• 2018/04/24
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
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コクリ!の深い話(12)AIが「持続可能で幸せに暮らせるのは地方分散型社会」だと予言した ●広井良典さん×日立京大ラボ

「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第12回です。今回は、京都大学こころの未来研究センター教授・広井良典さんをはじめとする4名の先生方と日立京大ラボとが共同で進めている「AIを活用した未来シナリオ研究」について、広井さんと日立京大ラボの特定准教授・加藤猛さん、主任研究員・福田幸二さんにお話を伺いました。

※研究チーム参加者:賢州さん(嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん/株式会社ToBeings 代表取締役社長)、直樹さん(太田直樹さん/前総務大臣補佐官)、愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)

持続可能性を考えると、「地方分散シナリオ」がより望ましい

直樹 僕は以前、広井先生と日立京大ラボの皆さんに一度お話を伺っていて、その研究について簡単にブログに書きました。このブログ記事には大きな反響があって、30000ほどのアクセスがあり、Facebookでは2000以上のシェアがなされたんです。それで今回、コクリ!研究チームのメンバー全員でより詳しい話を伺い、それを記事に載せたいと思ってやってきました。ということで、私はだいたい知っているのですが、改めて研究の紹介をお願いできたらと思います。

広井良典さん

広井 まず研究内容を簡単に説明しますと、私たちはそもそも、「2050年、日本は持続可能か?」という問いから出発しました。この問いを探究するために、AI技術を利用したシミュレーションを行ったんです。具体的には、公共政策・科学哲学を専門とする私と、財政学・環境経済学の諸富徹先生、社会心理学・文化心理学の内田由紀子先生、医療経済学の今中雄一先生の4名が、日立京大ラボの加藤さん、福田さんたちとディスカッションして、149個の社会要因を設定した上で、その社会要因パラメーターの因果関係モデルを構築しました。そのモデルを使って、AIを用いたシミュレーションを実施したんです。2018年から2052年までの35年間で、約2万通りの未来シナリオ予測を立てました。その結果、23個の代表的なシナリオのグループに分類できました。そのシミュレーションの分析結果からわかったのは、次のようなことです。

(1)2050年に向けた未来シナリオは、都市への人口一極集中が加速する「都市集中シナリオ」と、地方に人口が分散する「地方分散シナリオ」に大きく分けられる。
(2)都市集中シナリオでは、出生率の低下、格差の拡大、個人の健康寿命や幸福感の低下が進行するが、政府の財政は持ち直す。
(3)地方分散シナリオでは、出生率が持ち直して格差が縮小し、健康寿命や幸福感も増大する。持続可能性を考えると、地方分散シナリオがより望ましい。このシナリオに持っていくためには、環境課税、再生可能エネルギーの活性化、地域公共交通機関の充実、文化や倫理の伝承、社会保障などの政策が有効だろう。
(4)ただし、地方分散シナリオは政府財政や環境を悪化させ、「破局シナリオ」に陥る可能性がある。このシナリオを「持続可能シナリオ」にするためには、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用などについて、経済循環を高める政策を継続的に実行する必要があるだろう。
(5)これが極めて重要だが、今から8~10年くらい後に都市集中シナリオと地方分散シナリオの分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはない。

私たちは、これを政策提言として、2017年9月に発表したんです。

日本の破局を防がなくてはならない

 なぜ、このテーマを研究しようと思ったんですか?

広井 端的に言えば、日本社会の持続可能性が危ういと感じているからです。日本はいま債務残高が累積して1000兆円もの額に達しており、それを将来世代へ先送りしている状態です。また、格差が拡大して貧困世帯割合が増加し、若年世代の困窮が広がって、子ども・若者への支援が薄くなっています。内閣府の調査(平成22年度・結婚・家族形成に関する調査)によれば、20代から30代の男性では年収300万円を境にして既婚率に大きな違いがあることがわかっており、格差拡大が未婚化の背景となって出生率を下げる要因となっていることは明らかです。

そして、私がそれらの根っこにあると思うのは、「社会的孤立度の高さ」です。ある調査によれば、日本は他の先進諸国と比べて、社会的孤立度が高いのです(OECD加盟国における社会的孤立の状況:World Values Survey 2001)。その一番の原因は、日本では農村のような古い共同体が壊れたにもかかわらず、新しい共同体、個人をベースにしたつながりができていないことにあると思います。今後、社会的孤立がさらに高まり、すでに600万人以上もいると言われる買い物難民が増えたり、地方都市の空洞化と商店街のシャッター通り化、農業の空洞化が進んだりして、そこにAIが失業率を高めてしまったりしたら、日本は破局を迎えてしまいます。私たちには、そうした破局シナリオを防ぐにはどうしたらよいかという想いがあります。

 広井さんは、2000年頃のかなり早い時期から、右肩上がりの経済成長を目標とせずに豊かさを実現する「定常型社会」を提唱していますが、その原点はどこにあるんですか?

広井 遡れば、中学生のときですね。その頃、私は成長拡大の「上りのエスカレーター」に否応なく巻き込まれていく感じを持っていて、「このエスカレーターの果てに何があるんだろう?」「みんなで上っていって、日本人は本当に幸せなんだろうか?」と考えていました。ただ、これは別に珍しいことではなく、私と同じ「新人類世代」の多くが、大なり小なり思っていたことだと思います。当時の流行歌に、太田宏美の「木綿のハンカチーフ」がありました。東京が楽しくて帰らない道を選んだ男性と、地方に残ってハンカチーフで涙を拭く女性の歌ですね。このように、当時はすべてが東京に流れていく時代でした。私もまた上京したわけですが、その点にも心のどこかで疑問を抱いていました。そうした疑問があったからこそ、私はこれまでに「定常型社会」や「ポスト資本主義」を提唱したりしてきたんです。もちろん、今回の研究もその延長線上にあります。

 そもそも、どうしてこの共同研究をすることになったんですか?

広井 最初からお話ししますと、2016年6月に日立京大ラボが立ち上がって、共同研究が始まったんですが、実は、私はそれ以前から加藤さんたちと知り合いでした。というのは、私が千葉大学から京都大学に移る直前の2016年2月に、加藤さんたちに呼ばれて、東京・国分寺にある日立中央研究所で講演したことがあったんです。その後、私は2016年4月に京都大学こころの未来研究センターに移り、その2カ月後に日立京大ラボができて、本当にたまたま加藤さんたちがやってきたんです。そのときは驚きました。

曖昧なものを曖昧なまま扱うコンピュータを開発した

直樹 このAIシミュレーションにはどういった特徴があるんですか?

広井 日立京大ラボのAIが「ファジーな要素を飲み込んで分析した」点に、今回の研究の新しさがあります。私たちのシミュレーションに似たものに、1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」レポートがありますが、これはファジーな要素が少ない「硬いシミュレーション」なのです。しかし、世の中は曖昧で複雑ですから、私たちは曖昧な要素を含んだ分析をすることが重要だと考えています。

加藤猛さん

福田 私たちは、日立中央研究所にいたときから「新しい計算機」を開発するプロジェクトを進めてきました。「高速化はいずれ限界を迎えるから、それ以外の切り口で“10年後の計算機”を創ろう」としてきたんです。そのプロジェクトから生まれたのが、「曖昧なものを曖昧なまま扱うコンピュータ」というコンセプトでした。特に経済学・経営学・心理学などの社会科学系では、ファジーな情報を扱えるコンピュータのニーズが高いのです。そこで当初、私たちは企業戦略をAIでシミュレーションする画期的なコンピュータの開発を進めていました。今回の研究で使ったのは、それに改良を加えたものです。

洋二郎 具体的には、曖昧なものをどうやってそのまま扱うんですか?

福田 今回の研究では、149個の社会要因パラメーターの1つひとつに、信頼度やつながり・因果関係の強弱を設定していますが、周囲とのつながりがよくわからない「ファジーなパラメーター」は、すべての可能性を考慮して、全部につながりを持つようにしているんです。こうした処理をしていますから、当然シャープな分析は出てきませんが、それでもおおざっぱな傾向は見えてくるんですね。具体的には、「都市集中シナリオ」とか、「持続可能性が高い地方分散シナリオ」「持続可能性が低い地方分散シナリオ」などの束になって、おおざっぱな傾向が出てきます。そのシナリオ束の関係性を示すことで、シミュレーション結果を理解してもらえるように工夫しました。

洋二郎 曖昧なものを曖昧なまま扱ったメリットはどこに出ているんですか?

福田 当然のことですが、149の社会要因のつながりや因果関係を変えれば、シミュレーション結果が変わってくる可能性があります。実際、私たちの試行錯誤のなかでは、パラメーターを少し変えると、簡単に結果が変わるようにも見えました。ただ一方で、ファジーな因果関係を入れた分、変化が出にくくなっていることも確かなのです。つまり、曖昧なものを曖昧なまま扱ったほうが、シミュレーションの確実性が高まるんです。

広井 とはいえ、私を含めた4名の先生の価値観が反映されていることは確かですから、別の考え方を持った方々が社会要因の構造を組めば、結果は変わってくるでしょうね。ただ、そうした関与した人間のもつバイアスも、ある程度吸収するような形でモデルが作られているとうかがっています。

加藤 その点で言えば、実はいま、このAIシミュレーションアプリのパッケージ化を進めています。完成したら、地方自治体などの方々にはWeb公開なども含めて無償で使っていただくことも検討しています。シミュレーションの精度を高めるにはさまざまな見方が必要ですから、ぜひいろんな方に、自分なりの社会要因構造を作ってシミュレーションしてもらえたらと思っています。さらに言うと、多様なシミュレーションデータが十分に蓄積できたら、全シミュレーションの傾向値を出したり、自分のシミュレーションが全体の中でどういった傾向を持っているのかがわかったりするようにできたらとも考えています。

広井 正直に言って、幸福度やソーシャルキャピタルなども含めた「目に見えない効果」を何でもかんでも定量化すればよいのかと言われれば、私は疑問を持っています。とはいえ、やはり幸福や人とのつながりといった見えないもの、定量化しにくいものの見える化は重要なのです。そこで今回は、曖昧なものを残したまま処理する方法を採りました。

日常的にどういった行動を取れば、持続可能性の高いシナリオに進んでいける?

洋二郎 この研究結果から、僕たちは、どこにシナリオの分かれ目があると認識すればよいのでしょうか? 日常的にどういった行動を取れば、持続可能性の高いシナリオに進んでいけるのでしょうか?

福田 その分かれ目を提示したのが、社会要因パラメーターの「要因解析」です。都市集中シナリオと地方分散シナリオの分岐、地方分散シナリオのなかでの持続可能シナリオと持続不能シナリオの分岐を解析し、それぞれの要因を出しました。最初に広井先生がお話しした研究結果も、この要因解析を反映しています。

福田幸二さん

すべてを紹介することはできないのですが、例えば、
●「道徳性」が高まったり(これは実質的にはソーシャルキャピタルのような人と人との関係性)、「環境税・炭素税」が導入されたり、「地域公共交通機関」が充実すると、〈地方分散シナリオ〉に進みやすくなります。
●また、「地域内の経済循環」が活性化したり、「地域内エネルギー自給率」が上がったり、「健康寿命」が延びたりすると、地域分散シナリオの〈持続可能性が高まります〉。
●逆に、「シャッター通り」が増えたり、「医療費」がさらに嵩んだりすると、〈持続不能なシナリオ〉に進む可能性が高くなります。

加藤 とはいえ、今回の研究で使ったのは、あくまでもマクロな社会要因パラメーターに限定した分析モデルです。ここに日常的なパラメーターを加えていけば、橋本さんがおっしゃるように、「私たちの日々の行動が社会をどう変えるのか」が見えてくるかもしれません。例えば、今回の研究で、地域内経済循環が日本社会の持続可能性を高めることはすでにわかっていますから、「多少高くても、地のものを買って地産地消すれば、地域も日本も良くなる!」といったメッセージを出すことは可能です。改良を加えれば、今後はもっと具体的なメッセージを出せるかもしれません。

洋二郎 僕はふだん、組織変革やシステム変容の現場で、個人の心理システムと社会システムが相似形になっていくのをよく見ています。その意味で、個人と社会は「フラクタル」だと僕は確信しています。ただ、それはまだ科学的には証明されていないことです。その意味で、個人の行動・心理と社会変化のつながりが、この研究で定量化されたら嬉しいですね。

例えば、「助け合い」や「人に頼ること」を社会要因のパラメーターに入れられないでしょうか。なぜかといえば、人の行動を阻む大きな要因の1つは「恐れ」だからです。恐れをなくして、皆が助け合うようになれば、社会変容はもっと進むと思うんです。

広井 そのアイデアは面白いですね。というのは、恐れは、人にとって最も根本的な感情(原基感情)だからです。ジョナサン・H・ターナーというアメリカの社会学者は、「幸せ、恐れ、怒り、そして悲しみが少なくない研究者によって原基的とみなされて」いて、なかでも「恐れはあらゆる動物のもっとも原基的な感情である」と語っています。その一方で、彼は「ヒト科が満足―幸せを軸にした感情状態を交換すればするほど、それだけ彼らの関係は結合的になった」とも述べています(ジョナサン・H・ターナー『感情の起源』明石書店)。つまり、ヒトは「幸せ」の感情を発達させることで連帯し、コミュニティをつくって進化してきたのです。また、今回の研究に参加している内田由紀子先生は、東洋では昔から、周囲との関わりに幸せを感じる「協調的幸福感」を大事にしてきたのだから、いまの日本人も協調的幸福感をもっと重視したほうがよいと言っています。これらの考えを踏まえて、シミュレーションに原基感情などを組み入れることで、先ほど言われたような個人の心理や行動と、社会の構想をつなぐようなビジョンが作れるとおもしろいですね。

直樹 僕が素晴らしいと思うのは、このシミュレーションを使うと、多様なステークホルダーがさまざまな取り組みを自分ゴトとして捉えられるようになることです。例えば、地域の再生エネルギー施設が、地域内エネルギー自給率を高めることに加えて、地域経済にも良い影響があるとわかったら、再生エネルギー問題を自分ゴトとして考える人は確実に増えるはずです。日本中の地域がいまオープンデータ化を進めていますから、皆さんのAIシミュレーションアプリが公開されたら、さまざまな自治体が活用するでしょう。日本中で議論が活性化しそうです。

地方分散型システムの社会実験などをスタートしつつある

 皆さんは、これからはどのような取り組みを行う予定ですか?

広井 先ほど加藤さんがお話ししたように、AIシミュレーションアプリを無料公開するのが1つですし、もちろん私たちの研究自体もブラッシュアップをかけます。また、自治体との共同研究もすでに動いていて、例えば2018年度は、長野県と連携して、リニア中央新幹線の開業が人口動態に与える影響などを分析し、県に必要となる政策を提示する取り組みを行うことが決まっています。

それから、私がもともと進めていたプロジェクトとのリンクが起きています。その1つが、宮崎県高原町での「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティプロジェクト」です。このプロジェクトでは当初、高原町にIターンした若者がつくった一般社団法人・地球のへそと、私の千葉大学での教え子がつくった千葉エコ・エネルギー株式会社が一緒になって、小水力発電施設を通じた地域活性化の試みを進めていました。いま、そこに日立のみなさんが加わって、今回の研究結果を基にした自然エネルギーを中心とする「地方分散型システムの社会実験」を始めようとしています。地域のみなさんも前向きで、今後エネルギーの地産地消や地域活性化に向けたさまざまな試みを行う予定です。

コクリ!研究チームの面々

私が鎮守の森を重視するのは、日本人の心性には八百万の神、つまり物質の中に物質を超えた何かを見出すような自然観あるいは世界観があるからです。それに、実は神社やお寺の数は全国にそれぞれ8万数千もあり、コンビニの数は6万弱ですからそれよりも数が多く、もともと地域コミュニティの拠点になっていました。ゼミの卒業生にも、地域の祭りが地元への愛着の軸にあり、スウェーデンに留学したりしたあとに地元にUターンした者がいますが、彼女の例のように、祭りが盛んな地域は若者のUターンや定着が多いという指摘もあります。鎮守の森は、その意味でも大切だと考えています。そうした特徴を踏まえて、先ほどの自然エネルギープロジェクトと並んで私が以前から提唱しているのが「鎮守の森セラピー」「鎮守の森ホスピス」です。2013年に鎮守の森コミュニティ研究所というのをつくり、こうした活動をささやかながら進めていますので、興味のある方はホームページをご覧いただければ幸いです。実は最近、京都の石清水八幡宮の田中朋清さんという権宮司の方が「石清水なつかしい未来創造事業団」を立ち上げつつあり、鎮守の森を拠点とした地域再生や鎮守の森ホスピスなどの構想を始めています。こうした動きにも積極的に連携していきたいと思っています。

加藤 こうした取り組みに日立が入っていく際は、やはり小水力発電などの再生エネルギーが大きな入口になりますが、私たちとしては、地域貨幣や地域内公共交通機関といった「地域内サプライチェーン」にもどんどん関わっていきたいと考えています。

福田 ITの世界では、早くから「分散型システム」が発達してきました。その考えや方法論を地域に当てはめるのも有効だろうと考えています。例えば、分散型システムは、各コンピュータが協調することで、少ないリソースを最大限に生かしてきました。同様に、地域の皆さんが、くもりの時間には少しだけお湯を沸かすのを控えるといった協調行動を取ることで、地域によっては太陽光発電での地域内自給自足なども可能になるのではないかと思うんです。

加藤 社会を分散システムとして捉えるときに難しいのは、全体利益を最適化すると格差が大きくなってしまう一方で、完全平等主義にすると経済活力が失われてしまうことです。その間でバランスを取って、協調性・同調性が適度に高く、社会規範を重視しつつも、ある程度は頑張った人が報われる社会を作る必要があります。私たちはいま、そうした社会モデルづくりにもチャレンジしています。

一番の問題は、私たち日本人が「成熟社会の豊かさのイメージ」を持ち得ていないことにある

愛 「自分の生き方を変えたら、地域や日本が良くなる」と思えたら、私たちはきっと日常の行動が変わるだろうと思うんです。だからこそ、あってほしいシナリオ・起こってほしくないシナリオがもっと具体的に見えてくると嬉しいんですが、そのためにはどうしたらよいと思いますか?

広井 一番の問題は、私たち日本人が「成熟社会の豊かさのイメージ」を持ち得ていないことにあるだろうと思います。現状の日本は、アメリカ型の拡大成長路線でGDPを上げる選択肢しか見ていませんが、実際はヨーロッパ型もあるわけです。ドイツやデンマークに行けば、10万人規模やそれ未満の都市でも街の中心部が賑わっていて、自然とも調和する形でヒト・モノ・カネが地域の中で循環し、明らかに地方分散が進んでいます。もちろんヨーロッパにも数々の問題があるわけで、一概にヨーロッパをよいというつもりはありませんが、やはり大量生産・大量消費・大量廃棄が基調にあり格差も尋常ではないアメリカに対し、ヨーロッパの成熟社会の豊かさのイメージは明確です。日本でもそのイメージをいかに創り、また先ほどの鎮守の森など、日本独自の伝統文化も生かしながら共有するかが重要だと思いますね。そのためにまず必要なのは、今回の研究のような「見える化」だと考えています。一方で、「破局シナリオ」を見せる方法もありますね。日立の別のグループの皆さんはいま、危機シナリオを見える化しようとしています。

洋二郎 おっしゃるとおりだと思います。もし成熟社会の豊かさや楽しさを示す概念を生み出せたら、日本社会はガラっと変わっていきそうです。

広井 あと、個人的に感じるのは、誰もが「情報」「情報」と騒ぎすぎているということです。長いスパンで見れば、情報化はもう飽和しつつあります。私はもともと科学史という領域が専攻だったのですが、17世紀以降、科学の中心コンセプトは「物質」→「エネルギー」→「情報」と進化し、20世紀後半から21世紀初頭は「情報」が中心でしたが、現在はむしろ「生命」に向かっています。私たちは、情報化できないものを重視する「ポスト情報化時代」に入りつつあるんです。なかなか情報化できないものの1つがローカルや場所性であり、1つが身体です。ですから今後は、ローカルや場所、身体性に軸足を置く時代になっていくでしょう。若い人たちは敏感で、そうしたことにすでに気づいていると思います。地域志向の強い若者が多いですし、神社・お寺にも若い人が多いですね。

直樹 僕はいま「ポジティブ・コンピューティング」に興味を持っています。例えば、中国では簡単に割り勘できるアプリケーションが流行しているんですが、こうした極めて個人主義的なシステムが果たしてよいのかどうか。日本の地域では、人々の間に貸し借りの関係が積み重なっていますよね。この関係性を大事にしたアプリケーションをつくるほうが、私たちにとって良いことではないでしょうか。

広井 おっしゃること、よくわかります。私も以前から、ウォークマンしかり、お金を入れたら機械が「ありがとうございました」と言う自動販売機しかり、日本人が発明したのが「人と人を遠ざけるテクノロジー」ばかりだということが気になっていました。これからは、人と人とのリアルなコミュニケーションを促すようなテクノロジーが社会に求められるのではないでしょうか。

直樹 問題は、現状はメーカーの製品開発にそうした視点がまったく欠けていることです。しかし、メーカーや製品開発者の考え方さえ変われば、根本的に製品・サービスが変わってくるかもしれません。

広井 今日は、コクリ!プロジェクトの活動についてもいろいろとお話が聞けて(※原稿内では省略しました)、皆さんの考え方や行動がこころの未来研究センターにいろいろと似ていることがわかりました。また、「個人の意識変容」を特に重視している点に興味を持ちました。私たちとしては、今回の研究を高く評価していただけて、とても嬉しく思います。ぜひこれからもよろしくお願いします。

インタビューを終えて

直樹 じっくりお話を伺うのは2度目ですが、今回はコクリ!との接点が見えてきたように思います。それは「個人の変容」や「日常の行動の変化」、例えば「地消地産(地域で消費するものは地域で作ろう)」といったことが地域の未来を創っていくことの可能性や、そのプロセスの見える化です。

 この研究について伺ったことで、私は「なぜ自分がコクリ!プロジェクトを進めているのか」が腹落ちしました。今後8~10年で、日本は都市集中シナリオと地方分散シナリオのどちらかに決まってしまい、一度それが決まったら、もう不可逆なのだと聞いて、まずは自分がめちゃくちゃ大事な10年を生きていることに身震いしたんです。そして、私がいますべきことは、未来世代への責任を感じながら、コクリ!の仲間たちと一緒になって、日本が持続可能な地方分散シナリオに進んでいけるよう貢献することだと強く認識しました。勇気をいただいたインタビューでした!

広井良典さん
1986年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。厚生省勤務を経て、1996年千葉大学法経学部助教授。マサチュ-セッツ工科大学(MIT)客員研究員、千葉大学法経学部教授を経験した後、2016年より京都大学こころの未来研究センター教授。専門は公共政策・科学哲学。『ポスト資本主義』(岩波書店)、『人口減少社会という希望』(朝日新聞出版)、『コミュニティを問いなおす』(筑摩書房)など、著書・編著書多数。

日立京大ラボ(日立未来課題探索共同研究部門)
「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」を推進するため、2016年6月に京都大学内に開設した京都大学と日立製作所の共同研究部門。2050年の社会課題と、その解決に向けた大学と企業の社会的価値提言の策定、ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能の探究、基礎物理のための最先端計測の探究などをテーマに共同研究を進めている。

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

 

コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

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