まちづくり100人委員会で成果が出たことが、大きな自信につながりましたし、世界が広がるきっかけになりました。あとは、ボブ・スティルガーさんが日本に持ち込んだ参加型トレーニング「Art of Hosting」にも影響を受けましたね。Art of Hostingで創られたコミュニティは、続いていくんです。
最近は、日本内外のさまざまなファシリテーション手法や理論、心理学的手法、体験学習などを横断的に見ながら、それらを自分なりに統合して、新たな手法を発明することに力を入れています。特に、組織やコミュニティの新しい運営モデルを発明したいと思っています。問題は、個人ではなく構造の側にある。組織の構造が変われば、世界や社会が大きく変わると思うのです。
洋二郎 僕は直感で行動を起こして、行動の意味がわかるのは5年後、10年後というケースが多いんですよね。その前提でお話しすると、学生時代は国際政治、なかでもEUや国際紛争を研究していて、コソボ紛争が小休止した時のユーゴや、ポル・ポトの戦火が収まったばかりのカンボジアなどにも行きました。当時はわからなかったのですが、紛争後のカオスの状態から新しく何かが生まれる過程に惹かれていたのだと思います。それで最初は外務省・国連・JICAなどで働くことを考えたんですが、どこも働くイメージがなかなか湧かなかったんです。そうこうしていたら、就職活動を始める前に多くの企業の採用活動が終わっていたのに気づき(笑)。
そんなとき、たまたまコンサルティングという仕事が面白いと聞いて、ジェミニ・コンサルティングに飛び込んだんです。この会社は戦略系のコンサルティングファームとしては少し変わっていて、人は戦略だけでなく、戦略と政治と感情の3つで動くのだと考えており、いち早く企業のファシリテーター育成プロジェクトを手掛けたりしていたんです。また、僕の上司は、クライアントに手ぶらで訪問して、その場で先方の話を引き出し、合意形成することを得意としていました。当時はそれを「手ぶらコンサルティング」と呼んでいましたが、今思えば、上司はすでにそのとき、相当にレベルの高いファシリテーション1.0(日々の会議で使うテクニック主体のファシリテーション)を行っていたんです。僕も上司から、そのテクニックを学びました。偶然、ファシリテーションに早くから触れる機会があったんですね。
その後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て独立しました。最初はITサービスの開発にも関わるベンチャーを経営していたのですが、その当時に自分の本当にしたいことを探求した結果、人・組織の状況や行動(Doing)を問題視して外発的に解決するのではなく、人や組織が内発的に集合的に生み出す「あり方(Being)」が大事だと思い、2007年にToBeingsという会社を立ち上げました。
ちょうどその年、ピーター・センゲが来日して話を聞いたとき、彼はこう言いました。「人にとって呼吸が大事であるのと同じように、企業にとって売上や利益は大事なものだ。それがなかったら死んでしまう。しかし、人も企業も、呼吸するために生きているわけではないだろう?」この話を聞いて、まさに自分の課題意識を言葉にしてもらった感じがしました。資本主義はとても効果的なシステムですが、その過度な進展のなかで、分断や細分化や働く意味の喪失も進んでいます。自分の表面上の仕事は、組織活性化や新規事業開発、リーダーシップ開発ですが、その背後には、個人や企業のなかにある大志や可能性に光を当て、誰もがより大きなシステムにつながり影響を与えていることに気づき、そこから存在意義(Being)やビジョン(To Be)の物語を皆で紡ぎ、自己変革するプロセスを意識しています。学習する組織やプロセスワークなどは、その変革を実践する思想や手法の一つですね。
――― お二人が特に企業に向けて提供している価値って、なかなか伝わりにくいものではないかと思うのですが、大変なことや失敗などはないのですか?
洋二郎 まず、企業は目的や効果が見えないと動かない、というのは違うと思います。最初はプロジェクトの効果や計画を出すことを求められますが、そこで止まってしまうとしたら、提供側にも問題があります。委託と受託の対峙の関係性に留まり、相手を説得したり、変えようとしたりしているのかもしれないからです。大変ではありますが、クライアントと対話を重ね、十分に信頼関係やビジョンを共有する関係性になれば、多少見えなくても共にチャレンジしようとします。
ですから、手法を説明して導入するようなことをしません。「対話」を説明して導入しようとすると、その説明して納得させようという行為が「対話」的ではなくなりますし、組織の今を否定して外に答えを求める外発的変革になるので、うまくいかなかったらどうするのかといった議論になってしまうからです。
賢州 わかります。様子見が始まるんですよね。「このファシリテーターはどこに連れて行ってくれるんだろう」と評価的になったり、受身になったりする。そして、ファシリテーションの成果を求められるようになります。変革はファシリテーターが生み出すものではなく、一人ひとりが生み出すもの。ですから、必要なのは説明ではなく、ファシリテーションで大切にしている世界観を自ら体現するということかもしれません。
洋二郎 一度実践してみて、クライアントと僕が両方とも変わったと感じてもらえたら、スムーズに進んでいきますね。
コクリ!はゴールフリーだから面白い
――― では、なぜコクリ!プロジェクトに関わったのかを聞かせてください。
洋二郎 僕は新しいことを始めるとき、これだと思って突き進むものと、フワーッと相手に身を任せていくものの両方があるのですが、今回は後者です。つい最近、愛ちゃん(三田愛さん)の熱さに誘われてやってきました。
それに、詳しく話を聞いてみたら、領域こそ地域と企業で違うものの、コクリ!プロジェクトと僕のやっていることには親和性があったんです。対話の場を通じて、参加者の皆さんが既存の枠組みを越え始め、相互作用の仕組みや個人のインターナルシステムに変化が起こってくると、新たな動きが始まるという点では同じなんです。
違う点は、企業は変革を起こしたい人がトップや現場にいて、そこにお金や権限がついてプロジェクトになることが多い一方で、ソーシャルな課題は関係者が多様にいて、お金も権限も一筋縄ではいかないことです。前者は、プロジェクトの出だしは比較的容易ですが、やらされ感になりやすいのと、内発的動機の持続に難しさがあります。逆に後者は、関係者の共感的合意を経て、何かを始めようとするまでが大変で、その後の枠組みの持続にも難しさがあると感じています。大事だけど、始めることにすら難しさがあるコクリ!のようなテーマに関わる意義は大きく、そこに惹かれているところはありますね。
賢州 僕は、2014年2月に行われた第2回コクリ!ラボにゲストとして呼ばれたことが縁となって、コクリ!プロジェクトに参加しました。その後、コクリ!キャンプのコ・ファシリテーターなどを行って、最近では愛ちゃんの代わりにコクリ!の場のファシリテーターを担当するようになっています。
――― 普通のファシリテーションとコクリ!プロジェクトのファシリテーションで、何か違いはあるのですか?
賢州 もしかしたら使っている手法は似ているものがあるかもしれません。コクリ!が一番他と違うのは、メンバー構成だと思いますね。魅力的なメンバーが入れ代わり立ち代わり参加していることが、コクリ!の力になっています。たとえば、2015年に「コクリ!京都」を行ったとき、参加した京都の皆さんがずいぶん喜んでいたのですが、一番の成功要因は、京都外から来てくれたさまざまな才能が京都の事例に反応し、知恵を出してくれたことだと思います。それから、指揮者がいないのが面白いですね。多様性を持った横断的な自己組織化コミュニティであることに、大きな価値があると思います。どうしても対話の場は、同じコミュニティの人同士が集まったり、あるいは対話好きや対話に慣れている人に偏ったりしてしまって、創発が生まれないことが多いんです。
洋二郎 コクリ!は、ゴールフリーの感覚が強いですね。もちろんコ・クリエーションや北極星といった大きな方向性はありつつも、愛ちゃんをはじめとする運営側が目的やゴールを決めず、面白いメンバーから生まれてくるものを信じているところが面白いと思います。
賢州 コクリ!は、軽さとまじめさのバランスがよいと感じています。以前、僕はITベンチャーを立ち上げたのですが、そのときに「雑談からムーブメント」というキャッチフレーズを掲げました。皆で時間や要件を決めて会議するのではなく、シェアハウスのようなところで軽く思いつきを話し合うなかから、面白いムーブメントやイノベーションが起こることが意外と多いんです。用意された真面目なアポイントではそれはなかなか生まれません。そうした軽い雑談の部分と、真面目に深く問題を分析したり、長期的な問題意識を持ったりする部分が、絶妙に絡み合っているのがいいと思います。MICHIKARAのようなムーブメントも、まさにそうしたところから起きていると感じています。
ホールシステムチェンジを体系化したい
――― ようやく本題に入りますが、今後のコクリ!プロジェクトをどうしていきたいですか?
賢州 日本中で今、対話の場への「飽き」が来ているように感じます。これは仕方のないことです。最初のうちは、講演会・シンポジウム・異業種交流会などの代わりに、安心安全な場を用意して、ワールドカフェやOSTといった言葉ベースの対話の場を行っていれば、新しい人や考えに出会え、コラボレーションが多数生まれます。しかし、それらの新鮮な喜びは長続きしないもの。今では、単なるシンプルなコラボレーションでは皆さんが満足しなくなってきていまし、根本的なシステムチェンジは生まれないのだと思います。
しかし本当は、対話の力はそんな柔なものではありません。その場に身を委ねてディープジャーニーに入り、その人のなかに大きな揺らぎが起こったとき、その数時間で人・組織は大きく変わるのです。コクリ!プロジェクトも、ディープジャーニーがもっと起こるように発展していくとステキだなと思っています。
洋二郎 賢州さんの言う通り、対話の場は日本にある程度普及しました。しかし、一歩深めてホールシステムチェンジ(システム全体の変革)を起こすための手法や実践知は、まだ確立されていないと思います。ワークショップのようなイベントの場だけではなく、日常での変化に寄り添い、特定の手法に偏るのではなく起こるべき変化に伴走し、長期にわたるシステム全体の自然な変容をどう促していけばよいのか。僕は今、その手法の体系化を進めたいと思っています。なぜなら、対話の場をつくることではなく、ホールシステムチェンジを起こすことに価値があるからです。コクリ!も同じで、ホールシステムチェンジを起こせる場にできるかどうかが問われていると思います。
――― 今後、なぜコクリ!プロジェクトが必要なのでしょうか?
賢州 現状のシステムでは、大きな影響力のある方が、大義名分のもとで「これをこう変えようじゃないか」と提案して変革を進めていきますよね。ですが、それでは多様なステークホルダーが関わる問題を解決することはできません。多様性に対応するには、現場のさまざまな実験を吸い上げながら、柔軟に対応できる仕組みを創らなくてはならないのです。そもそも、どのような問題も一つの正解など存在しません。何かを改革すれば、必ず作用と副作用が起きます。ですから、僕らは変わり続けていかなくてはならないのです。しかし、特に大きな組織や制度を変え続けるには、影響力のある方々に時間をかけて対話していただく必要があります。その場を提供するのが、これからのコクリ!プロジェクトだと考えています。
洋二郎 個人も組織も、現状でできることは素晴らしくやり尽くしていると思います。その現状を超えてシステムの変容が起きるには、その最下層を構成している個人や組織のメンタルモデルに揺らぎが起きる必要があります。特に、自分はどこの会社でどういう役割でという外的な自己定義や、自分は◯◯な人だという内的な自己定義が、内なる衝動から揺らいだ時に、311後のような人々のうねりが起こるのだと思います。その点で、コクリ!の場には、影響力のある役割・立場でいるにもかかわらず、本当は揺らぎたい人が集まってきていると感じます。そもそも愛ちゃんが、「揺らぎませんか?」と声を掛けているようなところがある。その点で、コクリ!の場には可能性を感じます。
世の中を見てみると、さまざまなレベルでコラボレーションは増えてきています。しかし、コラボレーションでは、自分の「服」を脱いで対話するのは難しい。コクリ!のように、一人の人同士として対話し合う場は、やはりまだまだ希少です。そこにコクリ!の価値があるのではないでしょうか。
賢州 海外で生まれた「サステナブル・フード・ラボ」をはじめ、国や地域の優れたリーダーたちが、「私は何者か?」を伝え合い、話し合うのはカッコいいことだと思います。僕たちは、コクリ!をそうした話し合いがもっと盛んに起こる場にしていきたいと思っています。
洋二郎 たとえば今、「働き方改革」が大きな課題となっていますが、働き方改革についてよく話されるのは、長時間労働の抑制やブラック企業をなくすこと。しかし、こんな話題だけではちっともワクワクしませんよね。でも、このテーマで組織開発をするとすごく自分ゴトになる。「AI(人工知能)の発展などで、今の自分の仕事の多くが代替できるとしたら、本当は何をしたい?」「時間や場所や所属や属性などの制約がなく働けるとしたら、どんな生き方がしたい?」 最初は「?」が100個くらい出ますが、少しずつ自分の衝動に火がつき、とある経営者は家族への想いに気づいて、娘を保育園に送りに行くことを最優先し、それに合わせて自分の仕事のしかたや会社の文化を変革しようとしています。さらに、このテーマを企業以外のステークホルダーを交えて対話すると、ポジティブな話だけでなく、格差や貧困のシステムにまで踏み込むことになりますね。
僕たちは、コクリ!の場を、こうした社会変容の源にしたいんです。そのためにも、今後のコクリ!は、システムという「目に見えないもの」を体感したり、身体だけが知っている個人の衝動に気づいたりといった新しい手法を取り入れ、ホールシステムチェンジを起こすための持続的なプロセスをより体系化・実践していきたいと思っています。
賢州 改めて説明したいと思いますが、「Teal」という新しい組織の概念や、目に見えないものの相互作用を大事にする「プロセスワーク」の思想などを、今後コクリ!プロジェクトに取り入れていきたいと思っています。
――― 今日はありがとうございました。でも、まだ何をするのかわかりにくいかもしれませんね。そこで、最後に少しだけ自己紹介を。私(太田直樹)は、2015年2月にコクリ!キャンプに初めて参加して、さらに今年2016年はコクリ!のさまざまな場に参加させていただき、コクリ!は日本にとって大事なコミュニティになるぞ、と思って、2016年10月から戦略の検討をお手伝いしています。
わかったのは、コクリ!が、すでに世の中にあるリーダー・社会起業家育成やハッカソンなどの場とは一線を画する、歴史が変わる社会実験ができる場として、稀有な存在であるということです。これからコクリ!は、次のステージに進むことになります。今回対談した洋二郎さん、賢州さんは、世話人として深く関わっています。お二人を軸に、国内外の多様な人が関わり、システム全体を変容させる活動や手法の開発が進んでいきます。
詳しくは、また来年ご説明しますね。