• 2016/04/11
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by KENICHI AIKAWA

コクリ!キャンプで話し合った「問い」(2)環境・経済・社会の課題の同時解決をイメージできるか?

数名のメンバーが、第2回コクリ!キャンプで語り合った「問い」についてご紹介していきます。

コクリ!キャンプで話し合った「問い」

第2回コクリ!キャンプは、互いに深くつながった上で、「これから日本に共創型社会を創っていくために、いま解決したい社会的課題」を皆で出し合い、その本質や解決方法などを皆で対話する場でした。では、コクリ!メンバーの方々は、実際にコクリ!キャンプでどのような問いを出したのでしょうか。なぜその問いを投げ、どういった対話をしたのでしょうか。何人かの方にお話を伺いました。お二人目は、環境省大臣官房審議官・中井徳太郎さんです。

Q:環境・経済・社会の課題の同時解決をイメージできるか?

私がコクリ!キャンプで出したのは、「社会をトータルでどう変えるか? 環境・経済・社会の課題の同時解決をイメージできるか?」という問いでした。環境省にいる私が、なぜ環境だけでなく、経済や社会のことまで視野に入れているかといえば、実は、それこそがまさに環境省の課題だからです。

「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」の一環として、全国リレーフォーラムを開催 ※出典/環境省

今、環境省では「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトの目指すところは、「ストック浪費型からフロー調和型へのライフスタイルへの転換」です。化石燃料や地下資源のような地球のストックを消費し続けてきた仕組みを、水や空気、あるいは四季折々の自然の恵みといった本物のフローをきちんと味わえる社会に変えていこうということです。つまり、環境を保全するために、社会システムを変革しようとしているのです。そのためには、当然、地域を中心とした経済システムも変えていかなくてはなりません。各地の資源を活かして地域経済を盛り上げていくこと、地域の絆を構築すること、環境を良くすることは、もはや一緒の話なのです。もちろん、これは環境省だけで達成できることではありません。ぜひ皆さんと一緒に考え、実現していきたい。そこで今回、このような問いを出したのです。

2050年にCO2を80%削減するには、「ポスト近代」を考えなくては

もう少し具体的な例を出しながらお話しすると、環境省では、地球温暖化対策のため、2050年にCO2を80%削減する方針を打ち出しています。さらに目指すは、2100年までに、日本だけでなく世界中で、私たちが排出するCO2と、植物が吸収するCO2が同量になるところまでCO2を減らし、自然環境を改善することです。この目標を実現しなければ、地球温暖化を食い止められないというのが現在の科学的な見解です。10年前であれば、この方針はさまざまなところから反発を受けたと思いますが、今はこの目標を視野に入れて、皆で目指していく体制が整いつつあります。私たちとしては、まずは日本のCO2削減を実現し、いずれは日本の技術で世界を変えていきたいと考えています。自然の循環系を上手に利用して生活するのは、もともと日本人が得意とするところ。日本が先頭を切って世界をリードできる領域です。

都市の人々は、農山漁村が生み出す恵みを受けてくらしている ※出典/環境省

しかし、現代社会の延長では、CO2の80%削減は難しいでしょう。特にはっきりしているのは、合理性を重視した東京一極集中型の消費経済には限界があるということです。今、日本は毎年数十兆円の化石燃料を輸入しています。また、日本の食料自給率はカロリーベースで40%前後に落ち込んでおり、東南アジアなどから食料や家畜飼料を大量に輸入しています。私たちの生活は、大量の輸入資源によって支えられているのです。こうした構造は見えにくくなっており、あまり広く知られていませんが、今後もこの仕組みを続けていける保証は、実はどこにもありません。世界の資源は無限ではないのです。

私たちは、エネルギーと食料の輸入が減ったときにも維持できる社会システムを早急に創らなくてはなりません。「社会システムイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」「技術イノベーション」の3つを次々に起こすことで、資本主義社会、消費社会を脱して、「ポスト近代」に向かう必要があるのです。おおげさに聞こえるかもしれませんが、1世紀レベルで見れば、私たちは今、人類史的な大転換期を迎えており、近代の衣を脱ぐときが来ているのです。いつまでもその衣に引きずられていてはよくありません。

近代からポスト近代への移行は、私たち一人ひとりが自然の循環系の一部として生きていることを意識した上で、生活や社会を根本的に見直さない限り、決して進みません。そのためにはまず、自然をよく観察し、資源が「有限」であることをしっかり意識する必要があります。また、ポスト近代に向かう上でのキーワードは、「命」「本物」「楽しさ」「心地よさ」「感性」などでしょう。生きていて楽しいかどうか、心地よいかどうかが重要になってくるのです。それから、日本にエネルギー資源や食料資源の可能性がどこにあるかといえば、地域です。今後は、地域が輝く時代がやってくるはずです。

かみしもを脱いで、本音で話せる場の価値は大きい

私は今回、海士町の阿部くん(阿部裕志さん)に紹介されて、コクリ!キャンプに参加しました。彼は私とノリが同じで、その彼が誘ってくれたのだから、と思っていましたが、思った通りにみんな熱かった。かみしもを脱いで、恥ずかしがらずに本音で話せる場でした。たとえば、町役場の方と市長さんと省庁の者が混じり合って、対等に話すことができる。このような場はなかなか用意できるものではありません。良いつながりがたくさん生まれました。高間さん(高間邦男さん)が私の考え方に共感してくれたのは嬉しいことでした。いのさん(井上英之さん)は、大企業のなかにも、このまま利益を重視するばかりでは地球が壊れてしまうことに気づき、変わり始めているところがあると教えてくれました。黒川温泉のゆうきさん(北里有紀さん)のように現場で頑張っている方との出会いも楽しかった。

いのさん(井上英之さん)たちと対話する中井さん

それぞれ立場は違いますが、一人ひとりが良いことをすれば、全体が良くなるという想いがある方ばかりでした。こうした方々が全員でひとつの目標を見つめながら、知恵を寄せ合い、それぞれの場で行動を起こしていくことが、環境・経済・社会を変えていく上で大切だと思っています。

命や感性について話し合い、「草の根視点」で頑張っている方々とつながれた

冒頭に掲げた「環境・経済・社会の課題の同時解決をイメージできるか?」という問いについて、どのような対話ができたのかといえば、「命の輝き」や「感性」「調和」といった言葉をキーワードに語り合うことができました。「肌で腑に落ちる」感覚を持っている方ばかりで、とても気持ちの良い場でした。例えば、博報堂の田幸さん(田幸大輔さん)など、ふだんはいわゆる主流派の経済人に囲まれている方のなかにも、私の話をごく自然に受け止めてくださる方がいることを確認できたのは嬉しいことでした。また、この対話の場で、加藤せい子さんのように、草の根視点で地域変革を実践されている方とつながれたのが本当に良かった。私たち環境省の活動はどうしても上からの変革と捉えられがちですが、実際に私たちが行っているのは、草の根視点で、ボトムアップで社会を変えていくこと。加藤さんのような存在が日本には数多く必要なのです。

一言でいえば、コクリ!キャンプは、地域のトップランナー、変動期のトップランナーの集まりでした。今後、コクリ!プロジェクトに参加する皆さんには、ぜひ多層に折り重なり、先頭を切って、日本の環境・経済・社会を主体的に変えていく担い手になっていただきたい。コクリ!キャンプのような場で、ときどき大きく目指す地点を皆で確認しながら、それぞれが草の根で多様なプロジェクトを展開していきましょう。私もその一員として、共に歩んでいきたいと思います。

中井徳太郎(なかい・とくたろう)さん
環境省大臣官房審議官

東京大学法学部卒業。1985年大蔵省入省。主計局主査(農林水産係)などを経験し、1999年から2002年まで富山県に出向。生活環境部長などを勤め、日本海学の確立・普及に携わる。2002年財務省広報室長。2004年東京大学医科学研究所教授。2010年財務省主計官(農林水産省担当)。東日本大震災後の2011年7月の異動で環境省に。会計課長、秘書課長を経て現職。

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