2016年末から始まった「コクリ!2.0」。その参加者は、コクリ!2.0の場をいったいどのように感じているのか。長期間参加するメンバーには何か自己変容が起きているのか。その辺りについて伺っていく「コクリ!2.0インタビュー」を始めました。第3回は、2006年リクルートに入社後、ニジボックス代表取締役社長 兼 CEO、TECH LAB PAAK所長、リクルートホールディングス新規事業開発室室長などを経て、2018年に退社・独立し、新会社アルファドライブとゲノムクリニックを設立したよーちん(麻生要一さん)にお話を伺いました。 ※インタビューは、第2回の英治さん(原田英治さん)と一緒に行いました。
※研究チーム参加者:愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)
※インタビュー:米川青馬
社会を変えるには「感情」に働きかけることが大切だと気づいた
愛 よーちんは、これまでのコクリ!の場で何が印象に残っていますか?
よーちん 第1回のコクリ!キャンプから参加しているんですが、振り返ると、軽井沢(2016年秋に軽井沢で行ったコクリ!2.0の実験の場)に参加したのが、今の自分を作る大きなきっかけのはじまりだったと思います。それまでのコクリ!は、少し毛色の違う交流会という程度の印象だったのですが、軽井沢でのプログラムはまったくの別物で、しかも主催者側も、まだ自分たちが何をしたいのかが固まっていなかった(笑)。でも、僕はその軽井沢の挑戦的な場にハマってしまったんです。それ以来、コクリ!2.0@増上寺、コクリ!海士、コクリ!キャンプ2017と、今日まで大きく影響を受けてきました。
愛 いったいなぜそんなにハマったんですか?
よーちん 例えば、軽井沢で経験したはじめてのSPT(ソーシャル・プレゼンシング・シアター)で、父性リーダーシップを発揮して、理屈や正しさでみんなを説得しようとしても、社会は動かないことを体感したんですね。本当に社会を動かしたいなら、理屈や論理を超えて、みんなの「感情」を揺さぶる必要があるとわかったんです。やっぱりそうだよなと思いました。というのは、ここ数年、自分の生き方やあり方に悩んでいたからです。
僕は、社会人になってから長らく、新規事業を、特に「インターネットサービス」の領域で推進する仕事をしてきました。インターネットサービスの世界では、あらゆる物事を数字にブレイクダウンして、数字だけで効率的に判断を下していくことができます。組織や経営という「人」の構成する意思決定のシーンでも、その傾向は顕著でした。ちなみに、数字をベースにロジックで意思決定をすると、経営は確かにある程度はうまくいくんです。うまくいくというか、無用な失敗の確率を減らすことができる。でも、30歳を過ぎた頃から、何かが違うんじゃないかと思い始めました。「こういう風に生き続けていいのだろうか?」「数字やロジックに偏重すると、感覚的には正しくない方向に行ってしまうことがある気がする」「論理化できない部分にこそ本当は向き合う価値があるのではないだろうか?」と考えるようになったんです。だって、いまは極めて不明確で、説明のつかないことでどんどん世の中が変わっていく時代です。その時代に、果たして論理性だけで向かっていけるのか、と考えるようになったわけです。旧来型のマネジメントや経営の手法を説く教えの中では「ケースや数字から判断すればいいんだ」と言ったりしますが、それに感じる違和感が少しずつ大きくなってきて、そんなときに、軽井沢で「社会を変えるには、論理で説得するのではなく、感情に働きかけることが大切だ」と気づき、やっぱりそうだよなと思ったんです。その辺りから、コクリ!2.0にハマっていきました。
何がどう作用して意思決定に至ったのかよくわからない
愛 軽井沢の後はどうでしたか?
よーちん コクリ!2.0@増上寺、コクリ!海士、コクリ!キャンプ2017と、毎回ボディワークやSPTを体験しましたよね。その結果、すごく大きな変化が自分自身の内側にあって、最近は「本当に大切なことは言語化できない」「言葉で理解するのは止めよう」「思考を信用するのを止めよう」と思うようになりました。なぜなら、意識化されていないもの、言語化されていないもの、人間の「意識」として形作られた要素の間に「削ぎ落とされてしまったもの」こそが、本質的に未来を形作っていくと考えるようになったからです。言語や思考に頼るのではなく、「ただセンシングする」ことがもっとも未来を見通すことができる方法だ、と考えるようになったんです。
愛 まさしくGIですね。
よーちん 建長寺のコクリ!キャンプ2017の場が、リクルートを辞めて起業すると腹に落ちた瞬間だったのですが、なぜその場でその結論に心が至ったのかは覚えていません。起業するための事業内容なども、大きな方向性はあっても何か確定的なものがあったわけではありません。というか、常にあえて100%は決めきらずに生きていこうと考えています。すべてを言語化して決めきってしまうと、視野や理解が狭くなると思うからです。
愛 すごい! なにが意思決定の決め手だったんですか?
よーちん 実は、何がどう作用して意思決定に至ったのか、よくわからないんですよ。だから、わからないと説明するのが正解だと考えています。というか、コクリ!2.0の場は、そもそも論理化や言語化に向かないと思います。コクリ!の場で何かしらのテーマで対話しても、一向に結論が出ないことが多いですけど、それがきっと正解なんですよ。論理的に「まとめない」ときにこそ、一番強いインパクトが出る場なんです。なぜかというと、言葉を使わないボディワークや、論理的にまとめない対話などを通して、さまざまな価値や意味を場に保っているからです。僕が会社を辞めて、起業すると「腹に落ちた瞬間」はコクリ!建長寺の場だったのですが、それは、理屈では説明できない「場」に備わった価値や意味が作用した結果だと思います。僕だけじゃなく、コクリ!2.0の場で変容する人が多いのは、そんな、「言葉にならない価値や意味」がその場に溢れていることが大きな理由じゃないでしょうか。
対して、従来の経営は、数字とロジックで過剰にシンプルにすることで、判断効率を上げていますが、そうすると、言葉にならない価値や意味を、どうしてもそぎ落としてしまうんです。コクリ!2.0の場は、それとは真逆です。
愛 確かに、コクリ!は「言葉にならないもの」を大事にしています。
よーちん これから訪れる社会は、AI、ロボット、iPS細胞などのおかげで、近い将来的には「人が寿命を克服して死ななくなる時代」すら視野に入っていく社会だと思っています。もし仮にですが、本当に不老不死を人間が手に入れる時代になったら、何が起きると思いますか? おそらくはこれまで正しいとされてきたすべての前提が崩れて、これまでの歴史が作った論理や方程式は無価値化されて、逆に「人間とは何か?」といった「究極の問い」に対して「探求する力」が極めて重要になっていったりするのだと思います。そうしたことを話し合うときに、シンプルに数字やロジックを組み立てていく手法は逆効果です。きっと宗教や哲学が見直されたり、ボディワークの価値が高まったりするに違いありません。コクリ!のように、さまざまな価値や意味を保つ場が求められるのだと思います。
麻生要一さん
2006年、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、ファウンダー兼社長としてIT事業子会社(株式会社ニジボックス)を立ち上げ、経営者としてゼロから150人規模まで事業を拡大後、ヘッドクオーターにおけるインキュベーション部門を統括。社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」及び、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」を立ち上げ、新規事業統括エグゼクティブとして約1500の社内プロジェクト及び約300社のベンチャー企業・スタートアップ企業のインキュベーションを支援した経験を経て、自らフルリスクを取る起業家へと転身。2018年2月に企業内インキュベーションプラットフォームを手がける株式会社アルファドライブを創業。また、2018年4月に医療レベルのゲノム解析のサービス化を目指す株式会社ゲノムクリニックを共同創業。