• 2017/03/31
  • Edit by HARUMA YONEKAWA

コクリ!の深い話(3) 家族や地域や組織やさまざまな関係のなかに「自己変容」できる仕組みがたくさんあるといい ●小田理一郎さん・後編

システム思考の日本の第一人者・小田理一郎さんに、世界の構造変革とダイアログの可能性について伺いました。〈後編〉

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第3回です。今回は、システム思考の日本の第一人者・小田理一郎さん(チェンジ・エージェント代表取締役)に、世界の構造変革とダイアログの可能性について伺いました。その後編をお送りします。聞き手は、賢州さん(嘉村賢州さん)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん)、直樹さん(太田直樹さん)、愛ちゃん(三田愛さん)の4人です。

構造の変革は可能だと信じて、行動を起こすことが大切

――― そのように時代を見ている小田さんは、今、何に対してどのようにアプローチしようとしているのでしょうか?(賢州)

ダイアログの弱点の1つは、「人の入れ替わり」に弱いことです。ダイアログをしたメンバーのなかで共通理解が広まっても、メンバーの大半が入れ替わると、一からやり直しになってしまうこともあります。それでは、ダイアログの内容がどれだけ素晴らしくても、長期的な課題に対する変革はなかなか起きません。特に日本企業や日本の官公庁は人事ローテーションが頻繁にあるため、この弱点が現れやすい傾向があります。これを克服するには、ダイアログで出た結論や共通理解を構造に落としていく必要があります。情報の流れを変えたり、組織の目標やビジョンを変えたり、新たなルールを作ったりして、ダイアログの結論を組織に定着させていくのです。私は今、そうした新しい構造をどうデザインしていくかに興味があります。

小田理一郎さん(チェンジ・エージェント代表取締役)

具体例を挙げると、「学校教育の新たな構造」は関心があることの1つです。学校教育で重要なのは、「マルチゴール」のプラットフォームを用意する必要があることです。ある企業のなかで、ビジネスの目的を一本化することは可能でしょう。しかし、社会のなかで教育の目的を1つのゴールにまとめるのはおかしなことです。たとえば、グローバル企業に人材を輩出することを学校教育の唯一の目的にするのは、明らかに違和感があります。それがゴールの1つにするのはかまいませんが、他にもいくつかのゴールが並列的に用意されるのが望ましい姿でしょう。そうした構造をつくるには、自分の目指すゴール以外にも、さまざまなゴールがありえることを誰もが認める必要があります。

愛ちゃん(三田愛さん)

――― ダイアログの成果を構造に落としていくというのは、具体的にはどのようなことでしょうか?(洋二郎)

たとえば、政府と市民の関係を考えてみましょう。

企業のマーケティング活動はお客様のニーズを満たすのが目的ですが、国政や地方行政では、国民や市民の唱えるニーズを満たすという役割は限定的です。なぜなら、唱えるニーズが互いに矛盾したり、単なるウォンツが語られたりする上に、財政などの制約があるため、国民・市民がお客様であるという構造では成り立ちようがないからです。それゆえに、政治家は国民のニーズを叶えるだけの存在ではいけません。本来は、国民に不都合な真実を語りかけ、国民の協力を得ようとするのが優れた政治家なのです。かつてジョン・F・ケネディは「我が同胞アメリカ国民よ、国が諸君のために何ができるかを問うのではなく、諸君が国のために何ができるかを問うてほしい」と言いましたが、政治家はまさにこうしたメッセージを発すべき存在です。しかし、現実には、リーダーが不都合な真実を隠し、国民の御用聞きをするケースがそこかしこで見られます。そこで私たちが本当にしなくてはならないのは、不都合な真実を見据え、それに向き合うようなガバナンスの構造を変えていくことです。

広くダイアログを行い、そうした結論が出たときにも、別に絶望する必要はありません。ダイアログの参加者一人ひとりが、自分たちの幸せは自分たち自身が手綱を握っているのだと理解して立ち上がり、現状を変えていこうとすればよいのです。大切なのは、構造の変革は可能だと信じて行動を起こすことです。変革への動きが速ければ速いほど、選択肢も多いのですから。

最初に学ぶべきは、大事なことを話し合おうとする姿勢

――― ところで、小田さんは、どのようにしてチェンジ・エージェントに参画したのですか?(直樹)

最初は外資系企業で、業務改革、組織変容や経営企画に関わっていました。2002年にその企業を退職し、NGOをサポートしようと決めました。そのときちょうど、枝廣淳子が新しいNGOを立ち上げたのを知り、直接メールをして、英訳のボランティアとして参加したのがきっかけです。その後、そのNGOのメンバーとなって、数百人のボランティアグループの新たな文化を醸成するため、ルール、ゴール、ビジョンなどを設定していきました。

バラトングループのメンバーの皆さん

その間、枝廣はデニス・メドウズに出会い、バラトングループに参加して、システム思考や学習する組織こそが今の日本に必要だと直感し、日本に紹介する活動を始めました。私も、バラトングループに参加し、ピーター・M・センゲ『学習する組織』(英治出版)、ジョン・D・スターマン『システム思考』(東洋経済新報社)などを共訳するなかで、システム思考や学習する組織を深く学んできました。世界のフードシステムを変えようとしている「サステナブル・フード・ラボ(SFL)」を設立したハル・ハミルトンとも、この頃に出会いました。

ちなみに、バラトングループとは、ハンガリー・バラトン湖畔で招待制の会議を開催する国際ネットワークです。年に一度、招待された50名ほどの科学者、活動家、ビジネスパーソン、政治家などが集まり、1週間にわたってディベートやダイアログを行っています。この会議はすでに35回開かれており、設立した頃は、東西冷戦下で西側と東側の科学者や活動家が地球レベルの問題を理解するために開かれました。現在も、世界各地からの参加者が共同で探求することで、互いの文化や思想を理解しながら、地球全体のことを考えていく場としてデザインされています。バラトングループは組織としては提唱やアクションは行わず、舞台裏で「quietly shaping the curve(静かに変化の波を形づくる)」ことを目指しています。声を上げるのではなく、波の突端で何が起こっているかを冷静に見つめて、変化の波を形成する力の一部になろうとしているのです。

――― 小田さんは、この世界を変えるレバレッジは何だと思っていますか?(愛)

一言で言えば、「自己変容」できる仕組みや関係があちこちにあるとよいと思っています。自分自身で自己変容できるのが理想的ですが、孔子が「六十にして耳順う(60歳になってはじめて他人の意見に素直に耳を傾けられるようになる)」と言ったように、みずから自己変容するのは時間を要します。だからこそ、それを加速するように、家族や地域や組織やさまざまな関係のなかに、自分の役割を見つけることができ、学ぶ場があって、そこで成長していけるシステムの存在がいくつも必要です。自分の天性やギフトを見つけ、育めるような地域や組織、あるいは過去に道を外した人も信頼関係の下に受け入れられる家族やコミュニティがたくさんあれば、それらがフラクタル(相似形のよう)に世界全体を変えるのではないかと思うのです。また、そうしたコミュニティや社会をつくることを目的にした経済構造をデザインするのが一番だと思っています。

――― これを読む皆さんに、これだけは学んでほしいと思うことは何ですか?(賢州)

対話の理論やテクニックを学んでいる人たちの間ですら、いざ難しい課題が出てくると、互いに話せなくなってしまいます。本当は話し合う必要があるのに、誰かのせいにしたり、相手と話すことを拒んだりしてしまいがちです。ですから実は、一番大事なのは、「きちんと話し合ったほうがいいんじゃない?」と、大事なことを話し合おうとする姿勢ではないかと思うのです。

その姿勢を得るためには、まず自分自身と話し合う時間を持つことが重要です。自分の全体性と触れ合い、世界が相互依存していることを感じ、心身を良い状態に持っていけば、社会・世界の全体性に自然と向き合うことができるようになるからです。理論やテクニックを学ぶ前に、このようにして自分や周囲や世界との向き合い方を学ぶことをお勧めします。

対話をする姿勢を身につけたら、今度はマインドフルネスなどの習慣が役に立つでしょう。システム思考やダイアログの手法の引き出しも、たくさん持っていて損はありません。また、それらをどう活かしていくかを探求することも大切です。

それから、私たちは文化のことを見直さなくてはならないと思います。たとえば、イギリスのシューマッハ・カレッジでは「自分の手を使ってものをつくりなさい」「心を鍛えるために毎日詩を読みなさい」と教えていますが、そうした手仕事の文化や美しい文化は、実は日本にいくらでもあります。足元を見直す時期が来ていると感じます。

文化人類学者のマーガレット・ミードはこう言いました。「少数の思慮深く熱心な市民が世の中を変えられるということを疑ってはいけない。実際、過去に世の中を変えたのはそういう人たちだけだったのだ」。その通りだと思います。少数が世界を変えうるのです。私自身は、「4人の法則」を重視しています。まず4人の同志を見つけて、テクニックや理論を磨くとともに、仲間を増やしてコミュニティをつくっていけば、世界を変えていける可能性があるのです。

〈インタビューを終えて〉

直樹 さまざまな先人の営み、バラトングループが変化の波を先取りして、それを形成する力になろうとしていること、不確実性や分断についてどう考えるかなど、「なるほど!」と思うことがたくさんありました。世界の「構造」を変えるためには、どこかで大きなブレークスルーが必要になるでしょうね。

賢州 個人的にキーワードだと思ったのは、「評価時間の短さ」と「分断」です。僕たちが目の前のことばかり考えるようになっていること、僕たちが分断されていることが大きな問題なのだと感じました。あとは、最後にお話しされていた「自己変容」できるような仕組みや関係のお話が心に残りましたね。

直樹 日本の地域というフィールドは、社会実験をする上で魅力的な場ですよね。小田さんがおっしゃっていた「自己変容」できるような仕組みや関係も作りやすいでしょうし。

洋二郎 そうそう。

賢州 地域で画期的な成果を出して、早く世界に示したいですね。

洋二郎 僕が普段ビジネスとして取り組んでいるクライアントワークは、どうしてもクローズドなものになってしまいます。その点、コクリ!プロジェクトのオープンなところに可能性を感じています。こうした話も公開できるのが面白い。

賢州 今後も続けていきましょう。

 小田さんの世界への深い愛と知性に触れて、感動しました! 世界の構造を変える鍵は、一人ひとりが自分の才能・ギフトに気づき・目覚め、全体像を理解して、メンタルモデルを変えていくことなんだと、改めて思いました。コクリ!プロジェクトには「worse before better」を信じている仲間がたくさんいます。一時は悪くなったり、混沌としたりしても、その先に新しい未来が待っていることを信じて、一緒に新しい社会実験をチャレンジできる仲間がいるんです。私も長期的な目線で地域・社会システムの変容を見つめ、コクリ!の仲間たちとともに、新しい研究・社会実験をチャレンジしていきたいと思います。

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

2018年6月の「コクリ!研究合宿@フフ山梨」を経て、なおこさんは、問題になる前に挑戦しないと、世の中の生きにくさを減らすことはできないことに気づいて「家族計画建築」を思いつき、「家と家族についてのラーニングコミュニティ」を立ち上げることを決心しました。

 

コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

 

コクリ!の深い話(12)AIが「持続可能で幸せに暮らせるのは地方分散型社会」だと予言した ●広井良典さん×日立京大ラボ

 

「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

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