• 2018/03/27
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by AKANE AOE

コクリ!の深い話(11)不登校児に大きな可能性を感じている ●田原真人さん

“反転授業の研究”“ZOOM革命”などを展開し、コミュニティの自己組織化を探究している田原真人さんに、「自己組織化コミュニティの作り方」や「自己組織化する学校」などについて伺いました。

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第11回です。今回は、テクノロジーを利用することによって学習者中心の学びを作り出していこうと考えている人が、対話を通してアイディアや理解を深めていこうというグループ「反転授業の研究」、Zoomを使ったオンラインの場創りの基礎知識やオンラインコミュニティに与贈循環を自己組織化させる方法を伝える「ZOOM革命」、物理ネット予備校「フィズヨビ」などを展開する自己組織化ファシリテーター、オンライン教育プロデューサーの田原真人さんにお話を伺いました。こちらは後編です。前編はこちら

※研究チーム参加者:愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)、賢州さん(嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん/株式会社ToBeings 代表取締役社長)

オンラインコミュニティではものすごい速度でみんなが仲良くなっていく

洋二郎 コクリ!プロジェクトは基本的にはリアルな場で、最近は特に身体性を重視したプログラムを展開しています。僕は身体ワーク担当で、仕事でも身体ワークをよくやっているので、身体性を使えるリアルなコミュニティのなかで自己組織化が起こるプロセスはよくわかるんです。でも、身体性を使えないオンラインコミュニティで一体どのように自己組織化を起こしているのか、まだイメージできない部分があります。詳しく教えてください。

田原 僕は、ZOOMを中心にして、動画を蓄積するプラットフォームやFacebookグループ、メッセンジャーなどを組み合わせてコミュニケーションをとり、「オンラインコミュニティ」を運営しています。おっしゃる通り、ZOOMでは、一般的なファシリテーターが使えるものの多くを手放さざるをえません。例えば、リアルな場のファシリテーターの特権はみんなの前に出て話すことですが、ZOOMではそれができません。また、オンラインだと1人が長く話すのを聞いているのが辛いので、伝えたいことは事前に映像にしておく必要があります。ただ、こうしたことがハンデだとは思っていません。オンラインらしいチャネルを使えばよいだけなのです。そのチャネルはいくつかあります。

田原真人さん

第一に、僕は前に出て話すという特権を手放し、ファシリテーター自体も止めて、ワークショップにはいつも参加者の1人として参加しています。僕の用意した映像を教材として使いながら、ワークショップの進行はモデレーターに任せているんです。面白いことに、参加者の僕に映像の内容について質問する人は誰もいません。僕は完全に一参加者として場に加わり、みんなと対話することができるんですね。講師役と参加者役の一人二役をやれるというのは、とても面白いと思っています。

第二に、どのコミュニティでも、必ず「スピンアウト企画」が次々に立ち上がります。自主勉強会、女性だけの対話の場などがどんどん生まれるんです。そうした企画は必ずZOOMの録画機能を使って録画してもらうようにしています。その録画映像をみんなが見ていくうちに、ものすごい速度で相互理解が進み、仲良くなっていくんですね。ここには確実に、リアルの場とは違った何かが起こっています。

第三に、ZOOMの利点として、相手の顔をまじまじと見ることができます。リアルな場だと難しいですが、ZOOMだと、気兼ねせずに相手を直視できるんです。相手だけでなく、自分の顔を眺めることもできます。自分の顔を見ながら話をすると面白いですよ。自分がいまどんな表情をして、どんな感情で話をしているのかに気づくことができて、内省が促されるんです。こうした特性があるため、ZOOMのほうが対話しやすいという参加者が実は多いんですね。ただ一方で、ふだん身体や視線から多くの情報を取ってコミュニケーションしているタイプの人は、ZOOMの環境に慣れないうちは落ち着かないと言います。

何を言っても大丈夫なコミュニティでは「世界の捉え方の多様性」がよくわかる

賢州 僕たちは、コクリ!プロジェクトのなかに、質の高い創発を生み続ける研究コミュニティを創りたいと考えています。そのためには、研究チームのコアメンバーが関わっていないところでも叡智が生まれるような仕組みにしなくちゃいけません。それに、ニューパラダイムの叡智を果たして評価できるのかという問題もあります。レベルの高いコミュニティを創るために、田原さんはどういったことをしているんでしょうか?

田原 直接の答えになっているかどうかわかりませんが、僕はコミュニティの集合知には3つのレベルがあると考えています。レベル1はまずみんながつながって、自分の知識を紹介し合う段階です。これが終わって、他のメンバーとのつながりが深くなり、各自の得意技や得意分野がわかってくると、メンバーの得意分野の情報も自分の中にどんどん入ってくるようになります。いままではスルーしていた情報をスルーしなくなるんですね。これがメンバー全員に起こると、集合知がレベル2に上がります。そして、そのうちに「何を言っても大丈夫」と思えるコミュニティになると、さらに表現の範囲が広がっていきます。ふだんは周囲に話さないようなこと、怪しいと思われてしまうようなことも話し始めるんですね。こうした話を皆が始め出すと、世界を認識する上で使っているツールが一人ひとり全然違い、世界の捉え方が多様だということが本当によくわかります。これがレベル3ですね。ここまでいくと、メンバー全員が「人間理解」を深めるんです。

内側は新パラダイム、外側は旧パラダイムという状況は当分続くと覚悟している

賢州 もう1つ、コクリ!でいま悩んでいるのは「必要なだけのお金を得ること」なんですが、それはどうしているんですか?

田原 一言で言えば、絶賛悩み中です。例えば、最近僕たちは、「対話の数を最大化する」ことを価値と置いて活動するとよいのではないか、という仮説を立てつつあるところです。そうすると、対話の数の最大化に向けてお金も動くだろうと考えています。私のコミュニティ内には、こうしたことに詳しいメンバーがいるはずなので、彼らとも相談しながら進めていこうと考えています。他には、クラウドファンディングなどの「資金の受容体」をもっと増やしたいとも思っていますね。プロフェッショナルや事務局にきちんとお金を払うためには、そうした努力は欠かせません。

ただ一方で、金銭的に苦しい状況がしばらく続くのは仕方がないとも思っています。なぜなら、その根本的な原因が、パラダイム移行期そのものにあるからです。世の中のパラダイムがすっかり変わって、例えば多くがシェアリングエコノミーで生活するようになったら、僕らが資金面で悩む必要はありません。しかし、そうなるのはまだ当分先の話で、現状は、コミュニティ内部は新パラダイム、外部は旧パラダイムで動いていて、そこに矛盾が起きているんです。その状況は当分続くと覚悟しています。僕としては、その覚悟をした上で「移行フェーズは苦しいですよねー!」と声を大にして伝えたいですね。そして、同じように苦しさを感じている人たちと共感でつながって動いていきたいです。

「魂の躍動こそが自分なのだ」と思える人はどんどん変わっていける

洋二郎 個人的に興味が湧いてきたのですが、コミュニティの自己組織化の背景にはどういった理論があるんですか?

田原 科学の世界では、自己組織化は「非平衡開放系(散逸系)」で起こると言われています。非平衡開放系とは、システム外部から物質やエネルギーが入り続けることで、非平衡状態でありながら動的に構造が維持されるシステムです。そのなかで「ゆらぎ」が起こり、新たなシステムが再構築されていくのが、物質の自己組織化です。この点では、コミュニティの自己組織化もまったく同じです。外部に開いたコミュニティには、新たなメンバーが常に外から入ってきたりして、内部にはない新たな情報をもたらします。その違いが新たなコミュニケーションやコンフリクトの原因となり、ゆらぎを起こし、コミュニティの自己組織化を引き起こすんです。

ただ、場の研究所の清水博さんは「物質の自己組織化」と「生命の自己組織化」は異なるとおっしゃっています。物質の自己組織化は、まったく同じ環境を用意して同じように情報を動かせば、まったく同じように再現することができます。つまり、自己組織化を「管理」できるわけです。しかし、生命の自己組織化は管理できないんです。なぜなら、条件が同じでも、自律性や柔軟性を持ち、ひとりでに多様化していくのが生命プロセスだからです。生命の自己組織化は、科学的に記述しきれない部分が必ずあるのです。

清水さんは、そのことを「<いのち>の与贈循環」という概念で説明しています。メンバーが居場所に愛着を持ち、その居場所に愛を起点とした行動を注いでいき、それが閾値を超えると、居場所に<いのち>が自己組織化します。そこで生まれた<いのち>のドラマをメンバー全員が共有し、そのドラマの様々な役割をメンバーが演じることで<活き>が引き出されてきます。つまり、参加者が<いのち>を場に注ぐことで、居場所に<いのち>が生まれ、居場所の<いのち>がメンバーに「活き」を与えてくれるという与贈循環が生まれるのです。この循環は、管理や再現ができません。その管理できない部分にこそ、生物の本質があるんです。特にヒトは、生物のなかでも身体と思考のズレが大きい分、ダイナミックな自己組織化が起こる可能性が高いと感じています。

逆に言えば、魂の植民地化とは「人間の規格化」であり、管理するためにヒトを物質に近づけるような行為です。それは生物らしさ、人間らしさから離れることです。身体の声を聞き、魂を躍動させ、思考をどんどんリフレーミングさせていくことこそが、最も人間らしい行為なのです。「魂の躍動こそが自分なのだ」と思える人はどんどん自己組織化を起こし、自ら変わっていけるんです。

その点で、僕たちは不登校児に大きな可能性を感じています。いま日本には不登校児が20万人ほどもいるといわれていますが、彼らは、こうした人間の規格化、魂の植民地化を拒否している存在と見ることができるからです。彼らは、学校で魂と身体が切り離されることに「No」と言っている存在なのかもしれません。僕たちがいま取り組み始めた「自己組織化する学校」は、魂の植民地化をしない学校です。子どもたちがオンラインで対話することで主体的に自己組織化を起こし、自分たちが求める学校や教育を多様に創り上げられる学校です。自己組織化する学校を通して、学校や教育のカタチが多様になったとき、公教育全体にも大きな変容を起こせるのではないかと考えています。

インタビューを終えて

賢州 田原さんのお話はどれも面白かったんですが、特に印象に残っているのは、ZOOMの録画機能を使って録画データを蓄積していくと、それをみんなが見ることで時間を超えたワールドカフェのような役割を果たしていくという話や、ZOOMでは話している自分の顔が見られるから、話している最中にフィードバックがかかって内省的になれるという話です。

洋二郎 ZOOMを使ったコミュニティの関係性や対話が深まるということは、もっと探究してみたいですね。ところで先日、ある方と話していて「ZOOMは欧米的だ」という話になりました。画面上に個人の顔が浮かんでいて、話している人がそのつど前面に来るというシステムがキリスト教的だという意見には、僕もある程度は共感するんです。でも、そうでない部分もあると感じています。というのは、ZOOMにはいい塩梅の距離感があると思うんですね。会って話をするのはもちろん良い面がたくさんあるわけですが、その一方で、距離が近すぎるために緊張感を生んだりする面もありますよね。

賢州 最悪、相手に襲われる危険性だってありますからね。

洋二郎 そうそう。その点、ZOOMには適度な距離がありますよね。その距離感が、内省的なプロセスを促す可能性があると感じています。

賢州 僕らは一度、「Face to Faceのほうが近いから良い」というメンタルモデルを保留したほうがいいのかもしれません。リアルの場を扱うファシリテーターは、どうしてもリアルの場を評価しがちですけど、その考えをいったん横に置いてみると、ファシリテーションが深まる可能性がありそうです。

洋二郎 リアルな場とZOOMの場はインターフェイスが違うから、作用も違うと考えるのがいいだろうと思いますね。

賢州 ZOOMにはトーキングオブジェ機能がありますね。リアルな場だと、みんなでトーキングオブジェを回すことで誰が話す番なのかを示すわけですが、ZOOMだと、話している人の画面が前面に来ることが誰の場なのかを示していて、他の参加者が口を挟むのを難しくしています。あと、個人攻撃しにくい構造になっていて、常に「1対多」の関係でいられるのもZOOMの良い部分だと思います。そう考えてみると、ZOOMには内省の多い豊かな時間になりやすい仕組みがありますね。

洋二郎 ZOOMをうまく使えば、簡単な場ならファシリテーターが要らないのかもしれません。

賢州 オレンジ組織(実力主義の達成型組織)が、ZOOMを駆使することでGREEN型組織(多元型組織)に引き上げられるといった効果もあるかもしれないですね。

田原真人さん
自己組織化ファシリテーター、オンライン教育プロデューサー、「反転授業の研究」代表、「フィズヨビ」代表。早稲田大学理工学研究科博士課程で生命現象の自己組織化について研究後、河合塾の物理講師になり、2005年に物理ネット予備校(フィズヨビ)を立ち上げる。反転授業との出会いをきっかけに、ピラミッド型の社会システムや教育システムに疑問を抱くようになる。自らの学び場を自分で創るために「反転授業の研究」を立ち上げる。そこで対話を通した自己組織化と出会ったことで、学生時代に学んだことを生かせるようになった。オンラインコミュニティに自己組織化が起こり、集合知→価値創造→価値提供の循環を生み出せるようになった。その体験を分かち合うために自己組織ファシリテーターとしての活動を始める。

 

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