• 2018/06/18
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by KENICHI AIKAWA

いけばなの美や調和を通して、分断や対立の解決の糸口が見えてくるのではないか――「SPTいけばな」とは?

コクリ!が新たに開発した「SPTいけばな」は、参加者が「システムセンシング」するための有効で画期的なプログラムです。

2017年3月の「GI探究ジャーニー@東京」で、コクリ!プロジェクトは「SPTいけばな」という世界初の試みを行いました。その狙いは何だったのか。実際にやってみてどうだったのか。これからどう展開していこうと考えているのか。研究チームのけんしゅうさん(嘉村賢州さん)とまゆかさん(山崎繭加さん)に伺いました。

 

※インタビュー:米川青馬

左脳のスイッチを切るためにいけばなは効果的だと思った

―― まず「SPTいけばな」とはいったい何なのか、簡単に説明してください。

賢州 SPTいけばなとは、文字通り、「SPT(ソーシャル・プレゼンシング・シアター)」と「いけばな」を組み合わせたものです。SPTは、以前にこちらの記事で詳しく説明しましたが、何人かの参加者がそれぞれの役を持ち、言葉を一切使わずに、体の動きだけである状況について演劇的に表現していくワークです。体で表現することで、いまコミュニティでどのようなことが息づいているか、言葉にならない何かがどんなふうに現れているかを映し出していくんです。SPTでは自分たちの体を使うわけですが、体の代わりに花を使っていけばなをするのが、SPTいけばなです。もちろん、こんなことをしたのは僕たちが初めてです(笑)。

SPTいけばなの様子

―― なぜ、SPTいけばなをしようと思ったのですか?

賢州 GIを探求していく上では、言葉によって明晰にシステムを考えていく「システムシンキング」ではなくて、システムを感じる「システムセンシング」のアプローチが効果的だと考えています。それで、何かシステムセンシングの新しい方法を開発したい、というのが出発点でした。そこに、いけばなの師範をしているまゆかさんが、新たに研究チームに加わってくださったんです。彼女の力を活かしていただこうということで、いけばなワークの開発が始まりました。

まゆか 私は私で、建長寺のコクリ!キャンプに参加させていただいた経験から、コクリ!といけばなは相性が良いんじゃないかと思っていました。私は普段、いけばなの師範として「IKERUプログラム」をさまざまな場で提供していて、その一環で、何人かでチームを組んで花をいけていく「チームいけばな」をよくやっています。私は最初、このチームいけばなをやった上で身体ワークをやってみたら面白いんじゃないかと提案したんですが、その提案が、最終的には思いもよらないような形になっていったんです(笑)。

SPTいけばなの様子

賢州 実は、レゴを使ったり、粘土を使ったりするワークは以前に何度も試しているんですが、それでもなかなか、みんなを分析思考から離すことができません。どうしても、周囲を驚かせるようなものやすごいものをつくろうとして、レゴや粘土を左脳で組み立ててしまうからです。僕ら研究チームとしては、何とかして参加者の左脳のスイッチを切って、右脳で感じながらワークをしてもらいたいんです。その点、いけばなは優れたツールじゃないかと感じました。どうしてかというと、美や調和に向けて、無心にいけていくものだからです。まゆかさんがよく言っているのですが、いけばなをする上では、「花に聞く」「花からメッセージをもらう」必要があります。だから、驚くようなものをつくろうといった意志が入り込みにくいんですね。これなら、システムセンシングしやすいのではないかと感じました。

まゆか 確かにそうですね。いけばなは身体知のアートで、自分の体が花に動かされていって、気づいたらできているものなんです。そして、完成したときには心が整います。その意味で、いけばなはヨガや瞑想に近いんですね。ただ、それらよりもさらに能動的で、コクリ!に適していると思います。

賢州 あと、身体ワークの場合は、気恥ずかしいと感じる参加者や、体を動かすのが苦手な参加者が一定数いるんですが、いけばななら、そうしたことも起きにくいと思いました。

SPTいけばなの様子

1回目は花でケースの問題構造を表現し、2回目は美しさと調和を追求して作品をつくる

―― どのようなプロセスで「SPTいけばな」が完成したんですか?

賢州 最初は、それぞれの花にキーワードを託して、それを組み合わせて作品を創る「GIいけばな」というぜんぜん違うワークをつくろうとしていました。良いアイデアだと思ったんですが、自分たちで試してみたら、全然面白くなかった(笑)。それで、いつの間にか「SPTいけばな」のアイデアが出ていたんです。

けんしゅうさん(嘉村賢州さん)

まゆか 私は、GIいけばなについて話し合ったときにはいたんですが、試したときにはいなかったので、SPTいけばなのアイデアが出た経緯は知らないんです。ただ、GIいけばなもSPTいけばなも、アイデアを聞いたときには驚きました。というのは、華道界では「チームいけばな」ですら相当アバンギャルドな試みで、私以外にやっている人はいないんです。だから、そこまでいけばなを応用できるんだ!という驚きがありました(笑)。

賢州 SPTいけばなは、自分たちのトライアルでも面白いと思いました。これなら大丈夫だという感じがありましたよね。

まゆか そうですね。試行錯誤はありましたけどね。最初は、たくさんの花を用意して、そのなかから花を選ぶというアイデアだったんですが、それは普通のいけばなでも難易度が高く、いけばな経験のない皆さんがいきなり挑戦するのは大変なんです。かといって、実は花が少ないのも難しい。結局、「4種類・7本」に落ち着きました。

まゆかさん(山崎繭加さん)が2回目の最後に、各作品に師範として手を入れた

―― それでは、SPTいけばなの具体的な手順を皆さんに教えてください。

賢州 手順を追って説明しますね。

(1)今回の「GI探究ジャーニー@東京」の参加者は、全員がいけばなの素人でしたから、まずは「チームいけばな」に挑戦し、まゆかさんからいけばなの基本を習いました。

(2)その上で、SPTいけばなは、2回に分けて行いました。1回目は、チーム内の誰かのケースを取り上げて、そのケースで起こっている問題の構造を、花を使って表現してもらいました。たとえば、次の記事で紹介するタケイさん(武井浩三さん)のケースでは、「タケイさんが代表取締役を務めるダイヤモンドメディアの新規事業が行き詰まっている」という課題について、「桜=タケイさん」「ピンクマム大=プロジェクトマネージャー(新規事業を仕切るメンバー)」というように、それぞれの花にロールを与えて、花をいけた場所やいけかたで関係性を表現してもらいました。いけばなのルールをいったん忘れて、ケースの問題構造を表現することに無言で集中してもらいました。

(3)その上で、2回目は、今度は1回目を横に置いて、あくまでも美しさと調和を大事にしながら、全員で改めて花をいけてもらったのです。

まゆか ちなみに、私は「師範」として参加して、皆さんに基本を教えたり、最後に手直しをしたりする役に徹しました。参加者にならなかったのは、私はもうずっと花をいけてきたので、ロールになりきれないと思ったからです。

まゆかさん(山崎繭加さん)が2回目の最後に、各作品に師範として手を入れた

SPTいけばなを海外に輸出できたら

―― 「GI探究ジャーニー」で実際にやってみて、いかがでしたか?

賢州 想定以上に面白かったですし、参加者の皆さんも楽しんでいたように見えます。SPTいけばながSPTと大きく違うのは、美や調和を意識することだと思います。たとえば、どの花も否定されないんですよ。皆さんのチャレンジを見ていたら、いけばなの美や調和を通して、分断や対立の解決の糸口が見えてくるのではないかという気がしました。それに、ユングの箱庭療法と同じで、状況を外在化するだけで気づくことが多いんだと思います。

SPTいけばなの作品の1つ(2回目完成時)

まゆか 私もうまくいったように見えました。特に素晴らしいと思ったのは、どなたも本当に集中して取り組んでいて、1回目と2回目の切り替わりが速かったこと。それから最終的に、いけばな的に見ても面白い作品ができ上がったことです。どれもいままでにないタイプの作品なんですけど、それぞれステキでした。チームいけばな以上の驚きがありましたね。これは一種の「イノベーション」かもしれません。何か面白い扉が開いたんじゃないかと感じています。その扉が何なのかは、まだよくわからないんですが。

SPTいけばなの作品の1つ(2回目完成時)

―― これからどう展開していきたいですか?

賢州 実用化に向けては、さらなるつくりこみが必要です。たとえば、師範がいなくてもできるミニマムパッケージを構築できたら、広めやすくなりますよね。そうしたことも試していきたいと思っています。あと、どういったときにいけばなワークを使うのがよいかといったことも見極めたいですし、新たなワークの開発にも向かいたいと思っています。

まゆか 私は、『学習する組織』のピーター・センゲや『U理論』のオットー・シャーマーのような方々に、SPTいけばなをぜひ紹介したいですね。日本はいつも輸入するばかりですから、たまには輸出できたらと思っています。そして、彼らがどう感じるかを聞いてみたい。これは普通にいけばなを世界に広めるのとは違うことです。私は、単なるいけばなではなく、「学びのツールとしてのいけばな」を世界に広めたいんです。ただ、さっきも言いましたけど、SPTいけばなの学びが何なのかは、まだよくわからないんですけどね(笑)。それから、SPTいけばなの場合、自然のなかから花や草を持ってきて、それをいけるのが面白いんじゃないかという気がしています。その方法がうまくいけば、プログラムはもっとクリエイティブになるはずです。

 

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