• 2016/06/13
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by TOYOAKI MASUDA

コクリ!対談(後編) コクリ!の関係性を日本中に広げられたら

4人のコクリ!メンバーに、思う存分、対話していただきました。

コクリ!の関係性を日本中に広げられたら

2016年4月、「コクリ!プロジェクト」が誇る4人の賢人に集まっていただき、思う存分お話しいただく「コクリ!対談」を行いました。実に3時間、地域の実例を交えながら、さまざまな話題が取り交わされていきました。その内容をできるだけこぼさないように仕上げたら、コクリ!プロジェクトサイトの中でも、特に中身の濃い記事ができ上がりました。前後編に分けてご紹介します。

後編は、「地域はオープンなほうがよいのか?」「コクリ!プロジェクトの活動を大きくして課題解決を進めていくためには、どうしたらよいのか?」「どうすれば地域づくりの持続的運営ができるのか?」「教育システムをどう変革するのか?」「これからの豊かさの尺度をどう考えるのか?」といったことが、次々に話題に上がりました。少々長いですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。

※注:「とーりまかし」をご覧の皆さんへ。こちらが対談の全編(の後編)になります。

高間さん/高間邦男さん/株式会社ヒューマンバリュー 会長
1996年から「学習する組織」の研究調査を行い、AI・OSTなど、ポジティブアプローチでの組織変革手法を日本にいち早く紹介。

太田さん/太田直樹さん/総務大臣補佐官
モニターカンパニー、ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナーを経て現職。地方創生とICT/IoTの政策立案・実行を補佐。

べっくさん/阿部裕志さん/株式会社巡の環 代表取締役
トヨタ自動車を経て、2008年、「持続可能な未来へ向けて行動する人づくり」を目的に、島根県海士町で巡の環を仲間と共に設立。

賢州さん/嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事
場づくりの専門集団を組織。第1期~第3期京都市未来まちづくり100人委員会・元運営事務局長(~2011年)。

聞き手:愛ちゃん/三田愛さん アシスタント:草刈くん/草刈良允さん

皆の「恐れ」をいかに減らすかが今後の大きな課題

高間 「地域はオープンなほうがよい」と言われることがあるでしょう。僕は、そうではないと思う。やはり地域には何かしらの「境界線」、もっと言えば、良いものだけが外から入ってくる「半浸透膜」が必要です。地域通貨のようなものは、良い意味で境界を作る方法だと思います。海士町は海に囲まれているからいいのではないですか?

べっくさん/阿部裕志さん/株式会社巡の環 代表取締役

べっく そうだと思います。一つ面白い話があって、今年になってから隠岐4町村のうち海士町以外の3町村は、住民へのフェリー補助金を出すようになりましたが、海士町だけ行っていません。なぜかといえば、フェリーで頻繁に島外に出るのは比較的お金を持っている人で、彼らが島外で何をするかといえば、買い物や娯楽です。しかし本当は、そうした人たちに島内で買い物をしてもらわないと、島の経済は衰退するばかりです。つまり、フェリー補助金は、島内の社会的弱者のためにも、地域経済のためにもならないのです。それなら、別の税金の使い方をする方が住民のためになる。だから補助金を出さないというのが、海士町の考え方です。なぜ海士町だけ補助金がないんだ、と住民から役場にクレームが来ていますが、役場の皆さんはそれをチャンスと捉え、住民の方々にきちんと考え方を説明し、皆の意識や行動を変える機会にしています。自分たちのことをちゃんと考えて行動し、クレームをチャンスにしようとする役場の皆さんの姿勢は、本当にすごいと思います。だから、海士町が好きなんですよねぇ。

賢州 先ほど(前編)の「評価制度を止める話」にもつながりますが、恐れや不安を原動力とした「恐れドリブン」で動くと、どうしても誰もが安いものを買い、貯金しようという気持ちになります。その動きが強くなると、地域はグローバル経済に飲み込まれてしまうと思います。地域内経済循環を高めるには、一人ひとりの恐れや不安を減らして、地域内で良い関係を増やし、皆がこの仲間たちと力を合わせれば何とかなるという気持ちを持てるようにすることが大切です。そうすれば、グローバル経済が津波のように押し寄せてきても、地域は内部で互いにお金を使い合うことで対応できるはずです。

国単位でも、問題はまったく一緒だと思います。本来であれば、「ベーシックインカム(政府が全国民に、最低限の生活を送るために必要な現金を無条件で定期的に支給する構想)」で世の中はうまく回ると思うのです。でも、国の財政問題のためにベーシックインカムが破綻してしまうのではないか、政権が変わったら制度がなくなってしまうのではないか、といった恐れの気持ちが多くの人にある限り、成功しないでしょう。今後は、皆の恐れをいかに減らすかが大きな課題になると思います。

太田 コクリ!プロジェクトで、そうした「地域の守りの技術」「守りのコ・クリエーション」についても考えたほうがいいのではないでしょうか。今後しばらくは、政治、経済、気候などの面でこれまで以上にボラティリティ(変動性)が上がっていきます。グローバル経済、気候変動などのさまざまな危険から、地域が自ら身を守る術を学ぶ必要があります。

太田さん/太田直樹さん/総務大臣補佐官

コクリ!の場が自己増殖していったら、社会課題は自然と解決する

 皆さんと一緒に考えたいテーマがあるんです。世の中には、地域単位では解決できないことがあります。たとえば、「都市はどうするのか?」「子どもの貧困はどうするのか?」といったことですね。コクリ!キャンプは、こうした課題に対して、企業・行政・地域・個人がタッグを組んで取り組むための場所ですが、さらに活動を大きくして課題解決を進めていくためには、どうしたらよいでしょうか。

太田 コクリ!キャンプには、大きく2つの役割があるのではないかと思います。一つは、今まさに愛さんが語った「既存の社会システムが持っている課題を解決する」役割。もう一つは、「コクリ!プロジェクトのような関係性を日本全体に広げていく」役割です。正直、現時点ではまだコクリ!の動きが大きく広がっていく感じはしませんが、もしコクリ!に近い場がどんどん自己増殖していったら、既存の社会システムが持つ課題は自ずと小さくなっていき、勝手に解決していくでしょう。つまり、後者の役割を果たすことができれば、前者の役割も担えるのです。

たとえば、次のような変化が考えられます。このままAIが進化すると、皆が働く時間はどんどん短くなるでしょう。副業OKで週休5日制といった企業が、いくつも出てくるかもしれません。そうなったら、皆がいろいろなことを始めます。そのなかで、コクリ!のような場やコ・クリエーションが広まっていくのです。そして、週休2日制の企業が淘汰される頃、コ・クリエーションの動きが本格的に流行して、自然とさまざまな問題が解決する。これは一番楽観的なシナリオで、もちろんバッドシナリオもありえますから、簡単に決めつけることはできませんが、こうした未来がやって来ることは十分に考えられます。

べっく そこで総務大臣補佐官の太田さんに質問があるのですが、海士町でよく話し合うのは、小さな田舎の突破口は「半官半X」しかないのではないか、ということです。というのは、この時代のなか、小さな島で農業や漁業などの一次産業を専業で生活していくのは、現実的に難しいのです。役場の職員が副業して、午前中は役場で、午後は畑や海で働くといった人を増やさなければ、今後、田舎の経済の根底を担う一次産業は成り立たなくなってしまいます。一次産業がなくなると、稲の収穫や大漁祈願などのお祭りや景観も廃れて、地域の文化が意味をもたなくなってしまう。半官半Xが実現できれば、役場職員が地域の現場のことをよく理解できるようになるし、所得も努力格差が生まれるし、さらには同じ人件費で雇用を倍にできる。僕の会社(巡の環)には、業務として週1日農家さんの手伝いに出向する社員もいるのですが、こうした動きを取れる人が田舎にはもっと必要なんです。ただ現状は、公務員法で禁じていているため、公務員は副業ができません。これをどうにかできないでしょうか。

賢州 そうした想いを持った公務員はたくさんいるのに、彼らが何もできない仕組みになっていますよね。人を信頼しない性悪説のメカニズムになっています。

太田 実は、オーストリアなどのヨーロッパの一部の国では「半官半X」をしていますね。市長レベルまで兼業という国もあります。世界的に見れば、半官半Xは決して珍しいことじゃありません。変えていける可能性はあると思います。

「株式会社」が地域づくりの主役になるのではないか

高間 「最貧国をどうしたら助けられるのか」を書いた本に面白いことが書いてありました。実は、最貧国に入ったNPOやNGOのほとんどが持続的運営に失敗していて、成功例は企業によるチャレンジばかりなんだそうです。企業がなぜ良いかというと、ビジネスや経済をサステナブルにしようとする性質があるからです。NPOやNGOが主導して、援助する/される関係になってしまうと、どうしても地元住民の主体性が失われてしまい、NPOやNGOがいなくなった後にうまくいかなくなるケースが多い。そうではなくて、住民の方々が主体的に参加するビジネス活動を盛んにしていけば、経済は自ずと回り続けるのです。これを踏まえると、日本でも、これからは株式会社が地域づくりの主役になるのではないでしょうか。

べっく 日本でも、田舎で求めているのは、企業でバリバリ働いていた人ですね。地域を変えていくにはパワーとラブの両方が必要で、田舎の価値を認め、守りたいというラブは前提としつつも、仕事を進めるパワー、構築力のある人が欠かせません。

賢州 先ほど(前編で)お話しした「うさと」に、もう一つ面白い話があります。彼らのビジネスは、年に2カ月程度、いつも同じ時期にどうしても赤字になるんですね。そこで彼らは、また驚いたことに、その2カ月を完全休業にしようと話し合いをしたそうです。その間は、他で働こうが旅に出ようがどこかで学ぼうがOK。それによって社員がいろんな世界を知れば、この会社をもっと良くできると、皆がポジティブに捉えています。とても興味深いアイデアです。ただし、こうしたことを大企業やトップダウン型の組織がチャレンジできるかといえば、現状では難しいでしょう。評価と恐れでマネジメントする企業組織のOSがあるからです。そこを抜本的に変えない限り、社会システムの変革は無理かもしれません。

賢州さん/嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事

太田 僕は、その点はもう少し楽観的に考えていて、評価とルールで厳密にマネジメントするような定型業務の多く、たとえばコールセンター業務などは、10年後にはAIがやっているのではないかと思うのです。だから、たとえば仕事を3つ持つといったことも、意外と簡単にできるのではないかと思いますし、そういう人のほうが高い価値を生み出せるのではないかという気がします。

賢州 社員が全員掛け持ちで働く中規模企業が出始めると、世の中が大きく変わってくる気がしますね。

太田 面白い。

高間 僕はそこで少し疑問に思うことがあります。ハイパフォーマーはいくつ掛け持ちしてもよいでしょうし、仕事も見つけられると思いますが、そうでない方々が苦労する可能性があると思います。たとえば、チームの中に入って、はじめて力を発揮するタイプの方もいるわけで、実際の職場では、そうした方々も含めて皆が気持ちを一つに合わせないとうまくいきません。これまでの企業は、多様な社員を抱えながら進んできました。企業がそうした機能を手放したとき、全員が働く場、皆が社会とつながって貢献する場をどのように提供するのか。これは大きな課題になるのではないでしょうか。

 確かに、会社がプロセスを決めて、社員の皆さんに効率よく動いてもらうことでうまく回っていく面はありますよね。

べっく 人にはそれぞれ向き不向きがあると思います。たとえば、都会ではうまくいかなかったけれど、田舎だとイキイキ楽しく働けるという人が少なくありません。仕事を掛け持ちすることで、自分が何に向いているか、何が好きかを知るチャンスは増えますから、そのなかで本領発揮の場を見つけていってもよいのではないでしょうか。また、これからの地域は、そうした掛け持ちや体験のチャンスを数多く用意することが重要になるのかもしれません。

教育システムの変革に成功すれば、社会に大きなインパクトを与えられる

太田 そこで考えたいのは「教育」です。仮に、2030年にAI社会ができていると考えたとき、2030年に成人する方々は今、6歳です。教育システムを急いで変えないと、将来、AI社会にどう対応していいのかわからない人ばかりになってしまう可能性があります。しかし、いきなり変えていくのは難しいのも確かです。たとえば、最近面白いと思ったのは、あるプログラミング教室に通っている子のおよそ25%が発達障害だという事実です。そこでは、発達障害の子どもたちが実にイキイキとプログラミングを学んでいるのです。このプログラミング教室のような事業者と義務教育システムが、どのように連携していくかが課題となっています。もし教育システムの変革に成功すれば、社会に大きなインパクトを与えられる。大きなテーマの一つだと思います。

賢州 海外に行くと、大胆なキャリアチェンジが珍しくありません。ダイビングのインストラクターから金融系コンサルタントになるといったことが普通に起きています。日本の教育システム、キャリアシステムに浸かっていると、そうしたことは思いつきもしないですよね。私たち日本人も、柔軟にキャリアを変えていけるしなやかさを身につける必要がありそうです。

高間 ジュリアード音楽院に通った後に医者になって、それからハーバードビジネススクールに通って有名なコンサルタントになった人もいますね。

草刈 ちょっとだけ発言してもいいですか。最近の若い世代は、さまざまなソーシャルビジネスやコクリ!プロジェクトのような取り組みをインターネットで簡単に知ることができますから、社会貢献が大切だという価値観を持って育ってきた学生がたくさんいます。でも、現実は昔ながらの就職活動のルートに乗るしかない。そうすると、会社で居場所がなく、すぐに辞めてしまうといったケースが周囲にとても多いんです。

賢州 就職活動のしくみに乗らずに、自分で切り拓いていく道もあると思いますが、そういう風に考えていいと思えないことが問題かもしれませんね。

高間 愛さんのやり方を見ていると、コクリ!プロジェクトでは、ある意味でずっと「教育」をしている感じがするんですよね。じっくりと皆が熟成するのを待っているところがある。関係づくりと教育が一番で、事は起きるべきときに自然に起きると考えていますよね。とても面白いと思う点です。

ところで、少し話が変わりますが、僕はもうちょっと簡単に学校が創れるといいと思うんです。この湯河原には、近辺に男子を入れたいと思う私立中学や私立高校がありません。それで引っ越してしまう家があるくらいです。しかし、社会人の皆さんのなかには、すでに十分、先生ができる方がたくさんいるはずです。彼らに少しずつ協力をしてもらって、各地に柔軟に学校を増やせたらよいと思うのです。

高間さん/高間邦男さん/株式会社ヒューマンバリュー 会長

賢州 教育の仕組みは、本当にゼロベースで考えたいですね。たとえば、数学専門研究所や歴史専門研究所といった機関を分野ごとにつくって、そこに行けば、初等数学や簡単な日本史から専門的な研究まで、いつでも学べる仕組みを創ることもできると思うんです。そのほうがムダのないシステムになるのではないでしょうか。

太田 「イーボード」というNPO法人があって、いつでもどこでも学べる動画と問題集を膨大に用意しています。それを利用すれば、何かの分野に優れている子は、学年に関係なく、連続して一気に高度な教育も受けることができます。すでにそうしたサービスを提供するところがあるくらいですから、意外とどんどん変えていけるのかもしれません。

それから、アメリカでは「ナノディグリー」が注目されています。MOOCS(インターネット上の大規模講義システム)を運営するUdacityがGoogleと提携して開発したもので、Udacityのマイクロコースを受けると、ナノディグリーがもらえるのです。これが今、IT企業への就職に大きな意味を持ち始めています。世界を見渡せば、MBAなどの権威あるディグリーだけでなく、多様なコースが生まれつつあります。大変ではありますが、日本でも教育システムの変革は十分に可能だと思います。

べっく 僕は今、海士町の教育委員をしています。僕は、教育とは「豊かに生きるための道しるべ」で、何を豊かだと考えるかによって変わってくるものだと思います。今、豊かさの尺度を見直すことが重要かもしれませんね。

高間 産能大で働いていたとき、作文が書けない子を集め、当時の学習理論を総動員して「何でも書いてよい作文教室」を開いたことがあります。そうしたら、皆ふだんの抑圧から解放されていき、何も書けなかった子がどんどん書くようになって、最終的には作文コンテストで入賞する子まで現れたということがありました。

べっく 僕は絵が下手で、小中学校でも成績が悪く、つい最近まで人前で描くのが嫌だったんですが、ワークショップなどで何かしらを描く機会が増えてきて、自分の下手な絵で笑いが取れることがわかってきたんです(笑)。そうしたら、少しずつ自信がついてきた。絵を描くことが楽しくなってきたんです。最近まさに、抑圧が解放されることで好きになるプロセスを自ら体験しました。

高間 子どもを見ていると、小さい頃は皆、絵を描くのが大好きですよ。ところが、どこかで評価されるか、指導されて描くのが嫌いになっていく。

賢州 それが社会人になってからも創造性を押さえつける要因になっていますよね。多くの人の抑圧をどう解放していくか。大きな課題です。

中国の田舎よりも、ブータンやスペインのほうが豊かでは

高間 先ほどべっくさんが話していた「豊かさの尺度」が気になっています。僕はブータンに旅行に行って見たのですが、GDPは低いけれど、家はどれも立派だし、教育費・医療費はタダだし、実に豊かなんですよ。物々交換がまだ多いこともあって、GDPに反映されない豊かさがあるんですね。先日、1週間ほど旅行してきたスペインも一緒で、経済的には停滞していると言われているけれど、都市はもちろん、田舎に行っても街がキレイで過ごしやすいところばかりでした。それに比べたら、GDPの高い中国の田舎のほうがよっぽど荒れています。

そのブータン4代国王がよく語る「ハピネス」は、日本語に訳すと、幸せよりも「充足」と言ったほうがより正確です。ブータンの人たちは充足しているんですね。そもそも近代以前は、貴族たちの充足した「瞑想的生活」が一番上の生活で、次にお金にならない「活動」が来て、「賃金労働」は一番下の生活でした。ところが現代の先進諸国では見事に逆転していて、稼ぐ人を社会人と呼んで敬っており、誰も彼もが稼ぎに捉われています。本当にこのままでいいのでしょうか。価値観を再構成しなければならない時期が来ているのではないかと思います。

太田 近代以前は経済活動のうち、貨幣経済が60%でしたが、今は90%が貨幣経済で、残りの10%は家事と言われています。その比率を変える必要があるのかもしれません。そこまでいかなくとも、株価やGDPを上げるのがいいという考え方は早々に変えなくてはならないでしょうね。ただ一方で、グリーンエコノミーや国民総幸福度などの「beyond GDP」は、いずれもうまくいっていません。どうもKPIの話は、KPIでは解決できないのではないかという気がしています。

べっく 僕らが海士町で実践しようとしているのは、家庭の「暮らし」、共同体のための「仕事」、お金をいただく「稼ぎ」の3つを満たす生き方です。この3つは「自給経済」「交換経済」「貨幣経済」という3つの経済とも言えます。この3つの経済が1:1:1となる生き方を実践することで、田舎なら年収300万円で、都会の年収900万円と同じくらい豊かな暮らしができると証明するのが、僕らの目標の1つです。

変容型シナリオ・プランニングには大きな価値がある

 教育でも政治でもそうですが、テーマ別に具体的なアイデアやシナリオを考えてみるというのは、コクリ!プロジェクトでチャレンジしたいことの一つです。

賢州 20年後、30年後の日々の生活や姿を細かくリアルに想像しながら、いろいろな立場の人がダイアログすることが、具体的な未来の施策シナリオやビジョンにつながる感じがします。そこまでいけば、未来の理想的な生活をムービーにすることもできますよね。

べっく 海士町では「ないものはない」というキャッチフレーズを掲げています。この言葉はダブルミーニングで、「なくてもよい」と「大事なことはすべてここにある」のどちらでもあるのですが、今、その言葉をもっと具体的に見せるために「ないものはないハウス」や「ないものはない絵本」を創ろうと話し合っています。賢州くんが言う通り、具現化、ストーリー化するなかで、幸福な生活のかたちが見えてくるのではないかと思うのです。

賢州 映像でも演技でもいいから、未来社会を具体的に皆に見せるというのが大事ですよね。

べっく 僕は海士町で仲間たちと3年くらい前から、アダム・カヘンが提唱する「変容型シナリオ・プランニング」を何度かおこなってきました。皆で見たくない現実を見たり、なりゆきの未来と望ましい未来を考えていくと、これからの海士町に対する「自分ゴト」化がものすごく高まりました。変容型シナリオ・プランニングには大きな価値があると感じています。

 あっという間に時間が来てしまいました。皆さん、今日はありがとうございました!

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

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