• 2018/09/26
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by KENICHI AIKAWA

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」では、さまざまなワークを行いました。それが参加者にどのような影響をもたらしたのか。「夢のワーク」を中心にして、「ようび」のなおこさん(大島奈緒子さん)に研究合宿の体験談と後日談を伺いました。なお、なおこさんの本業や、なおこさんが働くようびについて詳しく知りたい方は、ぜひこの記事を読んでいただけたらと思います。
 ※インタビュー:米川青馬

帰りの新幹線を降りたらものすごい眩暈と吐き気に襲われて

―― 「コクリ!研究合宿」、いかがでしたか?

後日談からお話しすると、フフ山梨から岡山県西粟倉町に帰る途中の新幹線を降りたところで、ものすごい眩暈と吐き気に襲われました。これは本当に稀に起こる現象で、マインドの大きな変化があったとき、こうやって身体に反応が出るんです。これまでも「大地の再生講座」に参加した帰りだとか、田中忠三郎さんのコレクションを見た帰りとか、ある建築家の考えつくされた建築物に入った帰りだとか、いまだに私の仕事や思想に強く影響している経験をした後に、何度か同じような状態になりました。この反応が出たということは、私は今後、変わってしまう、というより変わり始めているということ。後戻りはできません。今回のコクリ!研究合宿は、そのくらい強く私に働きかけました。本当にパワフルな場だったと思います。

なおこさん(大島奈緒子さん)・写真左

――どんな風にパワフルだったのか、詳しく伺っていけたらと思います。まず、たくちゃん(後藤拓也さん)の「未分化ワーク(自然観察・unknownストーリーテリング)」を行いましたが、どうでしたか?

たくちゃんの自然観察ワークで一つ気づいたのは、「知識はときに邪魔をする」ということでした。知識をいったん横に置いて、子どもの目で観察し、観察対象とつながったとき、全体で一つとなる感覚を得ることができました。また、「ヒトとモノ」の間には境目がなく、お互いに影響しあって存在していることにも気づきました。後で話すことと関係してくると思いますが、いまはヒトがモノを支配しているのが普通の状態ですけど、100年後にはモノを支配したり、モノを雑に扱ったりすることは、野蛮な行為になるかもしれないなと思いました。だって、たった150年前には、まだ世界に「奴隷」という存在がたくさんいて、ヒトがヒトを所有していたのです。現代では、それは倫理的に許されない野蛮な行為ですよね。同じように、ヒトがモノを所有することも、倫理的に禁止されるかもしれない。日ごろ、ものづくりが軸にあるからかもしれませんけど、そんなことを考えたんです。

「問題を起こさないアプローチ」に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできない

―― 次は、ようじろうさん(橋本洋二郎さん)の「夢のワーク」でしたね。夢のワークは、参加者一人ひとりが「昔よく見た夢」について話した上で、その夢のストーリーを身体的・演劇的に表現しながら、自分の夢を体感・分析していくプログラムでした。

夢のワークでは、初めての気づきを得ました。私が子どもの頃に見た夢の中で最も印象的だったのは、「母との旅行の夢」でした。私は母と二人で、電車に乗っています。外にはキレイな山が見えました。ウトウトしている母を置いて、私は一人で後ろの車両へ冒険に出かけます。そうすると、たくさんの羊がいる車両があったりして、楽しいんですね。私はワクワクしながらどんどん先へ進むのですが、あるとき突然、「ガコン」という音とともに、目の前で、私のいる車両が母の車両と切り離されてしまいます。それで私がどうするかというと、どこかに助けてくれる人がいるだろうと、つながっている車両のなかを探し始める、という夢です。もしかすると、ガコン、の後は怖さのあまりに自分が作った物語かもしれません。

コクリ!研究合宿の風景

洋二郎さんには、「ガコン」の瞬間をスローで身体的に表現してみてください、とアドバイスをもらいました。そうしたら、「ガコン」のとき、実は目の前の車両に飛び移れることに気づいたのです。そうしたら、元の通りに、母の横に満たされた状態で座っていることができたんです。

このワークでわかったのは、私には、与えられた条件や制約の中で、何とか問題を解決しようとするクセ・傾向があるということです。思えば私は昔から、目の前の変化を受け入れるのが早く、いまそこにある問題を解決していくのは比較的得意でした。家族のことで問題が起こったり、田舎に移住したり、夫とともに起業して管理職になったりと、私は人生で何度か苦しい状況に立たされたり、大きな変化に直面したりしたことがあるんですが、そうしたときも泣きじゃくったりするのではなく、状況を少しでも変えよう、新たな環境に適応しようとして考え、行動を起こしてきました。ようびの工房が火事に遭ったとき、すぐ再興に向けて立ち上がれたのも、そうした性格が大きいのかもしれません。

その一方で、「最初から問題が起きないようにする」ことには、私はあまり目を向けてきませんでした。そもそも問題が起こることに対して、抵抗したことがありませんでした。前の車両に飛び移ることは考えてこなかったんです。でも私たちは、場合によっては、問題を起こさなくすることもできるはずです。問題を解決するのではなく、問題を起こさなくする、起こる問題を少なくする、問題になる前に取り組むという努力の仕方もあるのです。問題解決のアプローチだけでなく、問題を起こさないアプローチにも挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすこと、世の中をもっと平和にすることはできない。夢のワークで、私はそのことを発見できたんですね。私にとって、これは本当に大きな気づきでした。

木のように「外に開いた家」を創りたい

―― 夢のワークの次は、えいすけさん(太刀川英輔さん)の「進化思考ワークショップ」でした。(※進化思考と進化思考ワークショップについては、詳しくはこちらの記事をお読みください。)

順にお話しすると、私はまず、進化させたいものαを「家」に設定しました。私は建築家ですから。それに、一児の母として、私の根っこには「家族関係」への関心があります。「どうしたら家族関係を良好に保ち、穏やかに生きていけるのか」という問題に、家がどう関われるのかは、プライベートな私自身の課題でもあります。例えば、家族が集まりにくい設計の家を建てれば、家族のつながりは薄くなってしまいます。家は、毎日の住人の動作、そして家族の関係性や住人のQOLを左右する重要なモノです。「誰かを助けている人こそ、助けが必要な人」という言葉がありますが、家の中が平和であれば、世界のために頑張れる人も増えるのではないかと思っています。

次に、αを擬態させたいものβに、「木」を選びました。木は心地よいものですし、そもそも猿の時代は木に住んでいたのでは、と思ったからです。えいすけさんが木と扇風機を比べたように、家と木を比べてみたら、何か発見があるのではないかと考えました。

比較してわかったのは、「家は閉じているけれど、木は開いている」ということでした。家の第一の機能は、住民の身を守ること。そのために雨風から、不衛生なものから、好奇の目から、家族を守るために進化するごとに、固く閉ざしていきました。そのため、周囲との関わりは決して多くありません。一方で、木は絶えず周囲と関わっています。例えば、虫や鳥などに食べ物を提供していますし、木を住処にする生き物も少なくありません。太陽の光を浴びて光合成を続け、時が来れば倒れて地に還ります。木は世界との関わりの中で生きているんですね。では、家は木のように、周囲ともっとつながることはできないのだろうか。そう考えて、私は「家族計画建築」というGIのアイデアを出しました。

進化思考の発表をするなおこさん

家族計画建築というのは、一言で言えば「家族計画を学べる開いた建築」のことです。守るために進化した家は、その進化の過程で「学びあうという機能」を退化させました。昔の家では3世帯が暮らし、隣のケンカが聞こえ、その中で自分たちのあり方を学べました。また、そこにはさまざまな関係性がありました。今は、産業となっている結婚や家を購入する、というライフイベントの情報や保険や貯蓄という情報は多くても、他の家族のルールを知る機会がありません。結婚して初めて、よその家のルールと自分のルールがぶつかります。家族計画建築は、「開いた家」になるかもしれませんし、家族計画を学びあうための短期滞在型施設になるかもしれません。あるいは、家を計画する際に顕在化していない問題に向き合って整える、その計画作成の手法かもしれません。私がコクリ!研究合宿で考えたのは、そういうことでした。

実は、ようび再興のためのツギテプロジェクトを行ったとき、手伝いに来てくれる人を泊めるために、私たちは自宅を開放しました。そうしたら、何度も手伝いに来てくれた方は、私たちの家に入るとき、「ただいま~!」と言うようになったのです。私は、このように「ただいま」と言える場所は、世界にいくつあってもよいと思っています。家族計画建築は、「ただいま」と言える場所を増やすことでもありますし、新しい縁側の発明かもしれません。

なおこさんは「家族科(その後の家族計画建築)」というGIの種を生み出した

「みんながもう少し苦しまずに生きていける世の中にしたい」 自分の根っこにはそういう願いがあった

―― では、帰りの新幹線の「ものすごい眩暈と吐き気」について、改めて詳しく教えてください。

合宿の後、透ちゃん(大宮透さん)の車に乗せてもらって、山ちゃん(山田崇さん)、たむさん(田村篤史さん)と一緒に塩尻経由で帰ったのですが、その車中で、自分の根っこには「人の役に立ちたい」という強い想いがあった、ということを久々に思い出したのです。そう言えば、私は「ユニバーサルデザイン(誰でも使える施設・製品・情報のデザイン)」に出会ったことがきっかけで、建築デザインの道に進んだのでした。そこで出会った地域資源問題をきっかけに建築家になってからは、世のため人のためとはあまり言わなくなっていたのですが、建築家になる前の「未分化な私」には、困っている人がいたら、困ったことそのものを意識せず生きられるような世界にしたい、という切なる願いがあったのです。問題が起こる前に注目して、その問題を消してしまう「魔法」を使えるようになりたかったんですよね。私はコクリ!研究合宿のおかげで、その魔法使いになりたかったということを思い出すことができたのです。

コクリ!研究合宿の風景

建築家になってからの私の取り組みは、建築物を通して、目の前の誰かを生きやすくすることでした。これはこれで続けていきたい素晴らしいことなのですが、この手法では、世界中の生きにくさを一挙に解決することはできません。夢のワークを通じて、その事実に気がついたことが、私の眩暈と吐き気の根本的な原因なのだと思います。世界の平和を願うには、私も世界もまったく新しい手法に取り組まなくてはならない。これはもちろん大変なことですが、もう無視することはできません。私はいま、どうやって問題を起こさないアプローチに挑戦したらよいのかを考え始めています。

「家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げる!

―― 家族計画建築はどのようなものになりそうですか?

これまでの家とはかなり違うものになるのではないかと思います。例えば、私たちは、江戸時代の長屋にそのまま住みたいとはあまり思わないですよね。150年前の江戸時代と平成では、家のあり方は相当違うわけです。同じように50年後の子孫たちは、いまの家に住みたいと思わないかもしれません。その50年後の子孫たちが「家」だと考えるような新しい概念を構築する、というのが私の目標です。これからは、50年後、100年後を見据えながら、ものづくりをしていきたいと思っています。

一方でいま、家族のかたちは本当に速く変化しています。ひと昔前は核家族が一般的で、専業主婦が多くいましたが、いまや共働きのほうが当たり前ですし、単身者も増えています。未来の家に本気で取り組むとしたら、家族について深く考えざるを得ません。家族の変化に向き合うことから始めて、最終的に新たな家のかたちを提案していけたらと思っています。

その家族に関して、私が常々思ってきたのは「すべての家族は変わっている」ということです。家族のかたちは本当に一つひとつ違います。ツギテプロジェクトで私たちの家に泊まっていった皆さんは、私たちの家族のあり方やルールを面白がっていました。自分の家族とぜんぜん違うからです。外に開いた家が一般的になり、他の家族の生活を簡単に覗くことができるようになったら、きっと家族のあり方は大きく変わるはずです。家族にはさまざまなかたちがあるのだ、こういう家族もありなのだと知ることができたら、多くの家族がもっと楽になるのではないかと思いますし、他の家族から学びながら、自分たちの家族をより良くしていくこともできると思うのです。

コクリ!研究合宿の風景

問題は、先ほども言いましたが、現代の家が閉じていることです。おそらく江戸時代の長屋では、隣の家族のいろいろが筒抜けだったはずですが、いまや家はどんどん閉ざす方向、守る方向に進んでいて、隣の家族の状況が全然わからないのが普通になっています。家族と家族が交流し、さまざまな家族を知るには、こうした家のあり方を変えなくてはなりません。そのためには、家族計画建築が必要なんです。

そのことに関係して、私は2つ提案したいことがあります。1つは、「家族にこそファシリテーターが必要ではないか」ということです。なぜかというと、家族がおかしくなったり、壊れたりするときは、その予兆として、夫婦が次第に話し合えなくなっていくことが多いからです。そうしたときに第一に必要なのは、カウンセラーよりも弁護士よりも、ファシリテーターです。私は、家庭内にファシリテーターを招くことが一般的になったら、家庭の問題は減っていくと思っています。ファシリテーターがどこよりも必要なのは、実は家族なんじゃないかと思っているほどです。

もう1つは、この記事をきっかけにして、「家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げたい!ということです。さまざまな家族のルールやあり方を学びながら、「より良い家族とは何か」「家族計画建築には何が必要か」をみんなで一緒に考えるコミュニティを創ります。誰もが家族の関係性を良くしたいと思っているはずですし、多くの家族の関係が変わったら、世の中はガラリと変わるはずです。行政の皆さんにもぜひ加わっていただきたいですね。家族計画建築は、行政と一緒に作っていく必要があるでしょうから。家族のことについて、ぜひ多様な方と対話できたらと思っています。

大島奈緒子さん
株式会社ようびのメンバー、ようび建築設計室 室長。二級建築士。1982年大阪生まれ。2006年滋賀県立大学 生活デザイン専攻卒業後、オークヴィレッジ木造建築研究所で住宅店舗等の設計に従事。2013年、ようび建築設計室設立。10代の頃に、日本の山の問題に出会い、木でものづくりをしながら、未来を切り開くことをライフワークとする。得意とするのは、対話を通じて、心や経営の「本当のニーズ」を導き出し、空間や動線、企画やイベントまでプロジェクト全体に落とし込むこと。

 

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「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

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