• 2016/03/14
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by KENICHI AIKAWA

第2回コクリ!キャンプで語り合った「問い」(1)本当に本当にデザインするべきものとは?

数名のメンバーが、第2回コクリ!キャンプで語り合った「問い」についてご紹介していきます。

コクリ!キャンプで話し合った「問い」

第2回コクリ!キャンプは、互いに深くつながった上で、「これから日本に共創型社会を創っていくために、いま解決したい社会的課題」を皆で出し合い、その本質や解決方法などを皆で対話する場でした。では、コクリ!メンバーの方々は、実際にコクリ!キャンプでどのような問いを出したのでしょうか。なぜその問いを投げ、どういった対話をしたのでしょうか。何人かの方にお話を伺いました。最初は、ソーシャルイノベーションデザイン(社会や未来により良い変化をもたらすためのデザイン)を理念としたデザインファーム「NOSIGNER」を率いる太刀川瑛弼さんです。

Q:本当に本当にデザインするべきものとは?

僕がコクリ!キャンプで投げた問いは、「本当に本当にデザインするべきものとは?」でした。その意図を簡単にお話しすると、世界では産業革命から「近代」が始まりましたが、その頃にできた考え方に、僕らはいまだに乗っかっています。その考え方とは、「市場を拡張すると、豊かになる」というもの。それ以来、我々は市場を拡張し続けており、デザイナーは「バリエーション」を生み出し続けてきました。たとえば、ミネラルウォーターの中身は、どれもほとんど同じ「水」なのに、パッケージデザインが違う商品のバリエーションがいくつもあります。そうしたものが、世の中には溢れています。しかしバリエーションが、僕らにとって本質的にデザインするべきものではないのは明らかでしょう。

ではイノベーションはどうでしょうか。人はたくさんの発明を生み出してきました。課題を解決するたびに便利になり、市場も拡大していきました。自動車を発明すれば遠くまで行けるようになり、農薬を発明したら農業の生産性が向上しました。当時、それらは社会に良いイノベーションとして登場したはずです。しかし、結果として自動車は地球温暖化をもたらし、農薬は身体や自然を侵しています。

僕はデザインの可能性を信じていますが、こうしてみると新しい物を作る意味について、本当にじっくりと考える必要がありそうです。改めて、僕たちがいま「本当に本当にデザインするべきもの」は何なのでしょうか。これは、誰も答えを持ち合わせていない、おそらくは正解のない問いです。

みんなが想像力を拡張していったら、世界は確実に変わる

この問いの裏には、「できるだけ遠くまで、未来への縁を見通したい」という気持ちがあります。僕らNOSIGNERは、どのような案件でも必ず、クライアントの要望やクライアントの持っている問いを、可能な限り拡張するという理念を持っています。要望はつねに葛藤から始まりますが、その葛藤が解決したからといって、それによって別の課題が生まれてしまうのであれば葛藤は終わりません。問いを拡大することで、単なるバリエーションを超えたデザインを創り、将来にわたって、できるだけ多くの人に必要とされるものを形にしたいと願っているからです。

問いを発表する太刀川さん

ところが、たとえクライアントの問いを上手に拡張できたとしても、その先には、今度は問い同士の衝突が起こることがあります。たとえば少子高齢化は、高齢者の不自由を解決できないことが問題なのか、出生率の低さの原因である若年層のサポート不足が問題なのか。ゴミ問題は、ゴミが出る商品を生む企業が問題なのか、ゴミを価値化できない消費者が問題なのか。伝統産業は、文化のために守るべきか、新市場を生み出す革新を進めるべきか。それぞれ難しく、何層にも想像を拡張しないと、相応しい答えはなかなか見えません。こうした問いの未来を、できるだけ遠くまで見通したいと思っているのです。

デザイナーはある意味では罪深い仕事で、必ずものを生み出してしまいます。たとえば、ペットボトルは安全に衛生的に水を運べる便利なものですが、環境には良くありません。デザイン、すなわち新しい形をつくることが世の中に良いなんて、とても言い切れないと思います。しかし、そこで止まったらそれで終わり。僕がデザインしなくても、誰かがそれを作り続けてしまうでしょう。僕らにも、想像力を拡張して、本当に本当にデザインするべきものを考えることはできるはず。考え続け、よりよい形を発見したいというのが僕らの姿勢です。

おそらく、同じようなことで悩んでいる方は、他にもたくさんいらっしゃるのではないかと思います。その全員が、「本当に本当にデザインするべきものとは?」を本気で考えれば、何かが変わるはず。さらに、世界中の誰もが、いま日々の仕事で問われる問いを拡張し、世界や未来を俯瞰しようと努めて、想像力を拡張していったら、世界は確実に良い方向に変わっていくでしょう。

「ここは、バカをさらけ出す価値のある場所だ」と思えた

この問いには、こうした背景があるのですが、コクリ!キャンプの場に、この問いを投げようと準備していたわけではありません。そもそも、それまで僕は「本当に本当にデザインするべきものとは?」と誰かに問いかけたことは、一度もなかった。僕はデザイナーですから、デザインすべきものがわかりません、という問いは無知をさらけ出す行為で、気恥ずかしい問いです。ですが、当日集まっている人たちの顔を見て、ふと「この問いを出してみよう」と思いついたのです。

それは、コクリ!キャンプに集まる人達にたいする信頼でしょう。それぞれの分野の一線で活躍する人がこれだけ集まっていて、しかも普段相談できないことを相談できる雰囲気があり、深い信頼関係があったからだろうと思います。「ここは、バカをさらけ出す価値のある場所だ」と思えたんです。コクリ!キャンプは、市長や町長、大学教授や企業の経営者などの「日常は何でもわかっていなくてはならない方々」も含めて、皆が自らの無知を自覚する場。誰もが、自分は特別ではないと感じることのできる場です。だからこそ、この問いを出すことができたのだと思います。僕なんかよりも、ずっと大変なことに深く向き合ってきた人たちがいる。そんな場所で、一緒に無知を追ってみたいと素直に思った。そうしたら、この問いが自然と頭に浮かんできたのです。

その意味で、コクリ!キャンプには、「すでに学んできた人の学び舎」という機能があると思います。ほかにはなかなか見つからない貴重な場です。

「視野を拡大したいと思う気持ち」を名づけたい

「本当に本当にデザインするべきものとは?」について、当日一緒に話し合ったのは、るーさん(藤井薫さん)、トッド(Todd Porterさん)、じゅんじゅんさん(黒木潤子さん)、山ちゃん(山田崇さん)、たじさん(但馬武さん)。薄暗いタープの下に集まった効果もあって、かなり深い対話になりました。長くなるので内容は省略して、重要な点だけをかいつまんでお話しします。

薄暗いタープの下に集まって、「本当に本当にデザインするべきものとは?」を話し合った

第一に、「視野を拡大する意識に、名前をつけるのが重要じゃないか」という話になりました。僕としては、この問いを考えることで、僕らの視野の拡大を起こしたいと思っているのですが、その「視野を拡大したいと思う気持ち」「問いを拡張してしまうマインド」に名前をつけようということになったのです。名前をつけるなんて、まったく考えたことがありませんでしたが、名前をつければ、誰でも再現できるようになる。意義のあることだと思います。例えば昔の人は、自分を超えた視点に「観自在」などといった名前をつけていました。観自在菩薩、つまり観音様のことですね。自分たちの視野を拡張しようとすることが、信仰でもあったのです。現代の僕らも、なにかこの拡張意識に名前を考えると、広まっていくスピードが早まるでしょう。そういえば、たじさんは「THE LAST(最後の・究極の)」という言葉を発見して、自分がやりたい方向性が固まったと話してくれました。

薄暗いタープの下に集まって、「本当に本当にデザインするべきものとは?」を話し合った

一番僕が驚いたのは、山ちゃんの行動力です。最後に、各チームが話し合ったことを自由に発表する時間がありましたが、結論がないので僕は何も発表する気がありませんでした。答えがないままに仮説を立てていく対話はおもしろかったのですが、何か明快な答えが出たわけではないですから。でも、そこで山ちゃんが僕の手を取って「たっちー、君は話すべきだよ!よくわかんないけど話すべき!」と走り出したんです。そして僕らは、よくわからないままに壇上にいました。「結論ありきで世界が動くわけじゃないんだな、世の中にはこういう力があるんだ」と。彼の行動力に感動しました。機会やチャンスを意味する「機(はずみ)」という言葉があります。偶然を「機」と捉えられるかどうかで、人生も世界も決まるところがあると思うのですが、このとき、山ちゃんは何の「機」もないところに「機」をつけたのです。なにも発表すべき成果のない発表というのは、久々に緊張しましたが、それも良い経験だったと思います。

薄暗いタープの下に集まって、「本当に本当にデザインするべきものとは?」を話し合った

実をいえば、コクリ!キャンプの短い時間だけでは、全然話し足りていません。また、対話のなかで、トッドが「こうした議論こそ、大きなソーシャルインパクトに結びつけなくては」と話していたのが印象的でした。そのためには、もっと多くの人と一緒に考える必要があります。そこで、4月に改めて、「本当に本当にデザインするべきものとはNIGHT」を開催することにしました。この場から、さらなる想像力の拡張が起こったらおもしろいだろうと思っています。

コクリ!プロジェクトと一緒に、もっと実験的なデザインにも挑戦できたら

第2回コクリ!キャンプは、第1回に続いて、さまざまな方との出会いの場でもありました。南小国町長(高橋周二さん)と隣になった縁で、春には南小国町に行く予定ができましたし、帰りのタクシーであそうくん(麻生要一さん)といろいろ話ができたのも嬉しい偶然でした。山川くん(山川知則さん)をはじめ、これまで一緒に仕事をしてきた人と改めて交流できたのもよかった。ありがたいことに、デザイナーは先方から声をかけていただきやすい仕事ですが、こちらからも能動的に機をつけて、いまよりさらに相手とのコ・クリエーションの可能性を仕掛けていきたいですね。

それから最後に。今回は、招待状やネクタイ型の自己紹介タグ(※注:トップ写真で太刀川さんが首に掛けています)などのデザインで、コクリ!キャンプ自体にも協力させていただきました。今後は、コクリ!プロジェクトと一緒に、もっと実験的なデザインにも挑戦できたらと思っています。コクリ!プロジェクトとコクリ!キャンプには、企画そのものにおいても、実験的であり続けてほしいと思います。

※2016/4/28、「本当に本当にデザインするべきものとは」を考えるイベントを開催します。参加を希望する方は、こちらからお願いします。

太刀川瑛弼(たちかわ・えいすけ)
NOSIGNER CEO

NOSIGNER株式会社代表取締役。ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。その手法は世界的にも評価されており、Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献。 University of Saint Joseph / Department of Design 客員教授、慶応義塾大学SDM 非常勤講師、法政大学工学部建築学科 非常勤講師

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