• 2016/01/30
  • Edit by HARUMA YONEKAWA

第2回コクリ!で語り合いたい問い(2)限られたリソースで地域を大きく変えていくには、いったい何に注力するのがベストなのか?

数名のメンバーが、いまコクリ!キャンプで語り合いたいと思う「問い」をご紹介していきます。

コクリ!キャンプで語り合いたい「問い」

第2回コクリ!キャンプは、互いに深くつながったうえで、「これから日本に共創型社会を創っていくために、いま解決したい社会的課題」を皆で出し合い、その本質や解決方法などを皆で対話する場にしたいと考えています。では、コクリ!キャンプに参加するコクリ!メンバーの方々は、いまどのような課題に向き合っているのでしょうか。皆さん、興味のあるところだと思います。第2回目は、島根県海士町で持続可能な地域づくりに取り組んでいる「べっく」こと、阿部裕志さん(株式会社巡の環代表取締役)です。

※この問いは、あくまでもべっくさんが現時点で抱いているもの。コクリ!キャンプで実際に対話するテーマは、当日に皆で決めていきます。ぜひ皆さんも、当日は「問い」を持ち寄ってください。

※これまでの記事はこちら

Q : 限られたリソースで地域を大きく変えていくには、
いったい何に注力するのがベストなのか?

8年間、海士町で地域づくりをしてきた経験から、確信していることがあります。地域づくりの取り組みは、愚直に継続していけば必ず少しずつ前に進めるし、結果も確実についてくるということです。しかしそれでは、インパクトの強い変革はなかなか起こせない。海士町の地域づくりの取り組みは、もう30年以上前から地道な努力が積み重ねられてきていて、やっとここ10年で成果が目に見える形になりつつあります。そのくらい、時間がかかるのです。今後、限られたリソースで地域を大きく変えていくには、地道な努力に加えて、なにか違った方法を見出さないと、地域の衰退のスピードに間に合いません。おそらく、何かに注力する必要があります。でも、その「何か」がわかりません。十分な資金を得ること? リーダーの能力を高めること? 国に働きかけること? アイデアをたくさん出すこと? 地域コーディネーターを増やすこと? 協力企業を増やすこと? いったいどこにレバレッジポイントがあるのでしょうか。皆さんとお話ししてみたいと思っています。

10年続けないと成果が出ないが、気力だけでは10年続かない

海士町

なぜこのことが気になるかといえば、一つには、自分自身や周囲の「限界」を感じているからです。最近、同じ頃に他の地域で地域づくりをスタートした方々が、お会いするとかなり疲弊されていて、「地域の人たちには言えないけど、本当につらい」といった悩みを打ち明けられることが増えています。すでに辞めてしまった方も少なくありません。

彼らの悩みが、僕にはよくわかります。地域づくりは、10年くらい続けないと明確な成果が出にくいものです。自分たちの成長だけではなく、地域の人たちとの関係を構築して、彼らを巻き込んで動き始めてやっとスタートライン。それから活動を継続しないと成果が出ないため、一定の時間がかかるのです。実際僕らも、海士町で役立っている実感が持ててきたのは、ようやく昨年、7年目あたりからのこと。そこまでいくと、地域のさまざまなところから「助けてほしい」とホンネで相談されるようになります。しかしそれまでは、それなりに仲良くはなっていきますが、地域の人たちの意識が変わるのに時間がかかることもあって、なかなかこれといった動きまでつながらず、どうしても孤独な戦いになりがちです。

巡の環の取り組みの一つ「田んぼツアー」

僕たちも含め、地域づくりに取り組む人々の多くは、この戦いを気力で乗り切ろうとしてきました。しかし、気力だけだと、5年はもちますが、10年は戦いを続けられません。燃え尽きてしまいます。僕たちの場合は、行政の方々との関係がこれ以上ないほど良好で、海士町のブランドに肖ることができ、いのさん(井上英之さん・詳しくは第2回コクリ!キャンプで語り合いたい問い(1)をご覧ください!)や枝廣淳子さん(環境ジャーナリスト/翻訳家/幸せ経済社会研究所所長など)といった素晴らしいメンターがいたから、幸いなことに8年続けることができました。正直、こういった業態の組織としては、日本一恵まれた環境だと思います。それでも、限界を感じています。

僕はこれまで、自分のプライベートをずいぶん疎かにして、多くの休みを返上して働いてきました。しかし、今後も僕たちが前に進んでいくためには、僕を含めたメンバー全員が「心の健康」と「体の健康」を維持し、会社の「資金繰り」を安定させ、自分たちがどのような存在であり続けるかを明確にして、一つひとつの課題解決やアイデアの創出にいつも心を込めていける状態を創る必要があります。いわゆる「マインドフルネス」な状態ですね。無理を続けてはダメなのです。そのためには、やり方を改めるほかにない。無駄を減らして効率化を進め、小さな力で大きな成果を挙げるレバレッジポイントに注力していかなければならないと思うのです。

後に続く人たちのために、セオリーを確立したい

この問いを立てたもう一つの理由は、変革のレバレッジポイントを中心にして、地域づくりの「セオリー」を確立したいからです。地域おこし協力隊をはじめ、日本中で地域や社会の課題解決に関わる人が急増しています。キャズム理論でいえば、そろそろイノベーターからアーリーアダプターにシフトしてきていると思います。そのタイミングで、先を行く僕たちがバタバタと倒れていてはマズイ。多くのイノベーターが成功を収め、そこからセオリーを生み出して、後に続くアーリーアダプターの人たちに伝えていなかくては、社会課題解決のブームは先細りになってしまいます。だからこそ、後に続く人のためにセオリーを創りたいのです。

枝廣淳子さんとべっくさん

そうしたことを考え始めたのは、先ほどメンターとして名前を挙げた枝廣さんから「システム思考」を学んだことが大きい。システム思考を知ってから、一歩引いた目でシステム全体を眺め、しっかりと作戦を立ててから行動することの重要性を日々痛感しています。もしかしたら、地域づくりのリーダーたちが枝廣さんに学ぶだけで、今回の問いの大部分が解決するのかもしれません。少なくとも、システム思考を磨いていけば、変革のレバレッジポイントにたどり着きやすくなることは間違いないでしょう。

もう一人の大事なメンター・いのさんは、僕をiLEAPというアメリカ・シアトルにある団体のリーダーシップ研修プログラムに連れ出してくれた方です。そこで一度、海士から、日本から遠く離れてみて、自分たちのやっていることの価値を再認識し、自分自身を大切にしたソーシャルイノベーションの大切さを学ぶことができ、僕は本当に救われた。あれがなかったら、今ごろは周囲からの期待と自分の使命感に押しつぶされて、この仕事をやめていたかもしれません。他にも、リクルートホールディングス顧問の水谷智之さんなど、多くの方々から学ぶ機会を得ています。こうしたメンターとの時間を経て成長していくことが、地域づくりのリーダーには欠かせないと思います。

地域は、持続可能な社会をつくるための「宝の山」

僕が地域づくりに取り組んできたのは、もちろん海士町が好きだからでもありますが、それ以上に「持続可能な社会」をつくるヒントがたくさんあると感じているからです。

持続可能な社会を実現するために最も大切なのは、なにを良いと思うのか、なにを変えようと思うのか、といった人々の「判断基準」が変わることだと思います。そのためには、「つながりの連鎖(チェーン)」が見える必要があります。つながりの連鎖とは、たとえばお米を買うときに生産者の顔まで見えていることや、政策が変わることで自分の身の回りに何が起こるかがわかること。風が吹けば桶屋が儲かる、というように、連想ゲームをどんどんと膨らませていけることと言えるかもしれません。海士町は小さな島だから、さまざまなつながりの連鎖が見えている人が多くいます。たとえば、海士町ではゴミ収集の有料化が決まったとき、一切反対がなかったと聞きました。ゴミ出しにお金を払うなんて嫌だという人がいてもおかしくないと思うのですが、そうした意見は一つもなかったのです。なぜかといえば、清掃センターで働く人々やその家族を誰もが知っていて、有料化しないとあの家族が困ることがわかっていたから。海士町の皆さんは、ゴミというよりも、その人々にお金を払うと決めたわけです。

海士町の食材を用いた料理など海士の魅力を全国にお届けし、旬の食べ物やそこに集まってくれた海士ファンの方々との出会いを楽しむ一日限定カフェ「AMAカフェ」

また先日、水俣病に対する市の責任を認め、公式に謝罪した吉井正澄・元水俣市長とお話しする機会がありました。「なぜそのような英断ができたのでしょうか」と伺ったところ、「自分はもともとお百姓だから」とおっしゃるのです。牛たちはものを言わないから、こちらが彼らの気持ちを思いやらない限り、動いてくれない。動物や自然だけでなく、本来は人間も一緒で、何より思いやりが大切なのだということでした。素晴らしいリーダーは自然が育むのだと実感したひとときでした。

漁師のあばかん市にて

前回のコクリ!キャンプで、田坂広志さんが「知識資本、関係資本、信頼資本、評判資本、共感資本、文化資本などの目に見えない資本を価値と言えるのが、これから目指す成熟した資本主義だ」とおっしゃっていましたが、海士町だけでなく、多くの田舎が目に見えない価値を十分大切にしていると思います。独り勝ちをよしとしないことなど、資本主義のど真ん中から遠く離れた田舎だからこそ、まだ残っている日本古来の価値観が、成熟した資本主義を実現するために必要とされるに違いありません。

「コレクティブインパクト」を起こしたい

巡の環では、心の健康を取り戻すには「ビタミン愛」が必要だとよく話しています。体力は休めば回復しますが、心の疲れはただ休むだけでは取れません。愛情に触れ、愛情を注ぐことが何よりも心を回復させると思うのです。コクリ!キャンプやコクリ!ラボは、「ビタミン愛」を補給するうってつけの場の一つで、今回も今から楽しみにしています。しかし、僕はコクリ!キャンプに、ビタミン愛を補給する癒しだけを求めているのではありません。皆でそれぞれのイノベーションの先にある日本全体への「コレクティブインパクト」を起こすために、本当に大切なことを行動し解決していく場にしたい。そのために、当日は本気になって前のめりに臨みたいと思います。

阿部裕志(あべ・ひろし)
株式会社巡の環代表取締役
愛媛県生まれ愛知県育ち。京都大学大学院(工学研究科)修了後、トヨタ自動車入社。生産技術エンジニアとして新車種の立ち上げ業務に携わる。しかし現代社会の在り方に疑問を抱き、新しい生き方の確立を目指して入社4年目で退社。2008年1月、「持続可能な未来へ向けて行動する人づくり」を目的に株式会社巡の環を仲間と共に設立。2011年4月より海士町教育委員に就任。大学在学中から自給自足できるようになることを目指し、アウトドアや農業を通して大自然の雄大さ、命のありがたみを学ぶ。海士に来てからは素潜りにハマる。

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

 

コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

 

コクリ!の深い話(12)AIが「持続可能で幸せに暮らせるのは地方分散型社会」だと予言した ●広井良典さん×日立京大ラボ

 

「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

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