• 2018/12/07
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by MINORU KAWASHIMA, HARUMA YONEKAWA, KENICHI AIKAWA

2回のコクリ!で、外に頼れる人が海士町に増えた――GI探究ジャーニーin海士町

2回のコクリ!で海士町の皆さんにさまざまな変化が起きています

2018年9月、隠岐諸島の1つ・中ノ島の島根県海士町で、「GI探究ジャーニーin海士町(第2回コクリ!海士)」を開催しました。2017年4月の「第1回コクリ!海士」に続く、海士町での2回目の場です。町外から参加したコクリ!メンバー約30名と、海士町内のメンバー約30名が集まって対話を行いました。その成果をどう感じているのか。海士町側の主催チームの2人(べっく:阿部裕志さん、おかべちゃん:岡部有美子さん)と2018年4月から海士町に住むコクリ!メンバーの英治さん(原田英治さん)にお話を伺いました。

「地域づくりは庭づくりだ」と気づいた

――2回目のコクリ!の場を通して、3人には何か個人的な自己変容がありましたか?

英治 僕は1回目のコクリ!海士がきっかけで、2018年4月から海士町に妻と息子と「親子島留学」をしています。2回目にもそんな大きな自己変容が起きたら大変(笑)。今回は特に変わっていません。 

英治さん(原田英治さん)

もちろん、海士町に移住したことで気づいたことはいくつもあります。例えば、東京だと帰宅が夜の0時を回ることがよくありましたが、海士町では珍しいんです。そうすると、東京での生活がいかに異様だったかが分かってきます。ずっと東京にいたら、このことには気づけなかったでしょう。海士町に越してきたことで、自分のセンサーはさまざまな刺激を受けています。

べっく 僕はこの2018年9月に、自分の経営する会社の社名を「風と土と」に変え、従来の地域づくり事業・人材育成事業に加えて、新たに出版事業の検討を始めました。これは、第1回のコクリ!海士で英治さんと出会って、海士町で「ないものはない大学出版会」を始めようと2人で盛り上がったところから生まれたアイデアです。その意味で、僕と僕の会社も、コクリ!の場から大きな変容を起こしました。今は、そのスタートラインに立ったところです。

べっく(阿部裕志さん)

おかべ 私は今回、「追求したい使命」を発見できました。それは「コミュニティ・ガーデニング」です。

きっかけは、今回のコクリ!の場の2日目に、私が2015年に海士町に来てすぐに植えたみかんの木を見に行ったことです。嬉しいことに、その木はみかんをつけていましたが、周囲には、同時期に植えられたのにまだ実が成っていない木もありました。それを見て、みかんの木は人に似ている、みかん畑はまちに似ていると感じたんです。

みかんの木と同じように、私たちも、花を咲かせたり、実を成らせたりするタイミングは人それぞれです。海士町の地域づくりをする私が、地域の皆さんに無理に花を咲かせることはできません。私ができるのは、一人ひとりが花を咲かすタイミング、実を成らすタイミングを見計らって、応援したり、組み合わせたりすることだけ。つまり、私はまちづくりというより、「庭づくり」をしているんだと気づいたんです。これからは地域という庭にできるだけ多くの花が咲き、実が成るように、焦らずに丁寧に、コミュニティ・ガーデナーを務めていきたいと思っています。

おかべちゃん(岡部有美子さん)

英治 僕が経営する英治出版の『自己革新』(ジョン・W・ガードナー)という本に、こんな一節があります。「永続的に革新する社会の適切なイメージは、庭園全体やバランスのとれた水槽などの閉じた生態系である。あるものは生まれつつあり、あるものは繁栄し、さらに他のものは死につつある。しかしシステムは生きているのだ」。おかべちゃんの「地域づくり=ガーデニング」のイメージはピッタリだと思います。

10年で一番贅沢な食事を提供した「あまちゃん食堂」

――おかべちゃんが取り組んでいる地域づくり=コミュニティ・ガーデニングの例を教えてください。

おかべ 例えば、今回の場の1目の夜、コクリ!メンバーの皆さんをもてなした「あまちゃん食堂」は、組み合わせがうまくいった例だと思います。あまちゃん食堂は、第1コクリ!海士のときに、海士町で学校給食をつくる小田川さん(小田川啓子さん)が中心となって生み出したアイデアで、海士の食材だけでつくった料理を提供する食堂を始めようというものです。

あまちゃん食堂

小田川さんは、海士の子どもたちに海士の食材を中心とした給食を食べてもらいたい、できたら島民の皆さんにもそうしてもらいたいと思っていました。そこに、海士や日本の魚食文化を守りたいという想いをもった海士町漁協のふっじーさん(藤澤裕介さん)を組み合わせたことにより、このプロジェクトは加速的に進み、コクリ!メンバーの皆さんに海士町食材を使った料理を振る舞う一夜限りの「あまちゃん食堂」が実現したのです。

べっく あの「あまちゃん食堂」の食事は、僕が海士町にいる10年間で一番贅沢でした。中心メンバーの皆さんは、 「コクリ!だからここまでやった」と言っていましたね。

コクリ!海士に参加するふっじーさん(藤澤裕介さん・写真右)

おかべ その後、あまちゃん食堂には別のイベントからも声がかかっていて、彼らは現在、実際にお店を持つことも見据えながら、さらにプロジェクトを展開しようとしています。今回の場で、彼らはその大きな一歩を踏み出したんです。

海士町内のつながりも圧倒的に増えた

――周囲の変化で、何か気づいたことはありますか?

英治 2回開催した最も大きな効果は、海士町内のメンバーと町外のコクリ!メンバーとのつながりが、さらに強まったことだと思います。そのおかげで、海士町メンバーの活動量が高まる兆しが見えます。

べっく その通りですね。僕が見る限り、2回のコクリ!のおかげで、海士町内に「外の誰かに頼れる人」が増えました。これは、新たな海士の強みになりつつあります。

例えば、けいすけくん(大野佳祐さん・隠岐島前高校魅力化コーディネーター)は、直樹さん(太田直樹さん・前総務大臣補佐官)たちが立ち上げた新たな教育の実験場「土ラボ」に参加しています。そうしたことがいくつも出てきました。

第2回コクリ!海士で対話するコクリ!メンバーと海士町メンバー

おかべ 地域は、自分の弱みを見せにくく、何かしようとした時に誰かを頼るのも難しいところがあります。その点、コクリ!では、自分の弱さをさらけ出せますし、チャレンジする時に仲間の皆さんを頼ってよい雰囲気があります。こういう場は地域にとって貴重です。

べっく あと、コクリ!の場を通して、海士町内のつながりも圧倒的に増えました。例えば、僕は澤さん(澤正輝さん・隠岐島前教育魅力化プロジェクト キャリア教育担当)と親しくなれました。海士町メンバーは、皆そういった出会いがあるはずです。

第2回コクリ!海士に参加する青さん(青山敦士さん)

もちろん、海士町メンバーの自己変容もたくさん起きていて、一例を挙げると、青さん(青山敦士さん)は、コクリ!がなかったら、マリンポートホテル海士の社長になっていなかったかもしれません。コクリ!は、そういった人生の岐路にいろいろと関わっています。

個人と個人が仲良くなると地域の力が高まる

べっく 海士町にとっては、英治さんが親子島留学をしてくださっている影響も、とても大きいです。海士町に住んでみてどうですか?

英治 改めて、「個人と個人がつながることの重要性」を感じています。「海士町は町外との交流が盛んだ」とよく言われますが、それは海士町の誰かと、町外の誰かのつながりの積み重ねでしかありません。同様に、海士町自体が、個人と個人のつながりの積み重ねでできています。最近、それがよく分かってきました。

その説明には、「トランザクティブ・メモリー」という概念を使うと早いと思います。入山章栄さんの『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)に出てくる言葉です。

トランザクティブ・メモリーとは、僕の理解では「組織やコミュニティの各メンバーが何を知っているか、何に詳しいか、何が得意なのか」を知っていることです。例えば、「あの魚のことなら、○○さんに聞けばいい」「コーヒーのことは△△さんが詳しい」と分かっていることです。経営学では、社員一人ひとりのトランザクティブ・メモリーの豊富な組織ほど、自分たちの組織の力をよく発揮できると考 えられています。個人に根づいた専門知識を、組織が効果的に引き出すことができるからです。

第2回コクリ!海士で対話するコクリ!メンバーと海士町メンバー

面白いのは、「ある程度の交際期間を経たカップルはトランザクティブ・メモリーを自然と持つようになる」ことです。つまり、トランザクティブ・メモリーを高めるには、互いに深く知り合うことが重要なんです。コクリ!の場は、個人と個人が「根っこ」で深くつながることで、海士町コミュニティやコクリ!コミュニティのトランザクティブ・メモリーを高めていると思います。

べっく 僕はコクリ!コミュニティにいると安心できるんですが、それは「仲間と『根っこ』でつながっている」からですよね。

英治 僕もそうで、必ずしも長く一緒にいるわけではないのに、コクリ!メンバーといると安心します。

危機感ドリブンのまちづくりから脱却しつつある

べっく それから、これは自分自身も含めての話ですが、最近の海士町は、地域リーダーが自己を犠牲にしながら進める地域づくり、あるいは危機感ドリブンのまちづくりから脱却できつつあると感じています。そういう地域づくり・まちづくりは、一時的にはうまくいくかもしれないけれど、中長期的には地域リーダーたちが疲弊して停滞しますし、まちの危機が遠ざかると、動きが弱まってしまうという欠点もあります。

その点、コクリ!の場からコミュニティを発展させると、地域づくりの持続性が高まります。一人ひとりが自分なりのビジョンを持ちながら、主体的に動くようになるからです。そうして、地域リーダーに頼らない地域、危機感ではなくビジョンドリブンのまちになっていくのです。

コクリ!の場がなかったら違う人生になっていた

――最後に、3人とも、コクリ!プロジェクトに割と長く関わってもらっていますが、振り返ってみての全体的な感想をお願いします。

英治 『企業創造力』(アラン・G・ロビンソン、サム・スターン 英治出版)は、企業創造力を高める6つの条件として、「意識のベクトルを合わせる」「自発的な行動を促す」「非公式な活動を認める」「セレンディピティを誘発する」「多様な刺激を生み出す」「社内コミュニケーションを活性化する」を挙げています。

コクリ!プロジェクトは、まさにこの6つを実践しています。つまり、コクリ!は、「コミュニティの創造力を高める方法」を磨き続けてきたとも言えるんです。それが地域にも有効だと、海士町で実証しつつあるのではないでしょうか。

べっく 僕の場合、2016年秋に軽井沢で体験したコクリ!の場が自己変容のポイントでした。そのとき、「海士町や会社のみんなと一緒に生きたい」という想いと「自分の好きなように生きたい」という想いに引き裂かれている自分に気づけたんです。あれがなかったら、きっと自分は燃え尽きていたと思います。

また、こうして英治さんから経営者の可能性や、出版ビジネスを行う上で著者と深い関係を築く方法を間近で学べるとは、思ってもみませんでした。この出会いがなかったら、僕は経営者を辞め、会社を畳んでいたかもしれません。

もちろん、コクリ!の場が自己変容のすべてというつもりはありません。日々の仕事や活動、あるいは他のさまざまな出会いも、僕を大きく変えてきました。でも、コクリ!がなかったらと思うと、正直ゾッとします。自分の人生はかなり違ったものになっていたでしょう。

おかべ この2回のコクリ!の場は、そもそも私が「やりたい」と言い出して阿部に相談し、海士町メンバーの一人ひとりに会いに行って「参加していただけませんか?」と声をかけ、実現させたものです。決して簡単ではありませんでしたが、結果的には「圧倒的な当事者意識」を持ってやり遂げた、と胸を張って言えるプロジェクトになりました。

今後、この経験が、自分の大きな看板になっていくのではないかという気がしています。今は、5年後、10年後に、海士町メンバーの皆さんが活躍する姿を想像するだけで楽しい。いろんなことが起こりそうです。

GI探究ジャーニー in 海士町のプログラム

●1日目~2日目午前/海士と仲間と自分の旅路を辿り、「今」に飛び込む
1日目は、コクリ!メンバーが昼に海士町に到着した後、午後に「ストーリーテリング」の時間を取った。5~6名が1チームとなって、仲間に自分の「根っこ」を語ることで、自分と仲間の「根っこ」につながり、恐れを超えて未知に踏み出すワークだ。2日目の午前中は、いくつかに分かれて海士町のフィールドワークを行った。コクリ!メンバーが海士の仲間の「今」に飛び込んで対話し、仲間の「根っこ」へのつながりを深めていった。

第2回コクリ!海士のグラフィック 海士町のフィールドワークの一環として海の幸をおいしくいただく

●2日目午後/潮目を捉え、進化する
2日目の午後は、コクリ!メンバーの1人・ゆかさん(齊藤由香さん)のファシリテーションで、「身体ワーク」や「7世代ワーク」などを実施し、システムを感じ取った後、英輔さんの案内で各自が「進化思考ワーク」に取り組み、GI クリエーションを起こしていった。

海士町図書館も最大限に活用

●3日目/その先に向けて
3日目は、2日間を振り返りながら、お互いの今とこれからについて、チームメンバーとダイアログ。その後、プロアクションカフェ(具体的なアクションを生み出すための対話の場)を行い、それぞれがこの3日間で創造したアイデアやプロジェクトを応援しあった。

フェリーで帰途につく参加者たち
 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

 

コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

 

コクリ!の深い話(12)AIが「持続可能で幸せに暮らせるのは地方分散型社会」だと予言した ●広井良典さん×日立京大ラボ

 

「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

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