• 2019/08/27
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住みたいときに住みたいところに住む人を増やしたい――関係人口インタビュー(2)小田切徳美さん

「コクリ!的関係人口」を考えたい! 私たちはそう思って、いま日本の農山村に最も詳しい人の1人、明治大学農学部教授の小田切徳美さんに、関係人口について詳しく伺いました。

「コクリ!的関係人口」を考えたい! そのためにはまず、関係人口を深く考える皆さんにお話を伺おう。そうして、私たちは「関係人口インタビュージャーニー」を始めました。第2弾は、いま日本の農山村に最も詳しい人の1人、明治大学農学部教授の小田切徳美さんです。短時間のインタビューでしたが、とても的確なメッセージをいただきました。 ※インタビュー:三田愛

〈コクリ!をご存じない皆さんへ〉

コクリ!プロジェクトとは何か?
なぜ私たちが共創型関係人口を考えているのか?

ごく簡単に言うと、コクリ!プロジェクトは、コ・クリエーション(共創)プロセスを使って、地域や社会に「大転換」を起こそうとする取り組みです。コ・クリエーションプロセスでは、自分や仲間の「根っこ」とつながること、そして自己変容を重視します。参加者全員が対等な関係性で、仲間とともに、恐れを超えて未知に踏み出し、自分を変えていきます。自身の身体の声に耳を傾ける身体ワークや、自分を巡る大きな環に想いを馳せるワークなどを通じて、集合的無意識のなかに次の時代のうねりを感じ、自分たちが信じる世界を体現していくのです。その結果、コ・クリエーションでは、単なるコラボレーションとはまったく違う成果が出てきます。地域や社会に「想定外の変容」が起こるのです。コクリ!プロジェクトは、さまざまな場にコ・クリエーションを起こすことで、地域や社会を大きく変えようと試みています。なお、もっと詳しいことはこれらの記事に書いてあります。

私(三田愛)が地域で活動を始めたのは2011年ですが、そのとき私は、深く関わった熊本県南小国町で「第二町民」の創出に関わりました。また同時期に、やはりコクリ!と深い関わりがある島根県の海士町、長野県の小布施町にも第二町民が増えてきました。第二町民というのは、最近「関係人口」と呼ばれている人たちとほぼ一緒です。つまり、コクリ!では、2011年頃から関係人口の創出に携わってきたのです。その私たちから見ると、関係人口には大きな可能性を感じる一方で、不安や危惧も感じています。特に心配しているのは、関係人口と名付けられる前からあった大切なものや想いが損なわれることです。

その不安や危惧を振り払い、「良い関係人口づくりとは何か?」「共創型関係人口とは何か?」をもっと深く考えたい。そう思って、まずは関係人口の専門家である2人、指出さん(さっしーさん)と小田切さんにお話を伺いました。さっしーさんの記事に続き、小田切さんのインタビューを紹介します。

いまの日本の農山村集落は「強くて、弱い」

―― 小田切先生はどのような研究をしているのですか?

小田切 現場を歩き続けて、日本の農山村を研究しています。研究内容は『農山村は消滅しない』(岩波新書)などの著作にまとめてきました。私が見聞きした限りでは、日本の農山村集落は基本的には強靭で、強い持続性を持っていて、それほど簡単に消滅したりはしません。その持続性を支えているのは、地域を次世代につなげようという農山村の人々の強い意志です。ただその一方で、最近は自然災害などを発端として、農山村の活動が急速に停滞するケースも見られます。地域の人々の諦めが原因で、その一部には地域住民がそこに住み続ける意味や誇りを見失いつつある「誇りの空洞化」も起こっています。

つまり、現代の日本の農山村集落は、「強くて、弱い」という矛盾を抱えた存在なんですね。ですから、基本的には元気な集落が多いんですが、あるときに臨界点を超えてしまい、元気をなくしてしまう農山村も出てきています。

そうした地域の弱さを克服する動きが、コクリ!プロジェクトの皆さんも研究されている「地域づくり」の取り組みです。私たちのチームでは、地域づくりに重要なのは、「主体づくり」「場づくり」「持続条件づくり」の3つだと考えています。つまり、地域の住民が主体的に誇りを取り戻して、自分たちの暮らしの仕組みと場を再構築し、地域を持続するための新たな経済循環を形成することにより、農山村は強さを取り戻しています。

なかでも重要なのが、「主体づくり」です。私たちがいま一番大切にしているのが「課題解決から主体形成へ」という言葉です。簡単に言うと、自分たちの地域の郷土料理や景観、住民の人情、絆などを素晴らしいものだと再認識する「暮らしのものさしづくり」が、その地域に住み続ける意味や価値につながります。そうして地域への誇りを取り戻すと、住民の皆さんは、地域の課題を自分ゴト化されていくんですね。そう考える住民が増えれば、課題は彼ら自身の手で、徐々に、しかし着実に解決されていきます。彼ら自身が、外部と協力しながら、暮らしの仕組みや場をつくり、新たな経済循環を形成していくんです。つまり、主体づくりのプロセスの質を高めれば、課題解決は後からついてくる。「主体づくりが課題解決よりも先にある」というのが、私たちの考え方です。

「にぎやかな過疎」を増やしたい

―― 小田切先生がいま、関係人口についてどう考えているかを教えてください。

小田切 数年前まで、私たちは関係人口を階段状に捉えていました。たとえば、「特産品などの購入→寄付(ふるさと納税)→頻繁な訪問→現地ボランティア活動→二地域居住→移住・定住」という関わりの階段を上っていくのが、関係人口だと考えていたんですね。「関係人口=移住候補者」という考えで、どの地域でも移住者を増やすために関係人口との関係を強めなくてはいけないと画一的に考えていました。

しかし、現在は全面的に考えを改めました。関係人口は極めて多様であり、関係人口にはさまざまなあり方がある、というのが私たちの新たな見方です。確かに、旧来のモデルに従って、階段状に関係を強めていき、最終的に移住する人もいます。でも実際には、そうでない方もたくさんいるんですね。年に1~2回訪問する関係を長年続ける人もいれば、いったん二地域居住をした後、その地域を離れて、以後はときどきやってくるという人もいるわけです。何があるべき姿で何が望ましくない、ということではありません。そのすべてが関係人口なんです。

また、いまはさらにその先を見据えて、「対流型人口交流」の研究を進めています。対流型人口交流とは、つまり「住みたいときに住みたいところに住む」人を増やす取り組みです。少々大げさに言えば、これは「国土のかたちの再考」です。これまで私たちは、どこか1カ所に定住するのが一般的でした。もちろん、その生き方を否定するつもりはありません。ただ一方で、住みたいときに住みたいところに住むという暮らしが、もっと増えてもよいと思うんですね。そうした生き方をする人が増えれば、いまとは違う形で地域がにぎやかになるはずなんです。

徳島県美波町は、2018年から「にぎやかそ にぎやかな過疎の町 美波町」というまちづくりのキャッチフレーズを掲げています。私が提唱した「にぎやかな過疎」という言葉を使ってくださいました。にぎやかな過疎は、もともとはテレビ金沢による秀逸なドキュメンタリー(2013年5月放映)のタイトルです。能登半島の過疎化した集落に入る移住者と、それによりにぎやかになっていく地域の変化を丁寧に記録した番組でした。人口が減っても、そうやって人材が増えていけば、にぎやかな過疎のまちが実現できるんです。美波町は、このにぎやかな過疎をまさに地で行くところで、多くのサテライトオフィス企業が進出しています。それによって若者移住者が増加し、飲食店などが次々と開業しています。また、学童の多拠点就学を可能とするデュアルスクール制度を徳島県に提案して日本で初めて実現したまちでもあります。そこには、住みたいときに住みたいところに住む人がたくさんいるんですね。

対流型人口交流が盛んになり、多様な関係人口がどんどん増えていけば、このようなにぎやかな過疎のまちがいくつもできるはずです。こうして関係人口の考えを突き詰めていけば、いずれは地域や国のかたちの創り直しにつながり、そしてそれを実現する力になると思っています。関係人口はそれほど奥深く、魅力的なキーワードです。

愛の編集後記

実は、小田切先生と会う前は、少し緊張していました(笑)。国の委員の座長なども歴任されている有名な先生ですし…。ただ、お会いしたらそんな緊張もスッとなくなり、コクリ!の紹介もさせていただいたのですが、とても共感いただけ、どうしてもっと早く出会っていなかったんだろう、と不思議に思うほどでした。さっしーさん(指出さん)の時も感じたのですが、地域への「愛」や人への「愛」があり、またにじみ出る優しさを感じました。

また、小田切先生が以前提唱されていた、「関係人口=移住候補者」と捉え、地域との関わりが「階段状に」上がっていく、という考え方と、コクリ!型関係人口とは相容れないところがあり(移住を前提としない関係人口がいる)、その観点も気になっていたのですが、インタビューで「全面的に考えを改めました」とおっしゃっており、ホッといたしました。

「主体づくりのプロセスの質を高めれば、課題解決は後からついてくる」という先生の考え方も心から共感します。そして、このインタビューがきっかけとなり、国交省の委員をご一緒することになりました。今後、日本中に、地域も人も、そして日本も幸せにする、関係人口が増えていくように、共に活動をしていけると嬉しく思います。

小田切徳美さん
明治大学農学部教授。農学博士。専門は農政学・農村政策論・地域ガバナンス論。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程単位取得退学。(財)農政調査委員会専門調査員、高崎経済大学助教授、東京大学大学院助教授などを経て、現職。『農山村は消滅しない』(岩波書店・単著)、『世界の田園回帰』(農山漁村文化協会・共編著)、『内発的農村発展論』(農林統計出版・共編著)ほか著書・共著書多数。

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

 

コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

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