• 2017/05/02
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by RYOSUKE KUSAKARI

コクリ!の深い話(4) 自分たちで渋谷区の課題を解決していく「渋谷をつなげる30人」を創っている ●野村恭彦さん・前編

イノベーション・ファシリテーターの野村恭彦さんに、地域づくりとファシリテーションとイノベーションについて伺いました。〈前編〉

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第4回です。イノベーション・ファシリテーターの野村恭彦さん(株式会社フューチャーセッションズ代表取締役)に、地域づくりとファシリテーションとイノベーションにについて伺いました。その前編をお送りします。聞き手は、賢州さん(嘉村賢州さん)、直樹さん(太田直樹さん)、愛ちゃん(三田愛さん)の3人です。

ビジネスの目的や意味を変えない限り、組織は変わらない

――― まずは野村さんの「これまで」を教えてください。(賢州)

大学院を出た後、富士ゼロックスに入社しました。その頃はグループウェアや組織知に興味があって、富士ゼロックスなら面白そうなことができると感じたからです。その選択は間違っていませんでした。実際、新たな組織知を生み出すためのセンターをつくるといった組織変革コンサルティングに携わることができました。ただ、そこでわかったのは、いくら組織を変えても、ビジネスの目的や意味を変えない限り、人が入れ替わったら組織はすぐ元に戻ってしまうということ。このままコンサルティングを続けていても、本当の成果は上がらないと思いました。

イノベーション・ファシリテーター 野村恭彦さん

そんなとき、デザイン思考で有名な「IDEO」と一緒に組織変革プロジェクトを行うチャンスを得たんです。まだ彼らがデザイン思考を大きく世に打ち出す前でしたが、本当に面白い体験でした。当時のIDEOの圧倒的な強みは、チームで共有するイノベーション・プロセスでした。決して一人ひとりがスーパーな能力を持っているわけではないのですが、集合知のつくり方やファシリテーション手法が素晴らしいから、全員の能力を足したもの以上の成果が発揮できる。たとえば、多くのメンバーが集まって、その場でスケッチをしたりしながら、短時間で山ほどのアイデアを出していくんです。「そうか、こうやって集合知を創るのか!」と感心したのを覚えています。褒め言葉のボキャブラリーが半端なく多かったのも新鮮でした。「それは前髪が吹っ飛ぶほどだね」とか言うんですよ(笑)。笑いの絶えない場でブレインストーミングをして、一気に集合知を生み出していくんです。彼らとのプロジェクトを通して、僕はファシリテーションがイノベーションの本質だということに気づきました。ファシリテーションを使えば、組織だけでなく、ビジネスの目的や意味も変えていけるんじゃないかと思いました。

その後、今度は「GLOCOM」(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)に関わることになりました。というのは、僕は当時、GLOCOMの代表を務めていた宮原明・元富士ゼロックス代表の社外活動のサポートをしていて、あるとき宮原さんに「GLOCOMで社会実験をやってみたら?」と声をかけていただいたんです。それで2006年から、ソーシャルイノベーションの研究をスタートしました。たとえば、社会起業家が抱いている課題を、企業メンバーが企業のなかで解決していけるのかといった実験を進めていきました。この頃、僕は社会起業家こそが社会変革の中心だと考えていて、彼らのメカニズムをいかに企業が取り入れられるか、いかに企業が社会を良くするビジネスを立ち上げられるかに興味があったんです。それができれば、企業のビジネスの目的や意味を根本から変えていけると思ったんですね。

――― その後、野村さんは2012年にフューチャーセッションズを設立しましたが、その経緯はどのようなものでしたか?(賢州)

その数年前に、僕はフューチャーセッションやフューチャーセンターと出会っていて、大きな可能性を感じていましたし、実際に日本でフューチャーセンターを立ち上げるプロジェクトなどを行っていました。それで、ちょうど2011年のクリスマスの頃に、コクリ!プロジェクトにも深く関わっているボブ(ボブ・スティルガーさん/ニュー・ストーリーズ共同代表、社会変革ファシリテーター)と話していたら、「フューチャーセンターが日本に広まらないのは、野村さんが独立しないからだ」と言われたんです。それが独立を決断するに至った一つの大きなきっかけですね。

第1回コクリ!キャンプにて。ボブ・スティルガーさん(写真中央)とともに。

ただ、それ以前にも独立したほうがいいかなと思ったことは何度かありました。たとえば、3.11の後で「ISHINOMAKI 2.0」に関わったとき、彼らの楽しそうな姿と本気度に圧倒されたんです。彼らと同じフィールドで仕事をしなければ、イノベーションから遠ざかると感じました。そのためには独立して、もっと自由にならなければ難しかった。ボブの言葉に加えて、そういった経験も私を後押ししました。

それで2012年5月、僕は会社を辞めて、フューチャーセッションズを立ち上げたんです。

地域の課題がゼロになることはないのだから、 課題解決の「アビリティ」を高めることが大切だ

――― 現在はどのようなことに取り組んでいるのですか?(賢州)

僕は、オットー・シャーマーさんが言っている「社会4.0」、つまり行政(パブリックセクター)、企業(プライベートセクター)、NPO・NGO(ソーシャルセクター)の3つのセクターが融合し、誰もが全体最適を考えて行動する社会がくると信じています。その移行期として、僕は最初、企業がイノベーションの主体者になり、そこに自治体や個人がついていく社会をイメージしていました。それに代わって、GLOCOMを始めた頃には、社会起業家が周囲をリードしていく社会を想定していました。そして現在は、自治体が旗を立てて、そこに企業や個人が寄ってきて、皆でイノベーションを起こすモデルに可能性を感じています。

第2回コクリ!キャンプにて

そのイノベーション・モデルづくりの第一歩として、現在、僕は「渋谷をつなげる30人」プロジェクトに力を入れています。渋谷区に関連する企業、行政、NPO、市民などさまざまなセクターから30名が参加して、渋谷区のさまざまな課題を解決していくチームづくりのプロジェクトです。今、僕が最も興味があるのは、こうした自分たちの課題を解決できる社会のつながりを創ることなんです。

コンサルタントやファシリテーターを長年経験してわかったのは、いつまで経っても課題はなくならないということです。課題が完全になくなる社会や地域や企業など、おそらくどこにもありません。新たな課題は次から次へと出てくるんです。ある課題を解決しきったと思ったら、その解決策自体が新たな課題になることもよくあります。たとえば高度成長期、日本は義務教育が公平に、均等に行き渡るようにしてきました。その結果、今度は「子どもに個性がない」ことが問題になって、今度は個性化教育が目指されてきたわけです。僕たちの社会は、こうしたことの繰り返しなんですね。それに、そもそも僕らは「多様性が大事」と言っている時点で、1つの理想的な社会の形を提示できないんです。一人ひとり求めるものが違うのだから、そのつど社会は形を変えざるを得ないんです。

課題が次々に生まれる社会を生きる上で大事なのは、どのような課題でも自分たちで解決していける「アビリティ」を身につけることです。みんながそれなりに居心地の良い社会を、それぞれの手で創っていけばいいんです。

―― エンプロイメント(仕事があること)ではなく「エンプロイアビリティ(仕事を生み出すこと)」、解決することではなく「解決できる力」が重要なのですね。(直樹)

―― それは大きな見方の転換ですね。(賢州)

自分たちで解決する能力を高めていけば、新たな課題が出てきても困ることはありません。ファシリテーターは、そのアビリティの向上に力を入れればいいんです。その点で、ファシリテーターが地域やチームの役に立つことは明白です。ファシリテーターが得意なのは、一人ひとりの隠された力や強みを引き出していくことですからね。地域の方々が自分たちの力で社会を変革する成功体験を積めるよう、ファシリテーターが彼らの能力を最大化することが大事なんです。

たとえば以前、都庁で少子化問題について話し合う場があったんですが、そこに3回離婚して、7人のお子さんがいる方が参加していたんです。彼女は本当にいろいろと苦労されていました。その体験や見方は、独特で貴重なものだったんです。そこでファシリテーターが力になれるのは、彼女の言葉やエピソードに光を当てて、対話の場を動かし、イノベーションを生み出すパワーに変えていくことです。もちろん、それができるようになるには、ファシリテーター自身も常に研鑽し、多様な価値観、複雑な問題を理解するアビリティを高め続ける必要があります。

その第一歩として、僕は今、渋谷区の30人のつながりを創っています。彼らが渋谷区の課題を自分たちで解決できるようになれば、きっと社会に大きな影響を及ぼすだろうと思います。

――― 野村さんが長く主催してきた「イノベーション・ファシリテーター講座」のほうはいかがですか?(賢州)

イノベーション・ファシリテーター講座では、文字通り数多くのイノベーション・ファシリテーターを育成してきました。僕は、イノベーション・ファシリテーターには2つの能力が欠かせないと考えています。1つは、自らが「イノベーションの旗」「社会変革の旗」を立てる力です。もう1つは、一度旗を立てたら、自分はその旗から離れ、今度は徹底的に一人ひとりに寄り添って、今度は彼らが旗を立てるのをサポートする力です。なぜなら、この2つの力があってはじめて、ファシリテーターは社会を主体的なものに変えていけるからです。イノベーション・ファシリテーター講座では、徹底的にこの2つの力を高めようとしています。

コクリ!2.0にて

それから大事なのは、最初に結果を出すことですね。結局、地域や企業の参加者たちは、結果が出ない限り、イノベーティブ・ファシリテーションのプロセスを心から信じることはありません。ですから、小さくても構わないので、一度しっかりと成功体験を積んでいただくことが大切なんです。僕は「渋谷をつなげる30人」プロジェクトでも、まずは結果を出して、みんなに自信をつけることに力を入れています。

――― 課題だと感じていることはありませんか?(賢州)

行政も、企業も、「働き方」と「生き方」の分離が進んでしまっていることに、大きな問題を感じています。あえて言えば、「生活のデザイン」をしていない方が多いことでしょうか。今、メーカー各社が便利な商品をたくさん作っているのは、作るほうも買うほうも忙しく、生活が疎かになっているからです。メーカーの方々が仕事ばかりしていて、丁寧に家事をしている人の気持ちがわからないから、効率化・自動化ばかり追求するんです。最近、ボタン1つで料理をしてくれる電子レンジが出ていますが、それは料理好きの方からすれば迷惑でしかありません。そういったことがわからないんです。一方で、生活者の生活の質も下がっていると思います。今日、ある方と話をしていて、「駅前にはチェーンのカフェだけでなく、その町ならではのカフェがあるといいですよね」と話したら、「そういった文化って、求められているのかな?」と言うんですね。僕は、こうした「生活も効率的であればいい」という考えがマジョリティになっていることに、危機感を感じています。逆に言えば、今は文化的な成熟に目を向けるチャンスではないかと思いますね。

――― 最終的には、地域をどのような形に変えたいのですか?(賢州)

簡単に言えば、ある地域のなかに住んだり、働いたりする全員が、本当に効力感を持って、活き活きと生活する状態を創りたいんです。誰かが何かを始めたいと思ったとき、何人かに声をかければ、すぐに始められるような地域を実現したいんです。日本人が特に得意なのは、全員で考え、上層部を動かしていくボトムアップのプロセスです。ですから、僕はまず渋谷区で目の前の30人を変えて、「ボトムアップのコレクティブ・インパクト」を形にしたい。それが実現できたら、日本中、世界中にスケールさせることを狙っています。僕としては、「渋谷をつなげる30人」のプロセスで、世界に打って出たいのです。その第一歩として、目の前の30人を本気で変えていこうとしているんです。

――― 自治体のことをここまでポジティブに語る方は、正直初めてお会いしました。驚きました。(直樹)

 

「問題になる前」に取り組んで、世の中の「生きにくさ」を減らしたい――「夢のワーク」と「コクリ!研究合宿」

 

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コクリ!の深い話(13)知性主義と反知性主義を「同根」と捉えない限り、何も解決できないのではないか? ●ドミニク・チェンさん

 

「大きくならない都市をつくることもできるのでは」「ユーザーが場を発酵させて良い状態にしてくれたWebコミュニティをつくった」「精霊の声やものの声は聞こえる人には本当に聞こえている」といったお話を縦横無尽に伺っていきました。

 

コクリ!の深い話(12)AIが「持続可能で幸せに暮らせるのは地方分散型社会」だと予言した ●広井良典さん×日立京大ラボ

 

「AIを活用した未来シナリオ研究」を行っている京都大学教授の広井良典さんと日立京大ラボの加藤猛さん、福田幸二さんに、「日本の破局を防ぐには、10年ほどで“持続可能性の高い地方分散シナリオ”に持っていく必要がある」というお話を伺いました。

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